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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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105/121

コン太だけが知っている(後編)

第105話です。宜しくお願い致します。


 配管の中は、いつも通り短かった。

 阿川の《配管工》は、一度行った場所へ繋げることができる。

 だから、中央会館からSPМ本部へ向かう距離も、実際に歩くよりずっと短く済む。

 浮田は配管の中を進みながら、軽く肩を回した。

 さっきまで治療続きだった。

 正直、身体は疲れている。

 けれど、影山駿の支配が解けた可能性がある。

 ルドルフの《真実の口》でも、それが真実だと証明された。

 これは大きい。

 桜井を捕らえた今、この情報を悠真たちへ伝えれば、SPМの隊員たちを一気に救えるかもしれない。

 その可能性があるだけで、浮田の足取りは自然と速くなっていた。

 ルドルフも、どこか安心したような顔をしている。

 芹沢は相変わらず余裕の笑みを浮かべていた。

 そして、その隣には今井翔太の姿をしたコン太がいる。

 外見は完全に翔太だった。

 だが、中身はコン太である。

 本人も、まだその姿に慣れていないのか、時折自分の手や身体を見下ろしていた。

「本当にちゃんと翔太君だねぇ♡」

 芹沢が楽しそうに小声で言う。

「何度も見なくていいよ……」

 翔太の姿のコン太が、少し困ったように答える。

 やはり語尾は出ない。

 《化けぎつね》の効果で、話し方まで自然に補正されている。

 それが少し奇妙で、少し心細かった。

 だが、その違和感を深く考える間もなく、配管の出口が見えてきた。

 阿川が先に出る。

 続いて浮田、ルドルフ、芹沢、そしてコン太が配管から外へ出た。

 そこで、浮田はすぐに眉をひそめる。

「……ん?」

 そこは、会議室ではなかった。

 広さはそれなりにある。

 だが、悠真たちが戦っていた会議室とは明らかに違う。

 机もない。

 椅子もない。

 戦闘の跡もほとんどない。

 まるで、誰かを呼び込むために用意された別室のようだった。

 浮田が阿川の方を見る。

「おい、阿川。ここ、会議室じゃなくないか?」

 阿川は何も答えなかった。

 その沈黙に、浮田の胸がざわつく。

 ルドルフも、すぐに異変を察した。

「阿川さん……?」


 ◇


 その時だった。

 部屋の奥から、穏やかな声が響いた。

「やぁ、はじめまして!」

 浮田たちの視線が、一斉にそちらへ向かう。

 そこに立っていたのは、一人の男だった。

 柔らかそうな笑み。

 落ち着いた声。

 だが、その目の奥には、相手を人として見ていないような冷たさがある。

 浮田は、その顔を直接見たことはない。

 だが、話では聞いていた。

 SPМを狂わせた中心人物。

 特殊隊隊長。

 桜井晴彦。

 桜井は、楽しそうに微笑んだ。

「私は桜井晴彦」

 浮田の背筋に冷たいものが走る。

 捕らえたはずではなかったのか。

 桜井は捕らえたから、みんなで来てほしい。

 そう聞いていた。

 なのに、目の前の桜井は縛られてもいない。

 自由に立っている。

 ルドルフが息を呑む。

「どういう事ですか、阿川さん……?」

 ルドルフが後ろを振り向いた。

 その瞬間。

 背後に、門脇がいた。

 門脇の手には、小さなカプセル。

 ガチャガチャの景品に入っているような透明なカプセル。

 それが、一つ投げられる。

 狙いはルドルフ。

「っ……!」

 ルドルフは反応しようとした。

 だが、間に合わない。

 カプセルがルドルフの身体に当たる。

 次の瞬間、ルドルフの身体が一瞬で縮み、カプセルの中へ吸い込まれた。

「ルドルフ!」

 浮田が叫ぶ。

 しかし、続けてもう一つのカプセルが投げられた。

 今度の狙いは浮田。

 浮田はとっさに横へ避けようとする。

 だが、門脇の投げたカプセルは、わずかに軌道を変えたように浮田へ向かう。

 肩に当たる。


「しまっ――」


 言葉は最後まで続かなかった。

 浮田の身体もまた、小さく縮み、カプセルの中へ閉じ込められる。

 二つのカプセルが床に転がった。

 中には、浮田とルドルフ。

 反撃する隙すら与えられなかった。


 ◇


 芹沢が目を見開く。

「ちょっと……!」

 翔太の姿をしたコン太も、思わず身構えた。

 だが、次の瞬間、二人の前に人影が現れる。

 チャン爺だった。

 いや、正確には二人のチャン爺。

 《一卵性兄弟》によって分かれた二人のチャン爺が、それぞれ芹沢とコン太の前に立っていた。

