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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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108/120

一葉の精一杯

第108話です。宜しくお願い致します。


 コン太、今井翔太、今井恭太の三人は、中央会館の入口前に立っていた。

 東京へ戻って来られた。

 それだけなら、本来は安心できるはずだった。

 だが、今の中央会館は安全だとは言い切れない。

 悠真は桜井に支配されている。

 その悠真のスキルによって生み出された召使い組は、桜井には操られていない。

 しかし、悠真の命令には逆らえない。

 チャン爺がそう教えてくれた。

 つまり、一葉、二葉、三葉も同じ状態のはずだった。

 味方であって、完全な味方として動けない。

 その難しさを、コン太は理解していた。


 ◇


 コン太は入口の前で足を止め、今井兄弟を振り返った。

「二人は一旦、入り口にいるコン」

 今井翔太が首を傾げる。

「どうしてだ?」

「どこで、誰がいるか分からないコン……」

 コン太は中央会館の中を見た。

 いつもなら、ここは悠真たちの拠点だった。

 安心できる場所。

 帰ってくれば、誰かがいる場所。

 美咲が笑っていて、浮田がぼやいていて、芹沢が妙なテンションで話しかけてくる場所。

 だが、今は違う。

 そのほとんどが、桜井に奪われた。

「それに、一葉達メイド達も操られていないとは言え、悠真の指示で何か言われてないとも限らないコン!」

 今井翔太の表情が引き締まる。

「分かった」

 今井恭太も頷く。

「気をつけろよ、コン太」

「任せるコン」

 コン太は小さく頷き、中央会館の中へ入った。


 ◇


 足音を殺す。

 耳を澄ませる。

 廊下の先に誰かいないか、気配を探る。

 いつもの中央会館なのに、まるで敵地へ忍び込んでいるようだった。

 入口を抜けてすぐの場所に、一葉が立っていた。

 姿勢はいつも通り綺麗だった。

 背筋を伸ばし、手を前で揃え、静かに佇んでいる。

 だが、表情には明らかな不安が浮かんでいた。

 一葉はコン太を見ると、わずかに目を細める。

「コン太様、よくご無事で帰って来られましたね……」

 その声には、心からの安堵があった。

 コン太は一歩近づく。

「一葉も操られてはないんだコンね?」

 一葉は静かに頷いた。

「はい、しかし悠真様の指示に逆らう事は出来ません」

「……知ってるコン」

 コン太は小さく答えた。

 チャン爺から聞いていた。

 だから驚きはしない。

 けれど、実際に一葉の口から聞くと、その重さがよりはっきりした。

 一葉は味方だ。

 だが、もし悠真に命じられれば、敵として動かざるを得ない。

 一葉自身も、それを苦しんでいるようだった。


 ◇


 一葉は少しだけ声を落とす。

「ですから、もし悠真様達を助けるのであれば、私や二葉、三葉には見せない、知らせないの徹底をお願いします」

 コン太は目を見開いた。

 一葉は続ける。

「知らない事は、私達も報告出来ませんので……」

 その言葉に、コン太は息を呑んだ。

 味方だからこそ、知らせてはいけない。

 知れば、悠真に命令された時に話してしまう。

 いや、話さざるを得なくなる。

 ならば、一葉たちを守るためにも、自分たちの作戦を隠さなければならない。

「分かったコン……!」

 コン太は真剣に頷いた。

 一葉は少しだけ安心したように息を吐く。

 そして、周囲を確認してから、さらに声を落とした。

「それと、私はたまたまドア越しで、ルドルフ様、浮田様、影山駿様が話をして居られるのを聞いたのですが……」

 コン太の耳がぴくりと動く。

「浮田様の手術室スキルで、桜井様のスキルの支配から解放されると聞きました」

 その言葉に、コン太は思わず大きな声を出しそうになった。

 慌てて自分の口を押さえる。

 そして、必死に声を抑えながら聞き返した。

「本当だコンか?!」

 一葉ははっきりと頷く。

「はい、本当です!」

 その表情が、ほんの少しだけ明るくなる。

 ずっと不安そうだった一葉の顔に、わずかな笑みが浮かんだ。

 コン太の胸にも、熱が灯る。

 それは、初めて見えた明確な希望だった。

 どうすれば悠真たちを戻せるのか。

 それが分からなかった。

 桜井の支配が強すぎて、何をすればいいのか見えなかった。

 だが、浮田の《手術室》で解除できる可能性がある。

 それなら、やるべきことが見えてくる。

「これで、悠真達をスキルから解放出来る希望が見えたコン!」

