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57話

 人狼たちのリンチは20分も続いた。


「おい、そろそろ貴族の元へ返さねぇと不味いぞ」


「それもそうだな。ほらよ、とっととご主人様の所へいきな」


 ようやく彼らはヴィクトルを解放した。

ヴィクトルは立ち上がると、よたよたしながら部屋を出た。

確かに顔は殴られていないのでキレイなまま。でも、首から下はひどい有り様で歩くのもやっとのことだった。


「せいぜいご主人様のお楽しみの邪魔をしないことだな!」


「違いねぇー」


 ヴィクトルの背にむかって、人狼たちはゲラゲラ笑った。

 お楽しみ? 何のことだ……?

 ヴィクトルは頑丈な扉を開くと、店の中へ足を踏み入れた。

中は薄暗く、所々に蝋燭の火が揺らめいていた。

暗闇の中で、女のクスクス笑いがどこからか聞こえてきた。

 ムッとする甘い香りがたちこめている。店の中で香を炊いているようだ。


鼻が……曲がりそうだ。嗅覚がまったくきかない。

それにしても、肝心のレオンはどこへいったんだ?

 ああ、視界までこの匂いでおかしくなってくる。

 すると、暗闇から背の高い男がこちらに歩いてきた。


「おや、ヴィクトルくん。派手にやられちゃったみたいだねぇー、奥で手当てしてもらったほうが良さそうだ」


 男は声からするにレオンのようだ。

レオンはヴィクトルの肩に腕を回すと、勝手に奥へとむかう。


「……ど、どこへ連れていくつもりですか?」


「もう、足取りもおぼつかないじゃないか! 奥に休憩場所があるから今から君をつれていくね」


「いや、放っておいて下さい!」


「何を遠慮してるんだい? 今は僕が君の管理者なんだ。言うことを聞いてもらうよ」


 グラグラと頭がゆれている。

ヴィクトルは体に力が入らなくなっていた。

レオンに肩をかりて、ヴィクトルは最奥にある休憩場所へ運び込まれたのだった。


……トル、……ヴィクトル。


 誰かが自分を呼んでいる。

ヴィクトルが目を覚ますと、金髪の美しい娘がホッとした顔をした。


「ミア……さま」


 どうやら自分は夢をみていたらしい。

ひどく重たい頭をもちあげベッドから起き上がる。


「心配したのよ……ヴィクトル」


 ミアは甘い声音でヴィクトルに顔を近づけささやいた。あたたかい吐息が微かに耳にかかる。

なぜか、それがゾクッとした。


「ミア様、なんだかいつもと様子が違うような……」


 戸惑いを隠せず、ヴィクトルは急いでミアから離れた。

自分がどれほどミアに恋い焦がれようと、所詮は人狼の元奴隷。身分の差はあきらかだ。


「そんなにかしこまらなくてもいいのよ、ヴィクトル」


 ミアはなだめるようにヴィクトルを横にさせた。

 ヴィクトルは胸騒ぎがした。

声も顔もミアのはずなのに、なぜか違和感を感じる。でも、それは本当に些細なことで自分の勘違いかもしれない。

 すると、ミアはサイドテーブルに置いてあったグラスを持った。


「さあ、これを飲んでゆっくりお休みなさい。次に目が覚めた時はビックリするはずよ」


「ビックリするとは……?」


「クスクス……それを話しちゃったらつまらないじゃないの」


 可笑しそうに笑うミアはやはりいつものミアだ。

やはり、さっきの違和感は勘違いだったのかもしれない。

ヴィクトルはそれで警戒をといた。

ミアはヴィクトルにグラスに入っている赤い飲み物をのませた。

はじめは甘く、次第に苦く…。喉を通るとカッと熱くなる。アルコールが入っているのがわかった。


「いいこね、ヴィクトル……」


 ミアの唇がスローモーションみたいに見えた。

どんどん視界が狭くなっていく。

そうして、ヴィクトルは夢の中へと落ちていった。


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