表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2の厄災完結】世界崩壊後、日常生活スキルで俺が最強拠点を作ってしまった件  作者: ナマケモノ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
100/124

新しい悠真君(前編)

第100話です。宜しくお願い致します。



 物陰の裏で、アルは片膝をついていた。

 柿原紅蓮の火縄銃によって撃ち抜かれた足からは、じわりと血が滲んでいる。

 深すぎる傷ではない。

 だが、戦闘中に受ける負傷としては十分すぎるほど厄介だった。

 少し動けば痛みが走る。

 踏み込めば、確実に動きが鈍る。

 アルは普段の明るさを少しだけ失い、珍しくしょんぼりした顔をしていた。

 その隣で、ソックスが自分の袖を破った。

 布を細く裂き、アルの足に巻きつけていく。

「ごめん……ソックス……」

 アルが小さく呟く。

 普段の騒がしさはない。

 それだけで、傷の痛みよりも、迷惑をかけたことを気にしているのが分かった。

 ソックスは手を止めず、短く答える。

「反省は後からだろ……」

 布をきつく結ぶ。

 アルが少しだけ顔をしかめた。

 だが、ソックスはその表情を見ても、手加減しなかった。

 今は綺麗に優しく巻くより、戦える状態にする方が大事だった。

「それよりも、アイツを倒す事に集中しよう」

 その言葉に、アルの目が少しずつ戻っていく。

 落ち込んでいた顔に、いつもの明るさが戻る。

 そして、アルは勢いよく頷いた。

「アイアイサー!!」


 ◇


 その声が響いた直後だった。

 頭上から、ガラス瓶が落ちてくる。

 中には液体。

 先端には炎。

 火炎瓶だった。

 柿原は二人が隠れている位置を絞り込み、上から投げ込んできたのだ。

「来た!」

 ソックスが叫ぶより早く、アルは機関銃を構えた。

 足は痛む。

 だが、腕は動く。

「ヒャッハァァァ!! 火遊び禁止であります!!」

 アルの機関銃が火を噴いた。

 弾丸が火炎瓶に命中する。

 瓶が空中で割れ、炎と液体が飛び散った。

 火が床の一部に落ちる。

 だが、直撃は避けた。

 その瞬間、柿原の声が響いた。

「見つけたぜ!」

 アルが火炎瓶を撃ち落としたことで、射線の位置が割れた。

 柿原が火縄銃をアルへ向ける。

 火縄銃の先に、聖火が灯る。

 次の一発を撃たれれば、負傷したアルは避けきれないかもしれない。

 だが、その前にソックスが動いていた。

 物陰からわずかに身を乗り出し、柿原めがけて銃を撃つ。

 一発。

 柿原の手元を狙った射撃。

 柿原は舌打ちし、火縄銃の角度を変えた。

 そのせいで、アルへの射撃が遅れる。

 さらにもう一発。

 今度は柿原の足元。

 柿原は後ろへ跳び、距離を取った。

 アルを狙おうとすれば、ソックスが撃つ。

 ソックスを狙おうとすれば、アルの機関銃が火を噴く。

 動けないアルを、ソックスが射線で守っている。

 その連携を見て、柿原は笑った。

「やるな……!」

 苛立ち混じりではあった。

 だが、その声には確かに楽しさもあった。

「いいコンビだ!!」

 アルは物陰から顔を出し、にやりと笑う。

「お褒めにあずかり光栄であります!」

「調子に乗るな」

 ソックスが即座に言う。

「今から乗るところだったのに!」

「乗るな」

 そんなやり取りをしながらも、二人の目は柿原から離れない。

 柿原は強い。

 火縄銃。

 火炎瓶。

 そして《聖火》。

 ただ火を使うだけではない。

 相手を動かし、隠れ場所を削り、撃つタイミングを作る。

 厄介な副隊長だった。

 だからこそ、先に崩す必要がある。


 ◇


 アルは深く息を吸った。

 そして、叫ぶ。

「スキル、自動小銃!」

 次の瞬間、柿原の周囲に銃が現れた。

 一つ。

 二つ。

 三つ。

 いや、それだけではない。

 空中に浮かぶようにして、八つほどの自動小銃が柿原を囲んでいた。

 銃口は、すべて柿原の足元へ向けられている。

 柿原の目が見開かれた。

「何だ、どっから現れた?!」

 アルは嬉しそうに笑う。

 足を負傷しているのに、その顔だけはいつも通りだった。

「ヒャッハァァァー!! 撃ちまくれぇー!!」