 コン太は一葉を見上げる。

「ありがとうだコン!」

 一葉は静かに首を横に振った。

「いえ、これくらいしか私には出来ませんので……」

 その声には悔しさがあった。

 もっと助けたい。

 けれど、動けない。

 だから、知っていることだけを伝える。

 一葉にできる最大限が、それだった。


 ◇


 一葉はさらに続ける。

「それと、先程も言いましたが、話していたのは浮田様、ルドルフ様、影山駿様でございます」

「影山……」

「はい」

 一葉は頷いた。

「流れから推測するに恐らく、浮田様が影山駿様の治療でスキル解放が明らかになって、ルドルフ様が真実か嘘かを調べたと思われます」

 コン太はすぐに意味を理解した。

「……という事は」

 一葉が答える。

「はい、影山駿様も解放されていると思われます」

 影山駿。

 SPМの影撃隊隊長。

 陸斗と阿川を追い詰めた男。

 その影山が、桜井の支配から解放されている。

 もしそれが本当なら、かなり大きい。

 影山はSPМ内部のことを知っている。

 桜井の周辺の配置も、隊長たちのスキルも、建物の構造も知っているはずだ。

「じゃあ……」

 コン太が何かを言いかける。

 しかし、一葉がその言葉を遮った。

「その先、何をするかを私に知らせてはなりませんよ!」

 コン太は、はっとする。

「そうだったコン!」

 一葉は真剣な顔でコン太を見ている。

 彼女は聞きたいはずだった。

 何をするのか。

 どうやって悠真たちを助けるのか。

 けれど、聞いてはいけない。

 知れば、報告してしまうかもしれないから。

 コン太は深く頷いた。

「改めてありがとうだコン」

 そして、少しだけ明るい声で言う。

「ちょっとどこかに行ってくるコン!」

 一葉はそれ以上聞かなかった。

 ただ、丁寧に頭を下げる。

「はい、くれぐれも気を付けて行ってらっしゃいませ……」

 コン太は一葉にもう一度頷き、中央会館の入口へ戻った。


 ◇


 外で待っていた今井翔太と今井恭太は、戻ってきたコン太を見てすぐに駆け寄った。

「大丈夫だったか?」

 翔太が聞く。

 コン太は頷いた。

「大丈夫だったコン」

 そして、一葉から聞いた内容を二人へ話した。

 浮田の《手術室》で、桜井の支配から解放できる可能性があること。

 それをルドルフが《真実の口》で確認したと思われること。

 影山駿も、支配から解放されている可能性が高いこと。

 そして、一葉たちには今後の作戦を見せても知らせてもいけないこと。

 全てを聞き終えた今井翔太は、思わず息を吐いた。

「流石、浮田さん……」

 今井恭太も大きく頷く。

「俺達の時も呪いを跳ね返してたし、スキル支配も解けるなんて……」

 コン太はなぜか胸を張った。

「浮田は凄いコン!」

 その様子に、今井翔太が少しだけ呆れる。

「何でコン太が威張ってるんだよ」

「ふふん、仲間が凄いのはオイラも凄いって事だコン!」

「それは違うだろ」

 今井恭太が思わず笑う。

 コン太も、翔太も、少しだけ笑った。

 久しぶりに、ほんの少しだけ空気が緩んだ。

 悠真たちが操られた。

 浮田も、ルドルフも、芹沢も、阿川も、色谷も。

 陸斗も未来も捕まっている。

 状況は最悪だった。

 それでも、救えるかもしれない。

 その希望が見えたからこそ、三人は一瞬だけ笑うことができた。


 ◇


 しかし、すぐにコン太は表情を引き締める。

「じゃあ、先ずは早速話も聞きに行きたいし、影山の元まで行くコン!」

 翔太と恭太が頷く。

 三人は中央会館の中へ入り、影山駿がいる部屋へ向かった。

 一葉には見られないように。

 二葉、三葉にも知らせないように。

 慎重に廊下を進んでいく。

 やがて、目的の部屋の前へ着いた。

 中には、影山駿がいた。

 ベッドの上で身体を起こしている。

 足は治療されていたが、まだ本調子ではないようだった。

 影山は扉が開く音に反応し、顔を向ける。

 そこに入ってきた三人を見て、最初に目を止めたのはコン太だった。

 小さな身体。

 大きな耳。

 尻尾。

 影山の目がわずかに見開かれる。

 コン太が先に口を開いた。

「お前が影山駿だコン?」

 影山は、少しだけ固まった。

「キツネが喋った?」

 そして、警戒するように眉をひそめる。

「お前はモンスターか?!」

 コン太はすぐに胸を張った。

「違うコン!」

 尻尾を揺らしながら言う。

「フォック族のコン太だコン!」

 今井恭太が横で苦笑した。

「まぁ、初めては誰だってそうなるよな……」

 今井翔太は影山の警戒を解くように一歩前へ出た。

「俺の名前は今井翔太」

 そして隣を指す。

「こっちは弟の今井恭太」

 今井恭太が軽く頭を下げる。

「宜しく」

