63話
――ミアの屋敷――
屋敷の玄関ホールに突如として大勢のヤードがなだれ込んできた。
細身で髭面の男が前に進む。どうやら、彼がこの組織のリーダーのようだ。
「なにごとですか!?」
執事頭がヤードのリーダーらしき人物に問いただした。後ろでメイドたちが不安そうな顔をして立っている。
「この屋敷で娼婦殺しの犯人をかくまっているだろう? ヴィクトルといったか? ヤードの猟犬を森で倒して怪我をしているはずだ! 今すぐ出せ!!」
ヤードのリーダーは、早口で捲し立てると執事頭をギロッと睨み付けた。
しかし、執事頭はそれに怯まなかった。
「ここは歴史も格式も高いフォルトナー家ですよ。そんな娼婦殺しの犯人なぞをかくまうはずがないでしょう!」
「なんだと! 嘘をつくと、お前も牢屋へ連れていくぞ!! 出せないのなら、我々ヤードが屋敷を探してやる」
「ふん! 屋敷を探したところで、ネズミ一匹出てきませんよ」
鼻息荒くどちらもゆずらない。
まるでブルドック(執事頭)と、ドーベルマン(ヤード)が顔を突きつけて対峙しているみたいだ。
「もし、娼婦殺しの犯人が出てこなかったら、貴様はヤードをクビになるぞ!」
「なんだと! 今にみていろ!! さあ、お前たちとっととヴィクトルを探し出せ!!」
ヤードのリーダーは、部下に命令をして、自分もずかずかと屋敷の中へと歩いていった。
その後ろ姿を、執事頭は先程の威勢とは全く違う目で見守っていた。
(ああ、ミア様……勘弁してくださいよ。)
と心の中ではずっと叫んでいた。
すぅすぅと寝息がしている。ヴィクトルがようやく安心して眠ってくれた。
ヴィクトルが娼婦を殺した罪で逃げているとレオンから聞いた時は、心の奥底が刃で刺されたみたいな気持ちになった。
レオンから「気晴らしに連れていった娼館でこんなことが起きてしまって申し訳ない」
と謝られたが、なぜか私はそれが信じられないでいたのだ。
(あの、メイドの少女の死を誰よりも悲しんで、気落ちしていたヴィクトルが? 娼婦殺しなんて嘘みたいな話だわ。何か理由があるのかも……?)
ずっとそう思ってヴィクトルの行方を探していた。
でも、3ヶ月もの間、ヴィクトルの行方は掴めず歯がゆい思いをしていた。
その間も、レオンは前以上に頻繁にミアの元を訪れるようになっていた。
爵位も上だし、一応婚約者なので無下にはできず、(でも、可能な限り理由をつけて逃げていた)対応していると、この間、とうとう「結婚しないかい?」と言われてしまった。
レオンいわく、
「結婚すれば、すぐにミアに会えるし、体調が悪くても気づいてあげれるから……」だそうだ。
冗談じゃないっ!!
レオンと結婚なんてしてしまったら、ソッコーで何かしらの罪を擦り付けられて、処刑台送りになってしまう!
すみやかに拒否すると、レオンは残念そうな顔をした。
「僕は、こんなにもミアのことを思っているのに、ミアはそれほど僕のこと、好きじゃないみたいだ……」
高身長を丸めて猫みたいに私にすり寄ってくる。
(やー本当に、その通りです!)
なんて言えるはずもなく。
「結婚なんて早いですわ。まだ、レオン様とは恋人気分を味わっていたいんです」
なんて、悪役令嬢ぽいセリフをはいといた。
我ながら最近では悪役令嬢ぽいことを言えるようになってきている。
「そっかー、それもそうかもね」
あっさりとレオンに引かれたので、結婚したいと言ったのも、どこまでが本気か分からなかった。
(真に受けてたら身がもたない!)
そんな時、屋敷の周りを気晴らしに散歩していたら、倒れているヴィクトルを発見した。というところだった。
そして、ヴィクトルを執事頭に頼んで運んでもらった。さすがに自分の屋敷に連れていくわけにはいかず、馬車で少し移動した執事頭の家にかくまうことにしたのだ。
はじめは渋っていた執事頭も最終的には折れてくれた。
(今頃、屋敷にヤードたちが訪れているのだろうか……?)
ここは屋敷から離れているし、木々に隠れた場所なので、そう簡単に見つかることはなさそうだ。
ただ、不安がないわけではなかった。
これからどうすべきか、考えないといけない。
ミアは、ヴィクトルの寝顔を見つめながら、ある決意をしていた……。




