12、体質 ②
「……なんかあっさり終わったねー」
「ええ、何もありませんでした」
「まあ、無事なのが一番よ」
そう、今日で交換制度が終わったのだ。ブリジットの図書室の件から、何事もなくポスフォード侯爵家の使用人として働き、今日に至ったのである。
あの後、他の使用人から色々話されることもあったのだが、どれだけポスフォード侯爵が素晴らしいか、と言うことだったり、最近の流行だったりとたわいもない話ばかりであった。
今は彼女たちを迎えるためにフランシスが用意させた馬車に揺られて、カノヴァス公爵家に向かっている最中だった。
「これで私たちの情報収集と言う仕事も終わり。明日からカノヴァスの使用人として頑張りましょう」
「はい」
ヴェラもモニカもやはり公爵家が一番、と思っている様だ。滅多に見ることの出来ないくらい笑顔でニコニコと笑っている。
「そう言えば、結局ポスフォード侯爵様はブリジットに手を出さなかったねー」
ふとモニカがそんな事を言う。彼女たちもポスフォード侯爵がブリジットの事を狙っているのを知っているのだ。
「流石に、交換制度の時に手を出したら……侯爵様がやりました、って言っている様なものだと思うわ」
「確かにー」
「でも余りにも何もなかったわよね……ブリジット、気をつけておくのよ?」
「ええ、もちろんです」
その話はそこでお終いになり彼女たちは笑いながら、彼女たちの職場に戻るのだった。
屋敷に到着すると直ぐに出てきたのはジーンであった。ジーンは心なしか目の下にクマがある様に思える。
「ああ……貴女達。元気そうで良かったわ」
直ぐにでも涙を流しそうな勢いでジーンが喜んでいる。この2ヶ月間何があったのだろうか。
「君たちと交換で来た使用人達がね……なんと言うか」
苦笑いで隣にいるヨハンが色々と教えてくれた。簡単に言うと、使用人としての最低限の礼儀さえも教えてもらっていなかったそうだ。
よくよく彼女達の話を聞くと、最近雇われたばかりだったそう。しかも学園を卒業しているわけでもないらしい。学園を卒業していれば、少しは理解できるだろうが、それすらない状態で一からの指導……大変だ。
「よくそんな方達をこちらに送って来ましたね」
「ポスフォード侯爵の嫌がらせだろう、多分」
聞くと侯爵とフランシスは仲があまり良くないらしいが、余りにも幼稚な嫌がらせだなと思う。
「心配していた影の者、と言うわけでもなさそうだし」
ジーンとヨハンなりに色々考えていた様だ。影の者、つまり情報を手に入れるために送られた暗部のことだが、監視をする限りその様な能力はないという事に落ち着いた様だ。
「まあ、旦那様に擦り寄ることもあったので、どちらかと言うとハニートラップ要因だったかもしれませんね」
とにかく戻って来て良かった、とジーンには何度も感謝されたのであった。
その後ブリジット達3人は自室に戻り、夜はフランシスの執務室を訪れていた。フランシスからは交換制度での情報収集に対する感謝と報酬を3人に手渡すだけでなく、王都で有名なお菓子屋のお菓子を食べさせてくれたのだ。
モニカは現金なため、笑顔で何も喋らず黙々とフィナンシェやマフィンなどを食べている。そんな無遠慮なモニカを見ても、執務室にいるメンバーは怒らなかった。今日ぐらいは良いだろう、と思っている。
「あの件の後は、ご報告することもありませんでした」
「そうか、ありがとう」
代表してヴェラがあの後のことを軽く話せば、フランシスは真剣な眼差しになる。だが、その眼差しも少ししたら解れ、モニカがお菓子を食べ終わったのを見て話しかける。
「今日は疲れているだろう、明日休みを取れなくて申し訳ないが、明日からも頼む」
「勿論、3人とも精一杯努めさせていただきます」
ヴェラの声に合わせてブリジットとモニカも頭を下げる。気をつかって声を掛けてくれた上に、報酬と美味しいものまでもらえるなんて幸せだ。
「ちなみにそこにあるお菓子は持って帰ってくれ。ただしモニカは遠慮しておく様に」
一杯食べていたからな、と釘をさすフランシスに、はーいと返事をするモニカ。その様子を見ることなく、ヨハンがお菓子を2つの袋に分けて入れている。
その様子を見ていたフランシスが、ふと真剣な顔になる。そして今だにヨハンを見ていたブリジットに声をかけたのだ。
「ブリジット、君は少し残ってもらえないか?」
その真剣な声色に気づいたのだろう。ヴェラはヨハンからお菓子を受け取ると、モニカと共に退出することを伝える。2人が出て行きぱたっと閉められたあと、声をひそめてフランシスは話し始める。
「あることに協力して欲しいんだ」
モニカは食い意地がすごい、欲望に忠実……なんですね。
次話は明日か、明後日で更新します。
土日のうちでもう一つの作品、勇者なのに何故か快適な魔王討伐の旅を送っています、も更新予定です




