第438話
シュトラー王の執務室に、ソーマとフェルサが顔を揃えていた。
文化祭での演劇の出演を、アレスが許可を出したことで、王宮内や貴族たちの中でも、様々な噂話が飛び交っていたのである。
連日、その対応もしているソーマとフェルサの表情は、疲れが出ていたのだった。
いつもの業務のほかにも、リーシャのことや〈乙女の祈り〉の力のことなどがある上に、リーシャとラルムが出演する、演劇の対応もせざるを得ない状況に、頭を痛めていたのだ。
「状況は?」
ムスッとした顔で、シュトラー王が聞いている。
二人の顔を見れば、よくないと理解できたが、聞かずには入れなかった。
「……非常に悪い」
暗い顔で、ソーマが答えていた。
そして、ソーマの言葉を補充するように、フェルサの口も開いている。
「貴族たちの間でも、妃殿下とラルム王子の噂話が、止まりません」
「元々、あったからな……」
以前から、二人の仲を囁かれていたが、他愛もない話だと、王宮側が突っぱねていたのだった。
だが、ここに来て、急速に、二人の仲が貴族たちだけではなく、一般市民まで広まってしまっていたのである。
「マークしている貴族たちも、活発に動き回っております」
「……」
「様子を窺っていた貴族たちも、噂話に好奇心が擽られたのか、嗅ぎまわっています」
「……」
ラルムの母メリナも、そうした話を危惧し、シュトラー王たち同様に沈静化させるため、動いていたが、双方が動き回っても、収束する気配が見えなかった。
どちらの陣営も、深いトンネルに入り込んでしまっていたのだ。
「せめて、ラルムが出なければ……」
渋面な顔を覗かせているシュトラー王。
出演を辞退させようと、何度も呼び寄せていたのである。
呼び出しに応じない。
直接、ラルムに連絡しても、連絡が取れなかった。
ラルムの部下から、忙しいから、会うことを拒まれていたのだ。
王妃エレナからも、ラルムに連絡して貰ったが、それすら、忙しいと断られてしまっていたのだった。
なかなか、打ち手がなかった。
ラルムと連絡が取れないからと言って、指を加えていた訳ではない。
学校サイドや演劇科の担当者にも、連絡を取ったが、すでに二人の出演する話が広まってしまい、中止できない状況だと言われてしまっていたのである。
徐に、シュトラー王が嘆息を漏らしていた。
少し伏せ気味だった双眸を、目の前に立つ二人に向けていたのだ。
「上手くいかない」
呟いたシュトラー王と、同意見だった。
いろいろと動き回っても、止まるどころか、二人の噂話が広がっていくばかりだったからだ。
「酷くなる一方な、気がする」
ソーマからも、愚痴が零している。
「アレスは、どうしている?」
この状況を作り出した、アレスのことを思うだけで、シュトラー王としては、苦々しい思いを湧かせていた。
このところ、顔を出すことも少なくなっている。
ラルム同様に、呼んでも、部下を寄越すだけで、姿を見せることがなくなっていたのだった。
「王太子の仕事をこなしつつ、〈乙女の祈り〉の力について、調べているようです。その上、以前に比べて、ハーツの訓練にも、勤しんでいるようです」
アレスの近頃の様子を、フェルサが口に出していた。
何かに、とり憑かれたかのように、いろいろなことに取り組んでいたのだった。
勿論、その合間を縫って、リーシャとの時間も大切にしていたのである。
小さく、シュトラー王が嘆息を零していたのだ。
「あれは、寝ているのか?」
「以前より、短くなっているかと」
「体調管理も、訓練の一つだと、進言したんだが?」
顔を顰めているソーマだった。
以前、顔を合わせた際に、アレスの身体を案じ、声をかけていたが、その声を無視し、あまり睡眠時間をとらない現状に、苛立たしい気持ちをソーマが抱え込んでいた。
「ホント、誰かに似ている」
ソーマの双眸が、シュトラー王に注がれている。
「……」
自覚があるシュトラー王としても、黙って、受け入れるしかない。
「悪いところ、全部、似なくてもいい」
ジト目になっているソーマ。
「とにかく、リーシャ妃殿下とラルム王子の噂話の対応や、アレス王太子殿下の身体のことを、どうにかしないと、ならないかと」
フェルサの正論に、シュトラー王も、ソーマも、眉間にしわを寄せているだけで、答えを口に出すことができない。
学校にいっていない一般庶民までもが、学校の文化祭の行事の一つである演劇が、大きな話として広まっていたのである。
そして、どうしたら、その演劇を見ることができるのかと、巡らされていたのだった。
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