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70話

じりじりと短剣が迫ってきた。

とても聖女がするべき行為ではない。

なにが彼女をここまで追い詰めてしまったの!?


「ミア・フォルトナー、貴方は死ぬべきですわ!」


聖女は短剣を高く振り上げ私めがけておろした。


ヒュン、と空気が動く。


「!!」


――もうダメだ!!!!


転生した先でも長生きできないんだ私。

まだ、ちゃんとした恋愛もできなかったし、貴族だからもっと贅沢な生活を満喫したかった……。


(ごめんね、ヴィクトル……私、貴方の無実をはらせなかった)


私はあきらめて目をつむる。


……あれっ?


何も起こらないぞ?


そろりと目を開けると、聖女は短剣を振り上げたまま固まっていた。


「ど、どうなってるの?」


私は聖女の顔を見た。


「あなた様がなぜここに!?」


聖女は驚愕した表情をしている。


私が後ろを振り向こうとすると、ふわりと体が宙に浮く感覚がした。

そうして、あれよあれよと誰かの懐に抱えられる。


「私のものに手を出そうとするなんて、悪い子だね……」


頭の上から低い声がひびく。

顔を上げると、きれいな顔がこちらを見ていた。


サラサラの金髪に優しい微笑み。

少し痩せているけれど、高貴なオーラが全体からあふれでている。


この顔には見覚えがあった。


でも、どうしてここに――!?


「どうしたのハニー? そんな驚いた顔をして」


くすくす笑うのは、この国の第一王子様。


「ハニー?」


王子様は、ミアのことをハニーと呼ぶの??


「ハニーは、ハニーでしょう?」


答えになっていないけど、まずは聖女から助けたことにお礼をしなければ。


「助けていただき、ありがとうございます」


「あれっ、いつもと雰囲気が違うね。なぜ、そのように他人行儀なの?」


「他人行儀と申しますか、王子様にそんな……」


「つまらないな、いつものミアは、もっと情熱的でしょう?」


微笑みの中になにか強制するような意図が読み取れて、ぞわりとする。


聖女が言っていたように、ミアと王子様は、恋人同士だったのかも……。


「そのようなこと! なんてはしたない!!」


近くで見ていた聖女は、嫌悪を隠さずさけんだ。


私は王子様に地面におろしてもらうと、ようやくホッと息をはいた。


「あなた様は……婚約者のわたくしがいるというのに、こんなアバズレを助けて何を考えておいでなのです?」


ふつふつと火山からマグマが溢れるように、怒りをこめて聖女は王子をみた。


「婚約者なんて、この国の建前のようなもの。本気にされてはこちらも困るよ」


しれっとした顔でのたまう王子。


「わたくしが、どのような思いで過ごしてきたか……あなた様は、何もご存じてない!!」


涙ながらにうったえる聖女。

それを冷遇する王子。

なんだか、聖女が可愛そうだ。


「ええっと、私はこの辺でおいとまします。結婚式の途中でしたし……」


そそくさと逃げようとしたところで、王子に腕をとられ、引き留められた。


「ミア! どこに行くつもりだい?」


「すみませんが、私は、レオン様のところに戻ります」


「まさか、本気でレオンと結婚するつもり!?」


本気もなにも、なにせヴィクトルの無罪放免という条件がかかっているのだ。

戻らないわけにはいかない。


「ごめんなさい……」


私が背を向けると、王子は行かせまいと前に立ちはだかる。


「きみは、私と結婚するんだ!」


「は……?」


ミア、王子との結婚まで取り付けたいたの!?

もしかして、本気だったのかな!?

色々と戸惑っていると、


「そうはさせませんわ!」


聖女はいち早く動いて、王子の後ろに立っていた。


「ぐっ! おまえ、なにを……!?」



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