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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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102/119

手術室に落ちた支配(前編)

第102話です。宜しくお願い致します。



 東京のライブステージで影山駿を拘束したあと、陸斗と阿川はすぐに中央会館へ戻った。

 影山はロープで縛られ、目隠しもされた状態だった。

 右足には、陸斗の光線による傷が残っている。

 影を操るスキル《影法師》。

 しかも、本人が目に見える影へ潜り、移動することもできる。

 だからこそ、目隠しは絶対に外せなかった。

 阿川は《配管工》で中央会館の空き部屋へ繋がる配管を開き、陸斗と一緒に影山を運び込んだ。

 空き部屋には、すでに戦場から送られてきたSPМ隊員たちが何人も寝かされていた。

 治療を受けた者。

 麻酔で眠らされている者。

 ロープで拘束された者。

 その部屋の中で、浮田が忙しそうに動いていた。

「この部屋に置いておくぞ」

 阿川は影山を床に座らせるように置き、浮田へ向き直った。

「こいつが、影撃隊の隊長の影山駿だ」

 その言葉に、浮田が目を丸くする。

「おぅ、そうか! 隊長をよく倒したな!」

 浮田は素直に驚いたあと、陸斗と阿川を見て感心したように頷いた。

「流石だ!」

 だが、阿川はすぐに真面目な顔で続ける。

「影を操るやっかいなやつだから、絶対に目隠しは取るなよ」

「あぁ、影の件は了解した!」

 浮田は軽く返事をする。

 しかし、その顔には緊張もあった。

 影を操る隊長格。

 しかも、負傷しているとはいえ、まだ完全に無力化されたとは言い切れない。

 油断できる相手ではなかった。

 陸斗が少し申し訳なさそうに一歩前に出る。

「足に数発、光線で貫いているので、治療だけお願いします」

 その言葉に、浮田は影山の足を見た。

 布越しにも分かる出血。

 傷口は決して軽くない。

 浮田は深く息を吐いた。

「もう、今日は何人治療したか……」

 それは本音だった。

 SPМ本部の戦いが始まってから、中央会館には次々に負傷者が運ばれてきている。

 敵も味方も関係なく、浮田の前には怪我人ばかりが並んでいた。

 だが、浮田はそれでも断らない。

「まぁ、了解したよ」

 浮田がそう言うと、陸斗は少し頭を下げた。

「すみません……」

 苦笑いを浮かべる陸斗に、浮田は軽く手を振った。

「気にすんな。お前らが戦ってくれてるから、こっちで治療するだけで済んでるんだ」

 そして、陸斗はすぐに表情を引き締めた。

「僕達はまた、加勢しに戻りますので、後の事は宜しくお願いします!」

「任せとけ! 気を付けてな!」

 浮田の言葉に、陸斗は力強く頷いた。

 阿川は再び手をかざし、《配管工》の配管を展開する。

 太い配管の入口が空中に現れ、陸斗と阿川はその中へ入っていった。

 その先は、再びSPМ本部の戦場。

 まだ戦いは終わっていない。

 二人はそう信じていた。


 ◇


 陸斗と阿川が去ったあと、空き部屋には浮田と影山が残された。

 他にも、治療され眠らされているSPМ隊員たちが床に並んでいる。

 影山は目隠しされたまま、しばらく黙っていた。

 だが、周囲の音は聞こえる。

 浮田が道具を動かす音。

 誰かが寝息を立てる音。

 治療された隊員が身じろぎする音。

 ここにいるのは、捕虜として乱暴に放置された者たちではない。

 縛られてはいる。

 眠らされてもいる。

 けれど、傷は手当てされている。

 そのことを、影山は感じ取っていた。

「……何故、敵である俺達を助けるんだ……?」

 ぽつりと、影山が呟いた。

 浮田は影山の足を診るために近づこうとしていたが、その言葉に一度動きを止める。

「ん?」

「俺達は敵だ」

 影山の声は静かだった。

 感情が薄い。

 だが、疑問は確かにそこにあった。

「お前達を襲った。攫われた隊員達だって、お前達の敵だったはずだ」

 影山は、目隠しの奥でわずかに顔を伏せる。

「なのに、何故治療する」

 浮田は少しだけ考え、そしてすぐに答えた。

「敵とか味方とか関係ない!」

 力強く言ったあと、すぐに眉を寄せる。

「いや、味方は更に助けたい気持ちが上がるから、正確には関係しているが……」

 自分で言いながら、少しだけ苦笑する。

 だが、すぐに真面目な顔へ戻った。

「だが、人が人を助けることに、何もおかしなことなんてないぞ」

 影山は黙って聞いていた。

 浮田は続ける。

「助けられる者が、助けなくてはならない者を助けるんだ」

 浮田の声は、決して大げさではなかった。

 ただ、当たり前のことを言うように。

「そうしたら次は、助けた者に助けられるかもしれないだろ?」

 影山はしばらく黙った。

 その沈黙は、敵意ではなかった。

