53話
私が赤い顔でフラフラと廊下を歩いていると、目の前のドアが突然、外側にひらいた。
「いだっ!」
「おっと! これはミア嬢。そんなところに立っているとは思いませんでした」
なんともタイミング悪く、レオンが現れ私の顔を覗き込んでくる。
「おやおや? 妙に頬が赤いみたいですね。ヴィクトルくんと何かありましたか……?」
ビクッ!!
思わず私は反応してしまった。
この男……まさか、さっき私がヴィクトルとキスしたところを見ていたの!?
「な、なんでもありません」
私は顔をそむけた。
「それで、ヴィクトルくんを預けるという話しは纏まりましたか?」
「それは……まだ。でも、やはり、私は反対……むぐっ!」
後ろから誰かの大きな手で口をふさがれ、私はあやうくその手を噛みそうになった。
次から次へと、なに……!?
「私はクロフォード様の所へ行きます!」
「!!?」
唖然として、私は無理やり口元の手をひきはがした。
私の口をふさいでいたのは、ヴィクトルだった。
「ヴィクトル、なにを言い出すの! 私は行かなくても良いといったはずよ!!」
レオンがどれほど残忍な性格かわかっていないのだ。
進んで藪に潜むヘビ……いや、猛獣に噛まれに行くなんて、ありえないっ!
強い視線でヴィクトルを制したけれど、ヴィクトルの意思は固かった。
「いいえ。ミア様はご心配なさらず、私の帰りを待っていてください。必ず無事にあなたの元へ帰ってきますから!」
「ヴィクトル……」
そこまで言いきられると、もう反対できなくなっちゃう!
「ほらほら、ヴィクトルくんがこんなに前向きなのに、主人のミア嬢が反対してちゃダメだろう? 心配しなくてもいいよ。僕が貴族としてちゃんとした躾を行うだけさ」
レオンは、ヴィクトルの隣にたつと、気安く彼の肩に手をおいた。
ヴィクトルがピクッと片方の眉を動かしたけど、何もいわずに頷いた。
「わかりました。では、一週間だけです。それ以上は困ります。クロフォード様、ヴィクトルのことを宜しくお願いいたします。必ず無傷で私に返してくださいね」
念を押すため私は睨むようにレオンを見つめていった。
「了解だよ、ミア。僕に任せておいて」
レオンは軽い調子で、私にウィンクをパチンと返してきた。
何もしらない令嬢ならそれにときめいたかもしれないが、私はうすら寒い面持ちで受けとめた。
それから、ヴィクトルは荷物を簡単にまとめて、レオンと共に彼の屋敷へとむかった。
まさか、このことがあんな事件になるなんて……今の私には知りようもなかった。




