72話
私は、ハッとして目を覚ました。
見慣れないベッドの天蓋がみえて、見間違えかと瞬きを繰り返す。
「やあ、目を覚ましたかい?」
声をかけられて振り向くと、なんとレオン・クロフォードがいた。
「レオン様!? どうしてここに?」
私が起き上がると、自分は大きなベッドに寝かされていたとわかった。
「私……気を失ったの……?」
「ああ、きみが森で気を失っているところを見つけてここまで運んだんだ」
「そ、そうなのですね。ありがとうございます」
すると、レオンはくすりと笑う。
どうしたんだろう?と思っていると、
「実はきみを見つけてきたのは、ヴィクトルくんなんだよ」
「えっ?」
ヴィクトルが私を?
「前にも言ったけど、彼の君への想いは主従の忠誠心を超えて愛情になっている」
「そう、ですわね」
後でヴィクトルにお礼を言わないといけない。
「それに君もそれに応えようとしている」
「え? 私も……?」
「まさか、気づいてないわけじゃないよね? うぐみ嬢」
「!?」
うぐみ、嬢!?
私が目を丸くして固まっていると、レオンはさらに笑った。
「悪いね、全部聞いてたんだ。君は、本当のミア・フォルトナーじゃない。そうだろ?」
私はこくっ、とうなづく。
まさか、レオン様にあのセリフを聞かれていたなんて……。
あれ? でも、王子は?
「ところで、王子様はどこへ?」
王子は聖女に刺されたけど、聖女の加護があるため、回復していたはず。
でも、あの時あんなにあっさりと聖女を切り捨てた王子を思い出して、背筋が冷えてくる。
「王子は……療養することになった」
「療養?」
「そう、療養。心の病になられて、南部のベローナ城に移られるため、今向かわれているところだ」
「!!」
まさか、王子が南部の城へ移ることになるとは思ってもみなかった。
「王子のこと、許してやってほしい……」
レオンは私の顔色を読みとって優しく声をかけてくれた。
「ゆるすも、なにも……」
私は本物のミアではないのだから、王子とミアの過去に何があったのかまではわからない。
でも、友人関係ではないことは間違いない。
「君がどこまで知っているのかしらないが、王子とミアは恋人同士だった。しかし、聖女と婚約が正式に決まり、ミアは別れることにしたようだ……」
「でも、王子は別れられなかった」
レオンは深くうなづく。
「まさか、悪評高いミア・フォルトナーに本気だったとは……ミアが避ければさけるほど、王子は異常な執着をみせた」
「……あの、信じてもらえないかもしれませんが、私は他の世界からこちらの世界へやってきた転生者なんです。私がこの世界へ来たとき、森で本物のミアにぶつかって、ミアはそのせいで……」
今でもミアにぶつかった時の感触が残っている。そのことにブルッと震えが走った。
レオンはしばらく私の顔を見ていたけど、
「いや、君の正体には驚いたけど、今から思えば納得だ。だって、うぐみ嬢とミア嬢では全然性格が違うからね」
そんなあっさり納得されるとは驚きだ!
「ハハハ、そんなに驚かなくてもいいだろう? 仮にも私は君の婚約者だから、それぐらい調べるし気づくよ」
「し、調べる?」
「馬車の事故で記憶喪失になってから、別人みたいになった。周りの使用人に優しくなり、最終的にはあの貴族嫌いな人狼のヴィクトルまで手なずけた」
「でも、ミア・フォルトナーは生きていない」
「そう、生きてはいない。森で王子に殺されたから……」
「え!?」
「ずっと、ミア殺しは自分だと思ってたみたいだけど、違うんだ。あの日、森で王子とミアは会う約束をしていた。王子はもう一度よりを戻すためにミアを説得しようとした」
私はレオンの話しを信じられない気持ちで聞いていた。
「でも、ミアの気持ちは変わらなくて冷たい言葉をあびせられて……王子はカッとなり首をしめて殺してしまった。王子に証拠隠滅を頼まれて穴を掘ったのは私なんだ」
「そんな……」
振りかえれば、色々な点で納得がいく。
ミアにぶつかった時、ミアはもう息もなくて冷たかった。
それに、準備されていたようなあの穴は……レオンが掘った墓穴だったのだ!
へたぁ~と、力が抜けていく。
「私、ミアを殺していなかった……」
よかった。本当に。
すると、レオンは突然席を立った。
「これから私は忙しくなるから、しばらくは君に会えそうもない」
「……そうなのですね」
「ハハ、どうして? とか聞かないの?」
「あっ、すみません……」
「ほんと、私には興味がないものね。君は……。まあ、そこがいいんだけど」
しれっとレオンは言ってから、コホンと咳ばらい。
「王子が廃退子となり、色々と順番が繰り上がってね。私が皇太子をすることになったんだ」
「えぇ!? つまり、レオン様が次の王位継承者ですか?」
「そういうこと」
ニヤリと笑った顔は本心からのようだ。
レオンはつと手をのばして私の髪にふれた。
金色の1房を指でもてあそぶ。
「あのまま結婚してたら、今ごろ君は、この国の王妃になっていたのに……」
レオンの甘やかな香水の香りが鼻をくすぐる。
彼は私の髪を手放すと、
「これを渡しておくよ。でも、ヴィクトルにあきたらいつでも戻ってきてくれていいから」
レオンは私に一枚の紙を渡した。
「これって……!」
それは、婚約破棄の紙だった。
そこには、レオンの綺麗な字で氏名のサインがされていた。
これで契約は無効ということになる。
「ありが……」
顔を上げてお礼を言おうとしたら、レオンの唇が私を黙らせた。
キスされてる! って気づいた瞬間にはレオンの舌が私の中に入ってきて絡みつくように密着してくる。
(ふっ、う……、)
息が上手くできなくて私は逃げようと手で彼の胸をおした。
でも、レオンは構わずに私の頬に両手をそえて逃がすまいとしてくる。
(レオン様……キスが上手すぎる……!)
ダメ――!!
私は頭が真っ白になってしまい、されるがままになりそうだった。




