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【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


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101/119

新しい悠真君(後編)

第101話です。宜しくお願い致します。


 その時だった。

 会議室の別方向で、色谷がこちらに気づいた。

 色谷はまだSPМ隊員たちの対応を続けていた。

 《ボウリング場》のレーンで足止めし、倒れた者を阿川の配管へ送る。

 その流れを維持していたはずだった。

 だが、俺が犬飼に捕まっているのを見た瞬間、色谷の表情が変わる。

「悠真……!」

 色谷はすぐに動いた。

 迷いがなかった。

 犬飼の足元へ視線を向け、スキルを発動しようとする。

「スキル、ボウリング――」

 その声が、最後まで届く前だった。

 会議室の物陰。

 そこから、何かが飛んできた。

 小さなカプセル。

 透明なプラスチックのようにも見える。

 玩具のガチャガチャから出てくるカプセルに似ている。

 だが、それはただの玩具ではなかった。

 色谷の身体に、そのカプセルが当たる。

「っ……!?」

 次の瞬間、色谷の身体が小さくなった。

 まるで現実感のない光景だった。

 色谷の身体が、一瞬で縮み、カプセルの中へ吸い込まれる。

 カプセルの中で、色谷が何かを叫んでいる。

 だが、声は届かない。

「色谷!!」

 俺が叫ぶ。

 しかし、それだけでは終わらなかった。

 物陰から、もう一つカプセルが投げられる。

 狙いはチャン爺。

 チャン爺はすぐに反応したが、一足遅かった。

「……これは」

 チャン爺の声が聞こえたのは、そこまでだった。

 チャン爺の身体もまた、小さく縮み、カプセルの中へ吸い込まれる。

 床に、二つのカプセルが転がった。

 その中に、色谷とチャン爺が閉じ込められている。

「色谷、チャン爺!!」

 俺は叫んだ。

 だが、動けない。

 犬飼の爪が、喉元にある。

 ほんの少しでも暴れれば、俺の喉は裂かれる。


 ◇


 俺の視線の先。

 物陰から、門脇誠司が静かに姿を現した。

 かつて俺に、避難民を助ける道を示した人。

 犬飼が助けたいと願っていた人。

 その門脇が、今は無表情でこちらを見ている。

「スキル、ガチャカプセル」

 門脇は、淡々と言った。

 その手には、さらに小さなカプセルが握られている。

 まるで、人を玩具の景品にでもするように。

 色谷とチャン爺は、一瞬で戦場から消された。

 これで、俺を助けようと動ける者がさらに減った。

 アル、ソックス、セイコは動けない。

 犬飼が俺の喉元に爪を当てているからだ。

 色谷とチャン爺はカプセルの中。

 陸斗と阿川は影山を追って別の場所にいる。

 未来はまだ戻ってきていない。

 俺の周りから、助けが一つずつ消されていく。

 桜井は、その全てを分かっていたように笑っていた。

「いいね、門脇君」

 門脇は、何も答えない。

 ただ静かに、桜井の方へ軽く頭を下げる。

 その仕草に、胸の奥がざらついた。

 違う。

 あの人は、こんな人じゃなかったはずだ。

 少なくとも、犬飼の話に出てきた門脇は、こんなふうに人を閉じ込めて平然としている人ではなかった。

 それでも、今の門脇は桜井の命令で動いている。

 犬飼も。

 門脇も。

 全員が、桜井のために動いている。

 俺は何を見落とした。

 何を間違えた。

 そんな考えが頭を駆け巡る中、犬飼が俺の身体を押した。

「歩け」

 低い声。

 俺は抵抗できなかった。

 喉元の爪が、ほんの少し肌に食い込む。

「……っ」

 痛みが走る。

 血が一筋、首筋を伝った。

 アルが一歩前に出ようとする。

 だが、犬飼がすぐに言った。

「動くな」

 アルの足が止まる。

 普段あれだけ騒がしいアルが、今は何も言えずに俺を見ていた。

 ソックスも銃を構えている。

 だが、撃てない。

 セイコはステッキを握りしめている。

 悔しそうに、唇を噛んでいる。

 それでも、三人とも動けなかった。

 派遣された三人にとって、俺は主人だ。

 俺を守ることが最優先。

 だからこそ、俺を人質に取られた瞬間、彼らは動きを封じられる。

 桜井は、それを理解していた。

 分かっていて、この状況を作った。

 犬飼に背後を取らせ、俺を拘束し、アルたちの動きを止める。

 色谷とチャン爺が動こうとすれば、門脇の《ガチャカプセル》で封じる。

 全て、順番通りに。

 勝ち筋を積み重ねるように。


 ◇


 犬飼に連れられ、俺は桜井の前へ歩かされた。

 一歩。

 また一歩。

 会議室の床に落ちた瓦礫を踏む音が、やけに大きく聞こえる。

 桜井は、目の前で待っていた。

 穏やかな笑みを浮かべている。

 その表情だけ見れば、まるで友人を迎えるようだった。

 だが、その目は違う。

 俺を人間として見ていない。

 欲しかった道具をようやく手に入れた。

 そんな目だった。

「かなり苦労したけど、やっと手に入ったよ」

 桜井が言う。

 俺は奥歯を噛みしめた。

「今から、新しい悠真君に生まれ変わるからね」

「……ふざけるな」

 ようやく、声が出た。

 だが、その声は弱かった。

 喉元には犬飼の爪。

 目の前には桜井。