 理解できないものを、少しずつ飲み込もうとしているような間だった。

 そして、影山は小さく苦笑した。

「……お前等が強いわけだ」

 浮田は首を傾げる。

「何だ、それ」

「いや」

 影山は短く答える。

「そう思っただけだ」

 浮田はそれ以上追及しなかった。

 今は話より治療が先だった。

「じゃあ、足を見るぞ。目隠しは取らない。動くなよ」

「分かっている」

 浮田は影山の右足へ手を伸ばした。


 ◇


 一方、SPМ本部の会議室。

 そこに、阿川の配管が現れた。

 太い配管の入口が開き、陸斗と阿川が姿を現す。

 会議室の中は、二人が出て行った時とは少し様子が違っていた。

 凛堂と世良は倒れている。

 柿原は壁にもたれるように座っており、足元には撃たれた傷がいくつも残っている。

 隊員たちの多くも、すでに戦える状態ではない。

 そして、会議室の中央付近。

 そこには、ロープで縛られた桜井がいた。

 その隣に、悠真。

 犬飼。

 色谷。

 チャン爺。

 皆が集まっているように見えた。

 陸斗はその光景を見て、ぱっと表情を明るくした。

「悠真さん、遂に桜井を捕らえたんですか?」

 陸斗の声には、安堵が混じっていた。

 激しい戦いの末、ようやく中心人物である桜井を捕らえた。

 そう見えたからだ。

 悠真は陸斗の方を見て、嬉しそうに笑った。

「あぁ、これでみんな解放出来るぞ!」

 その笑顔は、いつもの悠真に見えた。

 陸斗は胸を撫で下ろす。

 阿川も一瞬だけ肩の力を抜きかけた。

 だが、完全には抜けなかった。

 何かがおかしい。

 阿川は会議室を見回す。

 凛堂と世良は倒れている。

 柿原も拘束されている。

 桜井も縛られている。

 なら、勝ったはずだ。

 だが、空気が妙に重い。

 色谷は動かない。

 チャン爺も、静かに立っている。

 そのチャン爺が、陸斗と阿川を見つめていた。

 いつもの穏やかな表情ではない。

 悲しそうだった。

 何かを伝えたいのに、伝えられない。

 そんな顔。

 阿川の胸の奥に、嫌な感覚が走った。

 さらに、阿川は気づく。

 門脇がいない。

 影山潤もいない。

 倒れているわけでも、拘束されているわけでもない。

 姿が見えない。

 そして、犬飼が悠真のすぐ近くにいる。

 犬飼は味方のはずだ。

 だが、その立ち位置が妙に気になった。

 阿川は陸斗の横へ一歩寄る。

「陸斗」

 低い声。

 陸斗が振り向く。

「何か嫌な感じがする……」

 その言葉が終わるか終わらないかの瞬間だった。


 ◇


 犬飼が動いた。

 足が変化する。

 人間の足から、チーターのようなしなやかな脚へ。

 次に腕が変化する。

 太く、毛に覆われたヒグマの腕。

 鋭い爪が伸びる。

 犬飼の身体が、信じられない速度で陸斗の背後へ回り込んだ。

「っ……!」

 陸斗が反応するより早く、犬飼の腕が陸斗を押さえる。

 鋭い爪が、陸斗の喉元へ当てられた。

「少しでも動いたら殺す……」

 低い声。

 陸斗の身体が固まる。

 阿川も動けなかった。

 配管を出そうにも、犬飼の爪はすでに陸斗の喉元にある。

 ほんの少しでも刺激すれば、陸斗が危ない。

「……何故ですか?!」

 陸斗の声が震える。

 犬飼は答えない。

 陸斗は悠真を見る。

 信じたくないものを見るように。

「悠真さん、まさか……」

 悠真は、黙っていた。

 その沈黙が、何よりも答えになっていた。

 陸斗の表情が凍る。

 その横で、縛られているはずの桜井が笑った。

「そのまさかですよ……」

 桜井の声は穏やかだった。

 だが、その穏やかさが余計に不気味だった。

「君達を傷つける気はありません」

 桜井は、陸斗と阿川を見ている。

「君達のスキルも、かなり強力なのは知っていますからね」

 その言葉に、阿川は歯を食いしばった。

 殺す気はない。

 つまり、使う気だ。

 悠真と同じように。

 陸斗も阿川も、桜井の支配下に置くつもりなのだ。

 だが、動けない。

 犬飼に陸斗を押さえられている。

 悠真も、桜井のそばにいる。

 色谷もチャン爺も動かない。

 いや、動けないのだと阿川は理解した。

 すでに何かが起こっている。

 自分たちが影山を運んでいる間に。

 この会議室の勝敗は、ひっくり返っていた。

「陸斗……すまん」

 阿川が小さく呟く。

 陸斗は首を横に振れなかった。

 喉元に爪があるからだ。

 それでも、目だけで阿川を見た。

 責めていない。

 むしろ、どうにか次を考えようとしている目だった。

 だが、今この場でできることはほとんどない。

 犬飼が陸斗を押さえたまま、ゆっくりと動き出す。

 阿川も抵抗できず、そのまま従うしかなかった。

 桜井は満足そうに笑っている。

 縛られているはずのその姿すら、罠だった。

 陸斗と阿川は、成す術もなく連行されていった。

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