 八つの自動小銃が一斉に火を噴いた。

 銃声が会議室に重なる。

 ただし、狙いは柿原の急所ではない。

 足元。

 膝下。

 踏み込み足。

 悠真からの命令は、殺すな。

 だからアルは、その命令だけは絶対に外さない。

「ぐっ……!」

 柿原の足に何発かが命中した。

 弾丸そのものが深く貫いたわけではない。

 だが、動きを止めるには十分だった。

 柿原の膝が崩れる。

 その瞬間を、ソックスは逃さなかった。

 銃口を柿原へ向ける。

「スキル、特殊弾」

 静かな声。

 だが、そこに迷いはない。

「緑の弾」

 放たれた弾丸が、柿原へ向かって飛ぶ。

 柿原は避けようとした。

 だが、足を撃たれている。

 動きが鈍い。

 弾が柿原に当たった瞬間。

 べちゃり、と粘ついた音が響いた。

 緑色のネバネバした液体が、広範囲に広がる。

 柿原の腕。

 脚。

 胴体。

 その全てを覆い尽くし、床へ貼りつけた。

「クソッ! 動けねぇ……!」

 柿原がもがく。

 だが、粘液は剥がれない。

 火縄銃を構えようとしても、腕が動かない。

 火炎瓶を取り出そうにも、身体が固定されている。

 ソックスは銃を下ろした。

「……勝負ありですね」

 アルはその場で、ぱっと顔を輝かせた。

 そして、ソックスの顔の前に手を出す。

 ハイタッチを求める手だった。

 ソックスはそれを見て、少しだけ黙る。

 いつものように面倒くさそうな表情をしている。

 だが、その目は少しだけ柔らかかった。

「仕方ないな……」

 ソックスも手を出す。

 ぱん、と乾いた音が鳴った。

「イェーイ!!」

 アルが嬉しそうに叫ぶ。


 ◇


 その声を聞き、少し離れた場所にいた悠真が三人の方を見た。

 セイコは凛堂と世良を倒した。

 アルとソックスは柿原を制圧した。

 派遣された三人は、いずれも強敵相手に大きな戦果を上げていた。

「ホントに三人ともよくやったな!」

 悠真は心の底からそう言った。

 その声に、アルが勢いよく反応する。

「また、ご主人様に褒められた!」

 そして、負傷した足を忘れたかのように両手を上げる。

「今日は何ていい日だ!」

 ソックスがすぐに突っ込んだ。

「怪我をしといて何がいい日なんだ……」

 セイコも、ステッキを肩に乗せながら優雅に笑う。

「まぁ、ちょっとした運動をしただけですわ!」

 アル。

 ソックス。

 セイコ。

 相変わらず、濃い三人だった。

 だが、頼りになる。

 その空気に、ほんの少しだけ勝利の色が混じった。

 凛堂。

 世良。

 柿原。

 SPМの隊長格や副隊長格が、次々に崩れていく。

 このまま押し切れるかもしれない。

 その一瞬の油断。

 そのわずかな隙を、犬飼は逃さなかった。

 悠真の背後へ、何かが猛スピードで迫る。

 アルも。

 ソックスも。

 セイコも。

 ひとつの戦闘が終わったことで、ほんの一瞬だけ意識が緩んでいた。

 次の瞬間。

 鋭い爪が、悠真の喉元に突きつけられた。

「……っ!」

 悠真の身体が固まる。

 背後から回された腕。

 その腕は、人間の腕ではなかった。

 太く、力強く、獣の毛に覆われている。

 ヒグマの腕。

 そして、地面を捉える足は、チーターのようにしなやかで速さを感じさせる形へ変わっていた。

 犬飼。

 スキル《人体実験》によって、身体の一部を動物へ変化させた姿。

 その鋭い爪が、悠真の喉に触れている。

 アルが即座に銃を構えようとした。

 ソックスも、セイコも動きかける。

 だが、犬飼の声がそれを止めた。

「一歩でも動いたら、喉元にこの爪を刺すからな!」

 三人の動きが止まる。

 派遣された彼らにとって、悠真は絶対の存在だった。

 その悠真を傷つける可能性がある行動は取れない。

 たとえ敵が目の前にいても。

 たとえ助けたいと思っても。

 爪が、ほんの少し動くだけで悠真の命に関わる。

 だから、動けない。

 アルの顔から笑みが消えた。

 ソックスの銃口は下がらないが、引き金を引けない。

 セイコも、ステッキを握ったまま固まっている。

 犬飼は悠真の背後に立ち、爪を喉元へ押し当てたまま、低い声で言った。

「誰も動くな」


 ◇


 何故だ。

