54話
――レオン――
艶やかな大理石の廊下を歩いていく。この通路には歴代の国王の絵姿がかざられていた。
レオン・クロフォードは、その最後の絵姿に視線をやり、次の空白に意識をむける。
順当にいけば、次の国王は自分と同じ乳をのみ育った、心より敬服している人物がくるはずだ。
それは、現国王の第一王子。
ベルナルド・アレクサンダー・ロイ
彼は幼い頃より人に愛されていた。
輝くブロンドの髪、白磁のような肌、まるでエメラルドを眼窩に収めたような美しい瞳。
神が与えたのは美しい容姿だけじゃない。勤勉で、歴史、哲学、政治に精通し、人柄もよく皆に分け隔てなく接する。
この国の未来は明るいと周りの者たちも確信していた。
ベルナルド……。
彼は素晴らしい王になる人物だと、あの頃の僕も信じて疑わなかった。
――ベルナルドが、二十歳の誕生会でミア・フォルトナーに出会うまでは。
いつの世にも、悪女という女はいるもので、ベルナルド王子の前に華麗に現れたミアは、一瞬にして彼の心を虜にした。
ミアは、高貴な身分な令嬢にも関わらず、奔放な性格だった。
それが純粋なベルナルド王子には魅力的にうつったのかもしれない。
ベルナルドと愛を誓ったにも関わらず、ミアは様々な男と情をかわした。
それは貴族だけではなく、身分の低い者もいた。
現在、すっかりミアの忠実な愛犬となった、ヴィクトルもその1人だ。
コン、コン、コン……。
「レオンです。入ります。」
レオンは扉をノックすると、彼のいる部屋に足を踏み入れた。
カーテンが閉めきられており、朝だというのに夕方のように薄暗い。
天蓋付きの豪奢なベッドの中が、もぞもぞと動いて、げっそりと痩せこけた亡霊のような青年が起きあがった。
「やあ、レオン……。」
レオンはベッドの側まで歩いていく。
「また、眠れなかったのかい?」
目の下にこびりついたクマが、その事実をありありと物語っていた。
「ああ……。また、ベッドの中でミアのことを考えていたら、夜も眠れなくなって……その内、外が明るくなって……」
「……あんな女のことなんて、考える必要はないよ。」
「クスクス……あんな女だなんて、ひどいなレオンは。私の想い人に向かって」
ベッドサイドの水差しから、コップに水を注ぐと彼に渡す。
「ありがとう。」
ガリガリの骸骨みたいな手がそれをうけとった。
昔は、それなりに体を鍛えていて、手にも腕にも肉がついていたはずなのに。
これでは浮浪者と見間違えてもおかしくはない。
悔しかった……。
もし、過去に戻ることができるなら、ベルナルドを絶対にミア・フォルトナーには会わせないのに。
ああ、どうしてこんなことに……!!
幼い頃よりずっと彼をみてきた。
ベルナルドは、王になるべくして生まれてきたと言っても良いくらい素晴らしく完璧な人間だったのだ。
しかし、誰にも弱点はあるもので、厳選された綺麗な世界で生きてきた王子は、美しい魔性の女にあっさりと骨抜きにされてしまった。
彼が溺れているのはいい。でも、ここまで落ちてしまっては手のつけようもなかった。
ミア・フォルトナー。
あの女は生きていてはいけないのだ。王子をたぶらかし、周りに害を与えることしか出来ない。美しくも可哀想な女……。
レオンは、ミアの屋敷で彼女の瞳をのぞきこんだ時のことを思い出した。
ゾクッとした。
あの美しい碧眼を永遠に見ていたいとさえ思った。
ミアの屋敷で働いていたミレディー、彼女の葬儀の時も、死の女神のごとく存在が輝いていた。
今、王子が首にかけている五芒星のペンダントを見る。
王子がミアのために職人に作らせた貴重な石が使われている。
世界でひとつしかないプレゼント。
そう、自分がミレディーを脅して、ミアがつけていたペンダントを盗ませたのだ。
王子とミアが繋がっている証拠を隠すために――。




