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輪廻転生  作者: 香月薫
第12章
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第439話

 祖父であるシュトラー王から、何度も呼び出しを受けても、忙しいと、逃げ回っていたが、一緒に住む母メリナからは、逃れることができなかった。

 明け方近くに、帰ってきた、ラルムを捕まえ、顔をつき合わせていたのである。

 顔を合わせないように、時間をずらして、帰宅していたのだ。

「疲れているので、話なら、また、今度にしてくれませんか?」

 困り顔を覗かせながら、声をかけるラルム。

「あなた次第よ」

 きっぱりとした顔をしていた。

「……」


 小さく息を吐き、ラルムが話を聞く態勢をしていたのだ。

 テーブルを挟み、互いに、ソファに腰を下ろしている。

 メリナが屋敷に戻っている際は、遅く帰宅し、着替えだけを済ませ、早朝に屋敷を出たりしていたのだ。

 演劇に出ることが決まって以来、まともに顔を合わすのは久しぶりだった。


 二人の双眸は、互いを見つめたままだ。

 僅かな静寂が、二人の間を広がっていった。

 その口火を切ったのは、メリナである。

「今すぐ、降りなさい」

 何から降りろと言っているのか、ラルムには理解できていた。

 理解できていたが、いくら母の言葉でも、応じるつもりはなかった。

「お断りします」

「ラルム」

 厳しく窘めている。


「開演まで、もうすぐです。ここで、降りるなんて、迷惑をかけてしまいます」

「状況を、理解できているの?」

 強めの声音で、問い質していたのだ。

 リーシャとラルムの噂が貴族の間だけではなく、一般庶民まで広まりつつあったのである。

 必死に食い止めようとしているが、スキャンダラスな噂話を止めることが、難しい状況に陥っていたのだった。

「貴族たちの間で、広まっているようですね。僕とリーシャの噂が」

「ラルム」

「あ、後、一般の人たちにも、広まっていました」

 平然としているラルムに、苛立ちを憶えているメリナ。


 目を眇められても、ラルムは動じる表情を見せない。

 穏やかな笑みを漏らしていたのだった。


「最悪よ」

 苛立ちげに、メリナが吐き捨てていた。

「ただの噂です。言わせておけばいいのです」

 努めて、冷静なラルムの姿に、ますます、メリナの感情が動いていたのだ。

「噂を止めようにも、止まらない。誰かが、あえて、広めているかのようね」

「そうなんですか? どちらサイドにも、ついていない者たちの仕業かもしれませんね。右往左往しないで、無視すれば、いいのでは?」

 王宮側も、メリナ側も、二人のスキャンダラスな噂話を、食い止めようと必死に行動していたが、止まる気配がなかった。

 抑え込んでも、留まることを知らないで、泳いでいたのである。


「随分と、余裕な態度ね」

「いちいち、噂話に振り回されるのも、よくないと思ったからです」

「そう」

 メリナの眼光が、正面にいるラルムを捉えたままだ。

「ラルム。あなたの仕業ではないの?」

 抑えようとしても広がっていく現状に、あえて裏で広めている人間がいると巡らせ、その裏で動いているのは、息子であるラルムではないかと、思うようになっていたのだった。

「違いますよ」

「そう?」

 注がれる視線。

 真っ向から、ラルムは受け止めている。

 打ち消そうとしても、消えない噂話が広がっている現状に、王宮側も、メリナ側も、かなり疲弊していた。

 それでも、止めようとしていたのだった。


「あの子の耳には、届いているのかしら? この噂話が」

 初めて、ここに来て、ラルムの表情が、微かに動いていたのだ。

 メリナは見逃さない。

「……。少しは、耳にしているようですが、学校の方では、ナタリーたちや僕が、入らないようにしているので、ここまで広まっていると、は知っていないはずです」

「そう」

「はい。アレスも、お爺様たちも、わざわざ、入れることはしないかと」

「そうね」

 口の端を上げているメリナ。

 それに対し、怪訝な顔を、ラルムが滲ませていた。


「あの子に、この状況を教えたら、どうなるのかしら?」

 メリナの言葉に、怒りが湧き上がっていく。

 母であるメリナに対し、半眼していたのだった。

「ラルム。あなたは、怒ったのね」

「当たり前です」

 ふふふと、メリナが笑っている。

 ここに来て、ようやく、感情を面に出したからだ。


「そのような真似をしたら、お爺様が許しませんよ」

「そうね。きっと、この国にはいられなくなるかもしれないわね」

 探るような、ラルムの眼差し。

「……するつもりですか?」

 二人の間に、少しの静寂が流れていた。

 どちらも、視線をはずさない。

 見つめているままだ。


「あなたを、王位につかせるのよ。そんな真似、できないでしょう?」

「……」

「忘れないで。王位を継ぐのは、あなたよ」

「……」

「ここで、自身を、落とすような真似をしないで」

「自身を、落とすことはしませんが、演劇に出ることを、辞めるつもりはありません」

「……ラルム」

 一歩も、引く様子もない姿勢に、メリナの顔が歪んでいる。


「せっかくです。見に来てください」

 ニッコリと微笑んでいた。

 メリナの口は、きつく結ばれたまま、立ち上がって、部屋を出て行ってしまっていたのだった。

 ようやく、一人になったところで、ソファの背に背中を預け、強張っていた身体が緩んでいた。

 一息、ついていたのだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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