 仕込み杖から伸びた刃が、二人の喉元へ突きつけられる。

 芹沢の表情が固まった。

 コン太も、翔太の顔のまま動けなくなる。

「チャン爺、どういう事?」

 コン太は動揺していた。

 本来なら、語尾に「コン」が出るはずだった。

 だが、今は今井翔太の姿になっている。

 《化けぎつね》の効果で、言葉まで自然に補正されている。

 チャン爺は、苦しそうに眉を下げた。

「すいません……今井様、芹沢様」

 その声には、確かに申し訳なさがあった。

「わたくしも、こんなマネをしたくはないのですが……」

 だが、刃は下げられない。

 その姿を見て、芹沢の表情が変わる。

 これは、チャン爺の意思ではない。

 そう感じたのだ。


 ◇


 次に、扉が開いた。

 入ってきたのは、悠真と色谷だった。

 悠真は普段と同じ姿をしている。

 だが、目が違っていた。

 穏やかなようで、冷たい。

 仲間を見ている目ではない。

 悠真はチャン爺を見て、軽く頷く。

「チャン爺、よくやった」

「……ありがとうございます」

 チャン爺が静かに答える。

 悠真の視線が、芹沢からコン太へ移った。

 今井翔太の姿をしたコン太を見て、悠真はわずかに眉をひそめる。

「……? 何故、今井兄が居るんだ?」

 その言葉に、コン太の心臓が跳ねた。

 気づかれていない。

 悠真は、目の前にいるのがコン太だと分かっていない。

「まぁいい」

 悠真はすぐに興味を失ったように言った。

「そのまま桜井総督府様の目の前まで連れて行け」

 桜井総督府様。

 悠真の口から、その言葉が出た。

 芹沢の顔から血の気が引く。

 コン太も、息を呑んだ。

 悠真が、そんな呼び方をするはずがない。

 少なくとも、いつもの悠真なら絶対に。

 チャン爺は苦しそうに目を伏せる。

「……かしこまりました」

 二人のチャン爺は、芹沢とコン太を刃で脅したまま、桜井の前へ連れて行く。

 門脇も、床に転がった二つのガチャカプセルを拾い上げた。

 その中には、浮田とルドルフ。

 東京側にとって、今最も重要な二人が閉じ込められている。

 門脇は二つのカプセルを持ち、桜井の前まで歩いていった。

 桜井は満足そうに笑っていた。

「順調だね」

 その声には、余裕しかなかった。


 ◇


 門脇が、桜井の前でカプセルを一つずつ床に置く。

 そして、解除した。

 まず、浮田。

 次に、ルドルフ。

 二人の身体が元の大きさへ戻る。

 解放された瞬間、浮田はすぐに動こうとした。

「くそっ……!」

 ルドルフも、桜井へ視線を向ける。

 だが、その一瞬前に、色谷が動いていた。

「スキル、ボウリング場」

 床にレーンが展開される。

 浮田とルドルフの足元が固定された。

 まるで、見えない力でその場に縫い付けられたように、二人は動けなくなる。

「色谷、お前……!」

 浮田が叫ぶ。

 色谷は何も答えない。

 表情に感情は薄い。

 ただ、桜井の命令を遂行している。

 ルドルフが顔を歪める。

「まさか、悠真さんだけではなく……!」

 その言葉が終わる前に、桜井が近づいた。

 浮田とルドルフの背中へ、それぞれ手を置く。

 桜井は穏やかに唱えた。

「スキル、天上天下唯我独尊」

 桜井の手元に、織田家の家紋が描かれたワッペンが現れる。

 まず一つが、浮田の身体へ吸い込まれた。

「っ……!」

 浮田の目が見開かれる。

 続けて、ルドルフにもワッペンが貼られる。

 それは同じように身体へ沈み込んでいった。

 ルドルフの表情が歪む。

 抵抗しようとしている。

 だが、すぐにその表情から力が抜けていく。

 浮田も同じだった。

 二人の目から、強い拒絶の色が薄れていく。

 桜井は楽しそうに二人を見る。

「これで君達も、私の仲間だ」

 浮田はゆっくりと顔を上げる。

「……はい」

 ルドルフも、静かに頷いた。

「分かりました」


 ◇


 芹沢は、その光景を見て唇を噛んだ。

 ついさっきまで、洗脳を解除する可能性を持っていた二人が、今度は支配されてしまった。

 希望だったはずのものが、目の前で奪われた。

「悠ちん……」

 芹沢は、悲しそうに悠真を見た。

「洗脳されてしまったのね……」

 悠真は、首を傾げる。

「洗脳?」

 その表情には、本気で意味が分からないというような色があった。

「桜井総督府様の命令が正しいから、それに従っているだけだぞ」

 芹沢の顔がさらに歪む。

 悠真は続けた。

「お前等は優秀だからな……!」

 それは、褒め言葉のようで、まったく違った。

「桜井総督府様の仲間になっていい許可が下りたんだ」

 悠真は当然のように言う。

「感謝しろよ」

 芹沢は何も言えなくなった。

 何を言っても、今の悠真には届かない。

 そう分かってしまった。

