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百合の花  作者: しらゆり
4/6

部屋

学校からさほど遠くもないこのマンションを拠点に選んだのは正解だった。少し疲れた百合子は大きめのソファーに腰を沈めると、これからのことを考える。

「何処にいるのだろう?」

この地域にいるという情報は掴んでいる。あとは闇雲に探すしかなかった。

高校生という設定を選んだのは失敗したかな?という気持ちもあったが、この年齢が体力面で一番動きやすい。それにあの蒼井の視線────上手く使わせてもらおう。

セーラー服を床に脱ぎ捨て、下着姿になった百合子はベランダに出た。

この辺一帯に百合子の住むマンションほどの高層ビルは無い。加えて最上階の部屋の為、下着姿でベランダに立っていても誰にも見られることはなかった。

外の熱気が百合子の体を包み、うっすらと汗ばむ。髪をかきあげると心地良い風が吹いてくる。

「出てきなさい」

優しげに百合子が呟くと、マンションの屋上からぴょんと一匹の猫が降りてきた。

綺麗な毛並みの黒猫は、唯一の白毛である四足を揃え、鳴き声をあげる。百合子が屈んでその喉元を撫でてやると、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らした。

「それで、どうだったの?」

途端に喉の音は止み、悲しそうな顔を見せる。

「そう…仕方が無いわ」

百合子も一瞬悲しい顔を見せたが、黒猫に微笑みを向ける。偽りではない本物の百合子の笑顔────外での百合子しか知らない人から見れば、それは天使のように可憐で儚げで、魅入ってしまうだろう。

さぁ中へ入りましょ、と黒猫と百合子は共に深呼吸をしてから室内へ戻った。


先程までいたマンションの清潔で、かつ生活感のある一室とは違う、百合子好みの――傍から見ればただの悪趣味でしかないが、牢獄の様な古びた部屋が広がっていた。床や壁など周りを囲う銀色は所々錆びついており、家具といった類いのものは何一つ置いていない、ただの巨大な鉄製の箱だ。

そこへ百合子は寝転がる。鉄の床から百合子の体へ、ひんやりとした冷たさが伝わる。黒猫はすかさず、百合子の首元へ身を潜らせた。

「こうして一緒に丸くなってると昔を思い出すね」

百合子はかつて自分の横に居た男を想う。温もりを感じた気がして、ふと視線を横へ向けるが、そこには何もない壁が広がっているだけ。

黒猫の頭を撫で、そのまま目を閉じた。


────あの人が笑っている。手を伸ばし、百合子の頭を優しく撫でる。百合子も手を伸ばすが、そこにいた者は消え、空間だけが広がった。

目を覚ますと百合子の頬は濡れていた。同じく目を覚ました黒猫が百合子の頬を舐める。

「ありがとう」

百合子は黒猫の顎を撫でてやり、そして深く息を吐いた。

一変、マンションの一室が元へ戻り、百合子は脱いだままの制服を床から拾うとハンガーへ掛け、ソファーに横になった。

テレビを付け、横になったままニュース番組を観る。番組内では最近起こっている一連の『不可思議な殺人事件』について、討論が行われていた。

百合子にとっては不可思議でも何でもない。百合子と同じ“プレイヤー”の起こしたものだろう。その討論をこの先観ていても何も興味が生まれないと感じ、少年がモンスターを操り冒険をする子供向けのアニメ番組へとチャンネルを変える。

欠伸をしながらテレビを観ていたところへ突然インターホンが鳴った。

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