第437話
アレスとリーシャは二人揃って、学校に数日振りに顔を出していたのである。
途中まで、稽古があるリーシャを送っていき、アレスはホワイトヴィレッジに来ていたのだった。
移動している間、多くの生徒たちが、好奇な眼差しを注いでいたが、アレスは気にしない。
まっすぐに目的地まで、歩いていた。
ホワイトヴィレッジには、ゼインたちも来ており、訓練をしている他の生徒たちの様子を、四人で眺めながら、お喋りをしていたのだ。
「他のやつら、随分と、意気込んでいるだろう?」
訓練に勤しむクラスメートを見ながら、ゼインが口を開いていた。
ガラスの向こう側では、クラスメートが誰よりも、いい成績を叩きだせるように訓練していたのだった。
アレスたちがいる場所は、待機場所であり、研究員や教官が訓練している生徒たちの様子を見ていたり、他の生徒も幾人か、訓練している様子を窺っていた。
待機場所にいる生徒たちのほとんどが、オーラを放ち、目立つアレスを気にかけていたのだった。
「そのようだな」
これまで以上に、訓練に励む姿を、アレスの眼光も捉えている。
「例年と比べて、レベルアップしているかもね」
何気に、フランクが呟いていたのだった。
ゼインたち三人は、時折、ホワイトヴィレッジに顔を出しても、訓練することも少ない。
気が向いた際に、身体を動かしていたのだ。
他の生徒からしたら、そうした身勝手な行動をとるゼインたちにも、数値が僅差だったり、及ばなかったりすることも、苛立つ原因でもあったのである。
高校に上がり、ゼインたちは、中学の頃よりも、より訓練に身が入っていなかった。
「レベルアップしても、最終的に、選ばれないと、意味ないじゃないのか」
軽く揶揄しているティオだ。
フランクも、ティオも、ハーツパイロットにさほど固執している訳ではない。
友人であるアレスが訓練していたので、付き合っていたり、自身の能力も高かったこともあり、何となく、ズルズルと訓練を続けていたに過ぎなかった。
ただ、物凄く能力が高いリーシャが、突然、現れたことで、少しだけ、負けたくないと言う気持ちが湧き上がり、以前より、訓練することが多くなっていた。
「よくやるよ」
必死に訓練しているクラスメートを、フランクの双眸が捉えている。
いくら訓練して、レベルアップしても、最終目標であるハーツのパイロットに選ばれなかったら、軍属か、企業に就職か、稼業を継ぐか、一般生徒よりも、優遇されるとは言え、華やかな未来には、程遠いものであった。
「アレス、ラルム、リーシャは、パイロットになれるだろうけど、他のやつらは……、いないな」
訓練しているクラスメートを、ティオが見つめている。
ティオの頭の中には、アレスたちの数値が浮かんでいたのだ。
この三人の数値を、超えた者はいなかった。
「そうは、限らないだろう?」
ティオの発言に、フランクが突っ込んでいた。
「ステラのことか?」
容易に見当がついていたのだった。
最近、誰よりも、訓練している姿を見かけていたのである。
それも、自身の身体を痛めつけるような、激しい訓練を。
「ステラも、そうだけど、もう一人ぐらい、いけそうだろう。結構、伸びているやつもいるぞ?」
「伸びてても……な」
注がれたままのティオの双眸。
アレスの視線も、訓練をしているクラスメートを巡らせたままだった。
以前よりも、だいぶ上げた生徒もいたようだが、まだまだ、ハーツのパイロットに選ばれる基準には、達していない。
「アレスは、どう思うんだ? 後々は、アレスが率いるんだろう?」
「パイロットになるが、リーダーになるつもりはない」
ハーツのパイロットたちをまとめるリーダーが、ハーツのパイロットの中から選ばれていたのである。
アレスとしては、面倒なリーダーになるよりも、一隊員として、過ごすつもりでいたのだった。
「王太子だろう? 別なやつがリーダーになったら、やりづらいだろう」
ごもっともなゼインの意見に、二人が頷いていた。
ブスッとした顔を、アレスが覗かせている。
「そこまで、手をつけない」
アレスの言い分に、ある程度、アレスの苦労を把握していても、アレスの性格もそれなりに理解しているので、三人は、リーダーになると抱いていたのだった。
「ま……、まだ、パイロットには、なっていないからな」
「「だな」」
ゼインの言葉に、同意する二人。
「……」
「ところで、演劇科がやる文化祭の舞台は、いいのか?」
案じていることを口に出すゼインだ。
学校では、演劇科が文化祭で披露する舞台のことが、大きな話題になっていたのである。
主役の二人を、演劇化の生徒ではなく、美術科の生徒であり、学校の話題の三人のうちの二人である、リーシャとラルムがすることで、より様々な話題が、学校のあちらこちらで持ち上がっていたのだった。
「……問題ない」
問題ないと口に出しながらも、未だに学校の内部だけで収まっているが、リーシャとラルムのことが親しすぎると上がっていることを掠めていたのだ。
それと同時に、アレスとの不仲説も持ち上がっていた。
舞台の稽古のため、どうしても、二人でいる時間が長くなり、結婚する前まで仲がよかったこともあり、沈静化していた噂話が、また、大きく広がっていったのだった。
「アレスだって、把握はしているだろう?」
ゼインの双眸が、平静を装っているアレスに注がれている。
そして、ティオとフランクも、クラスメートの姿から、アレスに顔を傾けていたのだ。
「把握はしているが、くだらない」
「くだらないと言っても、放置すれば、とんでもないことになるのは、わかっているはずだ?」
心から心配していたのだ。
直接、言葉にしないが、好奇な目で見られることが多くなっていたのだった。
学校の中で、アレスたちの警備に当たっている者たちからも、報告が当たっていたのである。
「……」
ゼインから言われなくとは、身に沁みて理解していた。
そのため、これ以上、噂話が大きくならないために、アレスなりに苦心はしていたが、噂話を抑えるどころか、広かっているのが現状だった。
「アレスも、指で加えて見ている訳じゃないし……」
口を挟んできたフランクに、ジト目になっているゼイン。
「甘いぞ、フランク。今すぐに、演劇を中止させるべきだ」
「もうすぐ、文化祭だぞ。それ、不味くないか?」
眉間にしわを寄せているティオである。
「学校の内部だけじゃなく、外部にも広まるぞ? そっちの方が不味い」
ゼインの正論に、ティオも、フランクも、ぐうの音が出ない。
アレス自身も、二人を一緒にさせたくなかったから、中止にしたい思いは、常に秘めていたのだった。
けれど、〈乙女の祈り〉の力が暴走した際のことを思うだけで、安易に中止にさせることができなかった。
アレスの中で、比重を占めていたのは、暴走の根源となるだろう、ハーツにかかわらせたくなかったのだ。
だから、様々な感情を仕舞い込んで、演劇の許可を出したのだった。
「……くだらない」
強めに、アレスが吐き捨てていた。
何を考えているのか、わからない眼差しを三人が送っている。
「訓練をする」
「見ているだけじゃなかったのか?」
訝しげな表情を、ゼインが覗かせていたのだ。
表情を変えていないが、アレスがイライラしていることを三人が感じ取っている。
「対戦に、付き合え」
アレスの双眸が、三人を射抜いている。
有無を言わせない姿勢に、ゼインたちが嘆息を零していたのだった。
「「「わかったよ」」」
ガラスの向こう側に、四人で足を運んでいたのだ。
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