第436話
演出を担当しているビルゴの元に、ラルムが訪れていたのである。
ラルムに声をかけられるまで、舞台装置の修正について、裏方と話し合っていたのだった。
文化祭まで、演劇科は一般の授業がなくなり、文化祭で披露される演劇の稽古に当てられていた。
美術科も、ほとんどの授業が休講となり、文化祭に出展する作品造りや、演劇科の手伝いに回っていたのである。
この場に、演者は、誰一人としていない。
別な場所で、演者だけで、稽古が行われていたからだ。
その現場から、ラルムが抜け出し、こちらに足を運んでいたのだった。
忙しなく動き回っている裏方のことを気遣い、端により、二人で顔を合わせていた。
「セリフの変更か?」
ラルムから声をかけられることが多くなったビルゴから、切り出していたのだ。
これまで、何度か、リーシャのために、セリフの変更や休憩のことでお願いしに来ていたからだった。
「そう」
「どこだ?」
二人での打ち合わせもなれたもので、無駄な話をしない。
演出を担当しているビルゴも、文化祭までの時間が短く、無駄に時間を使いたくなかったのである。
「ここか……」
ラルムが求める箇所のセリフを見て、眉間にしわを寄せていた。
以前から、リーシャが突っかかる場所でもあったのだ。
だが、ビルゴとしては、変えたくなかった箇所でもあった。
「少し、短く……」
「俺としては……」
「この辺と、この辺を少し変えれば、短くなると、思うんだけど……」
ラルムの提案を聞いても、指摘された箇所を見つめているだけだった。
ようやく、顔を上げ、ビルゴの双眸が、隣にいるラルムを捉えている。
「リーシャ様の状況は、どうだ?」
ここ数日、学校に来ていなかった。
だから、当日、来られるのか、心配になっていたのだ。
「大丈夫。アレスの仕事が、忙しいみたい」
「そうか……」
安堵の表情を浮かべている。
だが、すべてがクリアになった訳ではない。
まだ、まだ、やらなければならないことがあったのだ。
「当日まで、でき上がるか?」
長いセリフになると、どうしても、台本を手放せない状況が続いていたのである。
開演まで、後、少ししかない状況の中で、未だに、台本が手放せない状況は、危機的状況とも言えたのだった。
「流れは、頭の中に入っているけど、みんなとの通し稽古が少ないせいで、自信が持てないのかもしれない」
「そうか……」
考え込むビルゴだ。
ビルゴとしても、通し稽古が少ないことを痛烈に感じていた。
リーシャが学校に来られない日の稽古は、流れが崩れないように、代役を立てて、通し稽古が行われていたのだった。
ラルムも、リーシャほどではないが、稽古に参加できない日もあり、演者たちの稽古が思うようにいかない時もあったのである。
「この箇所は、変えたくない」
ラルムと話しながらも、指摘された箇所のセフリが、変更できるか、模索していたが、変えたくないと言う結論を出していた。
「では、ここは?」
別な箇所を示していた。
先程よりも、セリフは短いが、言い回しが難しい箇所でもあったのだった。
「ここね」
同じように、考え込んでいる。
けれど、すぐ様、顔を上げるビルゴ。
「わかった」
ニュアンスを僅かに変え、セリフを短くしたものを口に出していた。
「これで、どう?」
「それで」
ニッコリと、ラルムが微笑む。
ビルゴ自ら、台本にセリフの変更を記入していった。
ビルゴとラルムが、セリフについて話し合いが行われている間も、裏方たちの手は止まらない。
演出を担当しているビルゴからの指摘を受け、舞台装置の直しに集中していた。
演者であるラルムがいても、違和感がない裏方たち。
稽古に参加できないリーシャのために、よく足繁く、通っていたから、見慣れた光景でもあったのだった。
開演まで、変更した箇所の修正の舞台装置を作るため、裏方たちも急ピッチで行われていたのだ。
演出を担当するビルゴのこだわりが凄く、違和感が生じると、すぐさま修正を裏方たちに命じ、休憩を取る暇もないほどだった。
当初の舞台装置とは、がらりと変わっていた。
その後も、ラルムも意見を出しながら、気になる箇所のセリフについて、話し合いが行われていたのである。
毎日、稽古に顔を出せない代わりに、リーシャの伝えてほしいことを、ラルムに頼んでいたのだった。
ラルムもまとめて、台本に書いていく。
「だいたい、こんなものか?」
ビルゴの眼光が、ラルムを注いでいた。
「そうだね。後、この辺の、僕のセリフを変えてもいい? リーシャのセリフを変えちゃうと……」
「確かに……」
ラルムの意見に頷く。
そして、新しいセリフを口に出していた。
「……」
「どう?」
窺うラルムに、顔を傾けていたのだ。
「ストレート、過ぎないか?」
少し難色を示すビルゴ。
「その方が、いいと思うんだ」
「……」
難色の表情が消えない。
「ダメかな」
まっすぐに、ビルゴの顔を見つめていた。
もう一度、思考をフル回転し、考えていく。
「……それで、大丈夫だ」
「よかった」
「これで、今日のところは、終わりか?」
「そうだね」
「じゃ、リーシャ様に、変更箇所を伝えてくれ」
「わかった」
ラルムが立ち去り、ビルゴは裏方たちがいるところへ、戻っていった。
納得できない箇所を、次々と上げていく。
裏方たちが、ジト目でビルゴを睨んでいた。
だが、ビルゴのこだわりの強さを知っているので、腹を立てながらも、言われるがまま、手を動かしていたのだ。
声を張り上げているビルゴ。
ラルムと話している間も、演出も、舞台装置も、変えたい箇所が、次々と浮かんできていたのだった。
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