 翔太は次にコン太を指した。

「で、こっちの喋るフォック族がコン太」

 コン太が反射的に口を開く。

「だからフォック族じゃなくて、キツネ……」

 言いかけて、ぴたりと止まった。

「あっ……」

 自分で言ってから気づいた。

 完全におかしな流れに乗せられていた。

 コン太は翔太を見上げる。

「騙したコンね?!」

 今井恭太がすぐに突っ込む。

「あれは騙してないだろ……」

 今井翔太も苦笑する。

「見た通り、無害だ」

 影山は、コン太をしばらく見ていた。

 初めて見る生物を見るような目だった。

 だが、少なくとも敵意はない。

「あぁ、そうみたいだな……」

 影山は小さく頷く。


 ◇


 コン太は咳払いした。

「茶番は置いとくコン!」

「自分で乗ってたけどな」

 恭太の小さなツッコミは無視した。

 コン太は真剣な顔で影山を見る。

「オイラ達は、東京に住んでいる住民で悠真達の仲間だコン!」

 影山の表情が少し変わる。

「SPМの情報には、お前達の名前は無かったが……」

 コン太はすぐに胸を張った。

「オイラ達は秘密兵器だコン!」

 今井翔太が横から冷静に言う。

「いや、単純にリストにする程でも無かっただけじゃないか……?」

「……そんな事はどうでもいいコン」

 コン太は少しだけ視線を逸らした。

 そして、すぐに本題へ戻る。

 三人は影山に、これまでの出来事を話した。

 悠真たちが桜井に支配されたこと。

 チャン爺や一葉たちは桜井には操られていないが、悠真の命令には逆らえないこと。

 そして、コン太だけが桜井の支配をすり抜けたこと。

 影山は、話を聞くにつれて顔色を変えていった。

「そんな……」

 声に、怒りと悔しさが混ざる。

 そして、すぐに言った。

「俺にも救出を手伝わせてくれ!」

 コン太たちは影山を見る。

 影山はベッドの上で拳を握りしめていた。

「俺はお前達は勿論、沢山の人に酷い事をしたんだ」

 その声には、誤魔化しがなかった。

「許されるとは全く思っていないが、皆を助けたい……」

 影山は浮田に治療された足へ視線を落とす。

「それに、浮田にも助けられたこの身体を、どうか囮でも何でも使ってくれないか?」


 ◇


 コン太はすぐに頷きかけた。

 だが、その前に今井翔太が手を出して止めた。

「ちょっと待ってくれ!」

 影山が翔太を見る。

「その前に、スキルで確認したい」

 コン太が首を傾げる。

「確認だコン?」

「あぁ」

 翔太は影山へ向き直る。

「スキル、水晶玉」

 その瞬間、翔太の目に変化が現れた。

 瞳の黒い部分が薄れていく。

 白く、透き通るように変わる。

 まるで目そのものが水晶になったかのような、不思議な光を宿した。

 コン太はその変化を見て、思わず息を呑む。

 本物の《水晶玉》。

 昨日、コン太が必死に真似たスキル。

 だが、本物はまるで違う。

 翔太は影山をじっと見た。

 目に映る情報を読み取る。

 名前。

 種族。

 スキル。

 そして状態。

 しばらくして、翔太は小さく息を吐いた。

「今、状態は正常になっている」

 部屋の空気が変わる。

「スキルによる支配はされていない」

 コン太の顔が明るくなった。

「そういえば、状態も分かるんだった……」

 そして、感心したように翔太を見る。

「本当に改めて凄いスキルだコン……!」

 翔太は少しだけ照れたように目を逸らす。

 影山は、翔太とコン太を順に見た。

「支配されていない俺に、お前等を陥れる理由はない……」

 そして、深く頭を下げる。

「頼む!!」


 ◇


 コン太は、影山をまっすぐ見た。

 影山が過去にしたことが消えるわけではない。

 東京を襲った。

 阿川と陸斗を追い詰めた。

 SPМの隊長として、桜井の支配下で多くの人を苦しめた。

 だが、今の影山が嘘を言っていないことは、翔太のスキルで確認できた。

 それに、救出には力が必要だった。

 桜井は強い。

 周囲には支配された悠真たちがいる。

 正面から挑めば、勝てる相手ではない。

 なら、使える力は必要だ。

 コン太は強く頷いた。

「分かったコン!」

 尻尾が力強く揺れる。

「この四人で、何とか助けるコン!」

 今井翔太も頷く。

「やろう」

 今井恭太も拳を握った。

「絶対に助ける」

 影山も、静かに頷いた。

 こうして、救出班は四人になった。

 コン太。

 今井翔太。

 今井恭太。

 そして、影山駿。

 失敗は許されない。

 悠真たちを助けるために。

 桜井の支配を破るために。

 四人は、入念に作戦を立て始めた。



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