68話
――ミア――
歴史のある荘厳な大聖堂。
ステンドグラスから、キラキラと光が降りてきて辺りを眩しく照らしている。
「私、ミア・フォルトナーは、今日結婚をします!」
ちっとも嬉しくないけど。
むしろ、どうして、こうなっちゃったんだろう…。
しかも、あの何度も何度も私を死に追いやった、レオン・クロフォードと結婚することになるなんて。
これまでのミアの人生にはなかった展開だ…。
(私は、自分で自分の首を絞めてしまったのかも……でも、これしか選択肢はなかった。ヴィクトルを守るためには……。)
ヴィクトルの無実を証明してもらう。
その代わりに、レオン・クロフォードは、私との結婚を条件に出してきた。
「ミア、君には損はないと思うけど……。」
レオンの庭園でニッコリ笑った顔が頭から離れない。
「レオン様……これだけは約束して下さい。私と結婚した後も、ヴィクトルの身の安全を保証すると」
「……そんなに信用できない?」
一瞬、冷たい声音になったので、ゾクッとする。
怒らせてしまったかしら?
でも、これだけは言っておかないと後で後悔などしたくはない。
私はレオンの瞳を真正面から受け取った。
「……ほら、やっぱり。君は、誰?」
レオンが本当に真顔で私に迫ってきた。
急に、何!?
私は慌てる。
「私は、ミア・フォルトナーですよ?」
「いや、違うね。前のミアは、もちろん美しかったけれど、ただ、それだけの女だった」
レオンは、さらっと私の顎をすくうと、よく見えるように上を向かせた。
レオンの黒豹みたいな黒髪や、透き通るような肌、獣のみたいな血色の瞳が、迫ってきて息をのむ。
「昔のミアは、本当にどうしようもない令嬢だったよ。社交界デビューをしてから、次から次へと男を変えて。気に入らない人間は徹底的にイジメて、叩き潰す」
ごくりっ。
そ、そんな人だったんだ。
ミアって、本当に悪役令嬢だったのね。
「でも、ある時からミアは変わった。
逃げ出して、馬車と事故を起こしたメイドの看病をし、侍従の人狼の男を心配し、身を投げ出して無実を得ようとする。どう考えたって別人の所業だろ?」
ヤバいーー!
色々とバレちゃってる。
もちろん、本物のミアではない。
だからって、本当のことを伝えるわけにはいかない。
「ふふ、動揺して瞳が揺れているね。脈も早くなった」
「お、お戯れは、止めてください」
私はとにかく気まずくて、レオンの手から逃げる。
「気分をそこねてしまったのなら、悪かった」
レオンはあっさりと席へと戻る。
ちょっと拍子抜けだ。
彼なら、本心を聞くまで尋問・拷問など朝飯前だろうに。
「……とにかく、今の君に嫌われたくないんだ」
「えっ」
これはレオンの本心なのだろうか?
それとも、また私を罠にはめようとしているの!?
「これは、本心だよ。ミア」
少し傷ついた顔でレオンが言う。
「君の条件は必ず守るよ。それに、他の男を愛していてもかまわない……。君をそばに置いておきたいんだ」
真剣な声音でレオンは私の手をとった。
ドキッ。
こんなセリフ、レオンの口から出てくるとは思わなかった。
いつだって、私に死を与える彼は冷酷で無慈悲。
1ミリの感情も見せなかったハズなのに。
手に少し力がこもる。
「ミア・フォルトナー。俺と、結婚してください」
レオンはそう言って、私の手の甲に口づけをした。
ひえぇーっ!?
この人、本気なんだ。
本気で私と結婚しようとしている!?
「返事は?」
私は自分が固まっていたことに気づいた。
「……は、はい」
「よかった!!」
レオンは子供みたいに無邪気に笑った。
本当に別人みたいなのは、レオンの方じゃなかなぁ。
それから、レオンは私の左の薬指を少し噛んだ。
「ひゃっ!」
「これで、俺のもの。もう、逃げられないよ、ミア」
「…………」
「では、まずは君の父ぎみに結婚の挨拶にいかないとね!」
楽しそうなレオン。
なんだか、怖いぐらいに話が上手く纏まってしまった。
私はこれが正しい選択だったのか、どうなのか、少し不安になった。