 コン太も、翔太の姿のまま黙っていた。

 怖い。

 目の前にいるのは悠真なのに、悠真ではない。

 声も、顔も、仕草も同じ。

 だが、中身だけが何かに塗り替えられている。

 チャン爺の刃が喉元にある。

 逃げることはできない。


 ◇


 桜井が芹沢へ近づく。

 芹沢は抵抗しなかった。

 いや、できなかった。

 チャン爺の刃がある以上、少しでも動けば危険だった。

 桜井がワッペンを芹沢へ貼る。

「スキル、天上天下唯我独尊」

 ワッペンが芹沢の身体へ吸い込まれた。

 芹沢の目が揺れる。

 唇が震える。

 だが、すぐにその表情が静かになっていく。

 次に、桜井はコン太へ向き直った。

 いや、桜井の目には今井翔太として映っている。

 桜井は少し首を傾げる。

「君のことは詳しく知らないが……まぁ、使える人材なら歓迎しよう」

 コン太の喉が鳴る。

 今は翔太の姿。

 でも、中身はコン太。

 ばれたら終わりだ。

 そう思うのに、動けない。

 桜井がワッペンを取り出す。

「スキル、天上天下唯我独尊」

 ワッペンがコン太の胸元へ貼られた。

 そして、身体へ吸い込まれる。

 コン太は思わず目を閉じた。

 怖かった。

 悠真も、浮田も、ルドルフも、芹沢も、このスキルで変わってしまった。

 自分も、そうなる。

 桜井総督府様と呼ぶようになる。

 悠真たちを助けたいと思えなくなる。

 そう思った。

 だが。

 何も起きなかった。

 頭の中に、命令が流れ込んでこない。

 身体も縛られない。

 思考も変わらない。

 桜井を正しいとも思わない。

 ただ、胸元にワッペンが吸い込まれた感覚だけが残った。

 コン太は、目を開ける。

 目の前には桜井。

 周囲には、支配された仲間たち。

 だが、コン太だけは変わっていなかった。

 それでも、コン太はすぐに顔に出さなかった。

 今、ここで驚けばバレる。

 だから、周りに合わせるように、黙って立っていた。


 ◇


 桜井は満足そうに全員を見渡す。

「これで、東京は我々のものだ……」

 桜井の声が部屋に響く。

 そして、桜井は悠真を見る。

「いや、君と私が居れば、東京だけではなく、この国が支配出来るだろう……」

 悠真は静かに頷く。

 桜井は笑みを深めた。

「この腐りきった世界を変えるのが楽しみだ……」

 その言葉は、希望を語るものではなかった。

 支配を語る言葉だった。

 人を人として見ず、使える者と使えない者に分ける。

 自分に従う者だけを価値ある存在として扱う。

 その思想が、言葉の端々に滲んでいる。

 桜井は満足そうに手を叩いた。

「今夜は祝勝会だ」

 その言葉に、コン太の背筋がぞわりとした。

 仲間たちを支配した直後に、祝勝会。

 異常だった。

 だが、支配された者たちは誰も疑問を持たない。

 桜井は続ける。

「悠真以外のみんなは部屋を用意しているから、ゆっくり休んでいてくれ」

 その場にいた者たちが、一斉に返事をした。

「はい」

 浮田も。

 ルドルフも。

 芹沢も。

 阿川も。

 色谷も。

 チャン爺も。

 皆が同じように返事をする。

 コン太も、遅れないように口を開いた。

「はい」

 語尾は出ない。

 今井翔太の姿だからだ。

 そのことが、今だけはありがたかった。

 もし普段の姿なら、動揺して「コン」と言ってしまったかもしれない。

 桜井は満足したように頷く。

「悠真、行こうか」

「あぁ」

 悠真は迷いなく答える。

 そして、桜井と共に部屋を出ていった。

 扉が閉まる。

 部屋の中には、支配された仲間たちが残された。

 全員が桜井の洗脳に侵されてしまった。

 悠真。

 陸斗。

 未来。

 浮田。

 ルドルフ。

 阿川。

 芹沢。

 色谷。

 チャン爺。

 犬飼。

 門脇。

 そして、コン太。

 そう思われていた。

 ただ一人を除いては。


 ◇


 今井翔太の姿をしたコン太は、周囲に合わせながらも、心の中で必死に息を整えていた。

 誰にも気づかれてはいけない。

 バレたら終わりだ。

 けれど、確かに分かる。

 自分の中に、桜井への忠誠心は生まれていない。

 桜井総督府様などと、心から思っていない。

 悠真を助けたい。

 みんなを助けたい。

 その気持ちは消えていない。

 コン太は、静かに目を伏せた。

「俺だけ、何もなってない……」

 声に出してから、一瞬だけ自分の言葉に違和感を覚えた。

 今は今井翔太の姿だから、言葉まで変わっている。

 でも、心の中の自分はコン太のままだ。

 コン太は、心のなかで、小さく呟いた。

「オイラだけ、何もなってないコン……」

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