64話
ヤードがヴィクトルを探しに屋敷に踏み込んだ日から、二週間が経っていた。
一度は安心できたものの、ミアもヴィクトルも執事頭の家から動けないでいる。
このまま執事頭の家に居候をするのも限界があるし、ヴィクトルの娼婦殺しの罪もはれていない。
(この状況、なんとかしないとな……。)
そうはいっても妙案もなくてどん詰まり。どうしたものか……。
執事頭に相談をしてみると、とんでもない回答が返ってきた。
「困りましたな……ふむ……仕方ないですな。ここは、婚約者様を頼ってみてはいかがでしょうか?」
「……はい!?」
「レオン・クロフォード様です」
執事頭の予想を越えた発言に絶句する。
「なにを言うのよ、レオンは、ヴィクトルを娼婦殺しの犯人にした張本人かもしれないのよ!」
「だからこそですよ。レオン・クロフォード様には無実の人間を簡単に有罪にできる力がある。それに彼は王子の側近で周りからの信頼も厚い」
「だけど……!」
レオンに力があることは重々知っている。でも、だからと言って彼を頼ることが解決になるのか……。
「このまま私の家でヴィクトルをかくまうのも限界がございます。それに、ミア様もそろそろ屋敷へお戻りにならないといけません。そうなると、頼りになるのは彼しかいないでしょう」
「それは、そうなのだけど……」
簡単にはい、そうですかとは言えない。相手はあのレオン・クロフォードなのだ!
私がヴィクトルの無実を頼んだら、何を要求してくるかわからない。
「私は、反対です!!」
突然後ろで声がして振り向くと、病み上がりのヴィクトルが立っていた。
「あいつを頼るぐらいなら、死んだ方がましだ!」
凄い剣幕の彼を見るのははじめてで、こちらも驚いてしまう。
「ヴィクトル、落ち着いて」
「落ち着くなんて出来ません! ミア様はあいつの恐ろしさを解っていない! あいつに私の無実を頼み込んだら、見返りに無理難題を要求してくるに決まってる!!」
ヴィクトルは息が上がってはぁはぁと苦しそうだ。見ているこちらが苦しくなる。
「ヴィクトル、大丈夫よ。そう易々とレオンに無理難題を言わせないわ」
「その自信は、どこからくるんですか?」
ヴィクトルは呆れている。
「ともかく、私はヴィクトルの無実をレオンに頼んでみる」
「とんだお馬鹿です……あなたは……」
そばでやり取りを聞いていた執事頭が、「コラ! ミア様になんてことを!!」と怒ったがヴィクトルはそ知らぬ顔をした。
「だって、私は悪役令嬢ですもの」
そうそうレオンの言いなりになるものですか!
今一度、自分に強く言い聞かせた。




