第441話
自身の部屋に戻ってきた、アレス。
まだ、眠ろうとはしない。
やることが、残っていたのだ。
〈乙女の祈り〉の力に関する報告書や、貴族たちの動向を記した報告書など、多くの報告者が机に置かれていたのである。
それに、他国のハーツに関する報告も上がっており、本日の睡眠は、二時間も取れそうになかった。
それでも、動き出したアレスは、止まろうとは思わない。
リーシャの顔を曇らせず、すべてのものを排除するために。
カーテンが閉められていない窓に近づき、外を眺めているアレスだ。
ところどころ、庭園がライトアップされていた。
真っ暗な庭ではなかった。
ここから、見つけることが難しいが、至るところに、警備する者たちが配置されていたのである。
王宮にある宮殿の中で、一番、厳重な警備が敷かれているのが、ここ仮宮殿だった。
一見すると、他の宮殿と変わらないような警備体制になっているが、数多くの警備する者たちが集められ、どこの宮殿よりも、厳しい警備がなされていたのだ。
徐に、一息、ついている。
とても、すぐに仕事をする気分になれない。
頭の中では、先程の台本に書かれていた二人の文字が気になっていたのだ。
(何で、ラルムが書き込んでいる。その必要性がないじゃないか……)
抑え込んでいたムカムカ感が、また、再燃している。
眉間にしわを寄せていた。
演出を担当しているビルゴとリーシャの橋渡しを、ラルムが率先して担っている報告は、すでに受けていて把握済みだった。
だが、ラルム自身が、わざわざ、リーシャの台本に書き込む必要があるのかと抱いていた。
それも、これ見よがしにだ。
顔を顰めているのが、窓に映っている。
映っている自身の表情に、ますます、面白くないアレスだった。
(ラルム……。何を考えているんだ……)
リーシャとラルムの噂が、また広がっていたのだ。
アレスの元にも、部下からやゼインたちからも、リーシャとラルムの噂が広まっている話を聞き、いろいろと対策を講じているが、どの対策も沈静化する気配をみせていなかった。
ラルム自身が、周りを気にする様子もなく、常にリーシャの傍にいたからだった。
まだ、ラルムが距離を置くような姿勢を示していれば、鎮まることはなくても、ここまで広がるような事態に、陥ることはなかったと考えていたのである。
一番いいのは、演劇の出演を辞めればいいだけの話だが、アレスとしては、やめさせたくはなかった。
ハーツに意識を傾けてしまうことは、避けたかったからだ。
だがら、ラルムが相手役だとわかっていても、強行に、この話を中断させることをしなかった。
けれど、それが裏目となって、二人の噂話が、再び上がってしまっていたのである。
出るたびに、王宮側やメリナ側が抑え込んでいたが、両サイドが動いても、卑猥な二人の噂話が止まる様子がない。
アレスも噂話を沈めようと動いているが、収めるどころか、広がる一方な自体に疲弊していた。
ただ、幸いなことに、リーシャの耳に、噂話の件が、詳細に伝わっていないことに安堵していたのだった。
学校と王宮を行ったり来たりしていても、学校では、不特定多数の生徒たちで出くわす可能性があり、そこから伝わってしまう可能性もあったので、アレスやラルム、ナタリーたちが、そうしたやからと近づけないようにしていたからだ。
勿論、ビルゴたちも、リーシャに噂話が伝わらないように、細心の注意を払っていたのである。
せっかく、リーシャとラルムが、主役を演ずる文化祭での舞台を、中止にさせないために。
「誰が、リークしている?」
学校での二人の様子が、リークされている可能性が出てきていたのだ。
ただの噂話だと、突っぱねることができない、学校での様子がありありとリークされていたのだった。
誰がリークしたのか、調査が行われているが、今のところ、掴むことができなかったのである。
次から次へと、頭の痛い問題に、頭を悩まされていた。
「ラルム……」
小さく呟いていた。
回りを気にしないで、振舞うラルムの態度に、リーシャの前から消し去りたい気分だったが、できない状況に苛立ちを、さらに募らせている。
上手くいかない状況に、長い息を吐いていたのだ。
そして、気持ちを落ち着かせ、残っている報告書の山へと、アレスが向かっていったのだった。
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