 俺は、自分の喉元に触れている爪の冷たさを感じながら、頭の中でその言葉だけを繰り返していた。

「何故だ……?! 犬飼?!」

 声が震えた。

 痛みはまだない。

 だが、少しでも動けば爪が食い込む。

 犬飼の腕は、ヒグマのように太い。

 足はチーターのように変化している。

 俺が知っている犬飼のスキル。

 《人体実験》。

 動物の特徴へ身体を変える能力。

 それを使って、俺の背後を取ったのだ。

 犬飼は、俺の声に何の迷いもなく答えた。

「桜井総督府様の命令だからだ!」

 その言葉が、理解できなかった。

 いや、言葉の意味は分かる。

 分かるからこそ、理解したくなかった。

「まさか、お前操られていたのか……?!」

 犬飼の腕に力が入る。

 爪が、ほんのわずかに喉へ触れた。

「俺は最初から、桜井総督府様の命令しか聞かない」

「最初から……?」

 俺の中で、何かが崩れかける。

 最初から。

 犬飼はそう言った。

 だが、それはおかしい。

 犬飼は、東京へ逃げてきた。

 ボロボロになって、空から落ちてきた。

 SPМの異常を伝えた。

 門脇さんを助けてほしいと願った。

 避難民を助けてほしいと頼んだ。

 それが嘘だったのか。

 いや、違う。

 ルドルフの《真実の口》を通して確認した。

 犬飼は、俺たちを騙そうと思って東京へ来たわけではなかった。

 少なくとも、犬飼の認識では、あれは真実だった。

 だからこそ、俺たちは動いた。

 では、何故。

 今、犬飼は桜井の命令で俺を捕まえている。

 この戦いの中で操られたのか。

 でも、それもおかしい。

 この場にいるのは犬飼だけじゃない。

 俺もいる。

 陸斗も、阿川も、色谷も、チャン爺もいる。

 アルたちだっている。

 もし、桜井の問いかけに返答することが条件なら、俺は全員に答えるなと伝えていた。

 桜井本人も言っていた。

 そんな簡単に発動しない、と。

 もちろん、それが嘘の可能性はある。

 だが、もし見るだけで操れるなら。

 触れるだけで操れるなら。

 会話を聞くだけで操れるなら。

 最初から俺たち全員を操ればよかったはずだ。

 それをしなかった。

 いや、できなかったのか。

 では、何が条件だ。

 何を見落としている。

 犬飼だけが操られた理由。

 犬飼だけが、最初から桜井総督府様の命令しか聞かないと言い切る理由。

 ルドルフの《真実の口》をすり抜けた理由。

 頭の中で、いくつもの情報がぐるぐると回る。

 だが、答えに届かない。

 喉元の爪が、それ以上考える時間を与えてくれない。


 ◇


「悠真君が驚くのも無理はないね」

 桜井の声がした。

 会議室の奥で、桜井は笑っていた。

 余裕の笑み。

 勝利を確信したような顔。

 俺が一番見たくなかった表情だった。

「君は犬飼が裏切らないとでも思ったのかい?」

 俺は何も答えられない。

 答えたくないのではない。

 喉元に爪を突きつけられている。

 犬飼が俺を押さえている。

 アルたちは動けない。

 状況が、悪すぎる。

 桜井は楽しそうに続けた。

「つくづく、君の頭はお花畑だね……」

 その言葉に、奥歯を噛みしめる。

 違う。

 そう言いたかった。

 俺は警戒していた。

 犬飼の証言も確認した。

 作戦も立てた。

 桜井のスキルの可能性も考えた。

 それでも、今こうなっている。

 つまり、俺は見落としていた。

 桜井の仕掛けを。

「まぁでも」

 桜井は、倒れた凛堂や世良、柿原たちの方を一瞥した。

「これだけの戦力を君が持っていることも、直で確認できたし」

 その視線が、俺に戻る。

「今から悠真君が私達の仲間になる訳だし、最高な日だね……」

 俺は、何も答えられなかった。

 喉元の爪。

 犬飼の腕。

 桜井の笑み。

 そして、俺自身の判断ミス。

 その全てが、重くのしかかっていた。

とうとう節目の100話です。

皆さん、ホントのホントにここまで読んで頂きありがとうございます!

物語も1つの山場を迎えてますので今後も楽しんで頂けると幸いです!

今日と明日の土日の2日間は100話記念と題して2話ずつ投稿になります。

8時20分、20時20分に投稿です。

宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