 背後には操られた犬飼。

 状況は最悪だ。

 それでも、何とかしなければならない。

 俺が操られれば、東京は終わる。

 俺の《日常生活》は、東京の基盤そのものだ。

 テリトリー修復。

 環境維持。

 商品生成。

 住民登録。

 警備。

 派遣。

 職業選択。

 それら全てが、桜井の手に落ちる。

 東京だけじゃない。

 避難民も、仲間も、全部。

 桜井の支配のために使われる。

 それだけは、絶対に駄目だ。

 身体を動かそうとする。

 だが、犬飼の爪が喉元へ食い込む。

「動くなと言った」

「犬飼……!」

 俺は叫びたいのを堪えながら、犬飼の名前を呼んだ。

「目を覚ませ……! お前、門脇を助けたかったんだろ……! SPМを、避難民を助けたかったんだろ……!」

 犬飼の表情は見えない。

 背後にいるからだ。

 だが、腕の力は緩まない。

「桜井総督府様の命令が最優先だ」

 その声には、迷いがなかった。

 いや、違う。

 迷いが消されているのか。

 それとも、命令だけが上書きされているのか。

 分からない。

 分からないまま、時間だけが過ぎていく。


 ◇


 桜井が、ゆっくりと右手を上げた。

「それじゃあ、始めようか」

 俺の背筋に、冷たいものが走った。

 桜井が唱える。

「スキル、天上天下唯我独尊」

 その瞬間、桜井の手元に何かが現れた。

 小さなワッペン。

 布のような質感。

 だが、ただのワッペンではない。

 そこには、織田家の家紋が描かれていた。

 黒く、はっきりとした紋。

 小さなものなのに、異様な存在感があった。

 見ているだけで、胸の奥がざわつく。

 危険だ。

 本能がそう叫んでいた。

 あれは、駄目だ。

 あれを貼られたら終わる。

 そんな確信だけが、頭の中で鳴り響く。

「……それが、お前のスキルか」

 俺は言った。

 声が震えていた。

 桜井は嬉しそうに笑う。

「そうだよ」

 ワッペンを指先でつまみながら、俺に見せる。

「君がずっと知りたがっていた、私のスキルだ」

「天上天下唯我独尊……」

 口の中で、その名前を繰り返す。

 とんでもなく傲慢な名前だ。

 だが、桜井には似合いすぎていた。

 自分だけが上。

 自分だけが絶対。

 自分だけが支配者。

 そんな思想そのものが、スキル名になっているようだった。

 桜井は、俺の胸元へ手を伸ばしてくる。

 俺は必死に身を捩ろうとした。

 だが、犬飼の腕が俺を押さえる。

 ヒグマの腕力。

 逃げられない。

「やめろ……」

 声が漏れる。

 桜井は微笑んだまま、首を横に振った。

「駄目だよ、悠真君」

 その声は優しい。

 優しいからこそ、気持ちが悪かった。

「君は私に必要なんだ」

「やめてくれ……」

 俺は必死に言う。

 アルたちが動けないのが分かる。

 色谷とチャン爺はカプセルの中。

 門脇は桜井の側。

 犬飼は俺を押さえている。

 誰も間に合わない。

 桜井が、ワッペンを俺の胸元へ近づける。

「じゃあね、悠真君……」

 その言葉に、全身が粟立った。

 今の俺への別れ。

 今の黒瀬悠真への別れ。

 そして、新しい“何か”への挨拶。

「やめろ……」

 ワッペンが近づく。

「やめろ……!」

 俺は声を張り上げた。

 それでも、桜井の手は止まらない。

「やめろぉ゙ぉ゙ぉ゙ー!」

 叫びと同時に、ワッペンが俺の胸に貼られた。


 ◇


 その瞬間。

 ワッペンが、俺の身体の中へ吸い込まれた。

「っ――」

 声が出なかった。

 胸の奥に、何かが入り込んでくる。

 冷たいもの。

 重いもの。

 黒いもの。

 それが血管を通るように、全身へ広がっていく。

 頭が揺れる。

 視界が歪む。

 桜井の顔が、ぼやける。

 アルの声が聞こえた気がした。

 ソックスの声も。

 セイコの声も。

 でも、遠い。

 全部が遠い。

 俺の中に、命令が入り込んでくる。

 桜井晴彦に従え。

 桜井晴彦を上位者と認めろ。

 桜井晴彦のために動け。

 違う。

 違う。

 俺は必死に抵抗しようとした。

 陸斗。

 美咲。

 未来。

 浮田。

 ルドルフ。

 阿川。

 チャン爺。

 一葉。

 二葉。

 三葉。

 アル。

 ソックス。

 セイコ。

 色谷。

 芹沢。

 コン太。

 みんなの顔を思い浮かべる。

 だが、それらの上から、別の意志が塗り重ねられていく。

 桜井総督府様。

 その言葉が、頭の中で形を持つ。

 違う。

 俺はそんなふうに呼ばない。

 呼びたくない。

 そう思っているはずなのに、その抵抗が少しずつ薄れていく。

 息が苦しい。

 身体が重い。

 自分の思考が、自分のものではなくなっていく。

 怖い。

 怖い。

 なのに、その怖さすら、ゆっくりと鈍っていく。

 桜井が、目の前で笑っていた。

 満足そうに。

 心底嬉しそうに。

「はじめまして! 新しい悠真君!」

 俺は、ゆっくりと顔を上げた。

 桜井の声が、やけに鮮明に聞こえる。

「私達の仲間になってくれるよね?」

 頭の中の何かが、答えを決めていた。

 俺の意思とは違う。

 違うはずなのに。

 その言葉は、迷いなく口から出た。

「あぁ、勿論だ」

明日も2話更新宜しくお願い致します!

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