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輪廻転生  作者: 香月薫
第12章
449/451

第440話

 深夜、リーシャの部屋。

 二人で、夕食を共にしたが、忙しいアレスは、早々に夕食の席を退室し、それ以降、リーシャの顔を見ることもなく、王太子の仕事や、ハーツの訓練に時間を割いていたのである。

 ようやく、誰もが寝静まっている時間になって、リーシャの部屋に訪れることができたのだった。

 スヤスヤと眠っているリーシャの脇に、アレスが腰掛けている。

 静かな部屋に、腰掛ける音が僅かに響いていたが、目覚める気配がなかった。

 アレスの双眸は、ぐっすりと眠っている姿を捉えていたのだ。


 ここを訪れる前に、一日、リーシャが過ごしていたか、ユマから報告を受けていた。

 いったん、仕事に区切りをつけ、リーシャの様子を見る前に、ユマから一日のリーシャの詳細な様子を、毎日、報告させていたのだった。

 学校に登校した場合は、警備している者たちから、リーシャの学校での様子を、細かく報告させていたのである。

 暖かい頬に触れる、アレスの手。

 〈乙女の祈り〉の力が暴走し、意識がないまま、王宮に戻ってきた時は、僅かな暖かさしか感じられなかった。

 その際は、その僅かな温もりでもよかった。

 だが、徐々に、確かな温もりを欲するようになっていたのだ。


 しっかりとした暖かさに、安堵しているアレス。

 この暖かさを感じるため、毎日、眠っているリーシャの部屋に訪れて、確かめていたのだった。

「暖かい……」

 小さく呟いていた。

 頬に触れたままでいる。

 無防備な姿に、微かに口角が上がっていたのだ。

 傷つけないように、優しく触れていた。

 もう、これ以上、傷ついてほしくなかったのだった。

 そのため、アレスはいろいろと動き回り、苦労を重ねていたのである。

 肉体的にも、精神的にも、かなり疲弊していた。

 だが、リーシャの安寧のため、眠る時間を惜しんで、動き回っていたのだった。


 ぐっすり眠っているリーシャは、目を醒ます気配もない。

 まっすぐに、注がれるアレスの眼光だ。

 ユマの報告の中に、ラルムとの演劇の練習が含まれていた。

 僅かに、仄暗い感情が疼き出す。


(ラルム……)


 容易に、二人で練習している光景が、脳裏に浮かんでいたのだ。

 想像した光景は、いつも聞く、報告内容と同じだった。

 二人で、セリフ合わせをし、穏やかな時間を過ごしていると。

 アレス自身も、実際に、二人のセリフ合わせの現場を、何度か眺めていたことがあった。

 だから、どのように二人が、過ごしていたのか、手に取るように想像ができてしまっていたのである。

 ふと、耳の奥から、二人の笑い声が聞こえてきた。

「……」

 鮮明に残っていたのだ。

 以前、見ていた光景の中に。


 身体の中に駆け巡っていく怒り。

 動く感情のまま、いつの間にか、目を眇めていることに気づき、いつもの無表情に戻っていった。

 そして、息を吐き、心を落ち着かせている。

 もう一度、意識を眠っているリーシャに向け、暖かさを感じてから、立ち上がっていた。

 室内を出ようとするアレス。

 だが、テーブルに無造作に置かれた台本が、視界に入っていたのだ。

「……」


 何度か、勝手に台本を読んでいた。

 気になるアレスは、また、台本を手にとっていたのだった。

 ペラペラと、台本を捲る。

 台本のあちらこちらに、リーシャのものと思われる字と、ラルムと思われる字が書き込みされていたのである。

 二人の字に、イライラしていた。

 台本に書かれている字は、リーシャのものとラルムのものしかない。

 他の者が書いた字はなかった。

 並んで書かれている文字に、半眼していたのだ。


 ふとした瞬間に、いつの間にか、二人でいて笑い合っている姿に、怒りの感情しかなかった。

 それに、視線が合えば、小さく笑みを零し合う姿も、アレスとしては、気に入らなかったのだった。

 リーシャの文字に触れている。

 頼まれた演劇に対し、一生懸命になっていることが滲み出ていたのだ。

「……」

 いろいろな感情が渦を巻いていて、アレスの中で、複雑に葛藤していたのだった。

 見ていた台本を戻し、今度こそ、リーシャの部屋を出て行った。


読んでいただき、ありがとうございます。

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