↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/73

26話

 追憶……。


 ――森の中であの子と待ち合わせ。

なんて、わくわくするこどだろう!


 あの子と会えると思うと、私は、夜も眠れず、まるで、クリスマスを待ち遠しく思う小さな子どもみたいに、指折り心待ちにしていた。


 

 このウェンティン王国では、聖女が絶対的存在価値をもっている。

かくゆう、私の母も、昔は聖女だった。


 町の屋台で果物を売っていた母は、28歳の時に、突然神より天啓を賜り、聖女となった。

――聖女の力は国家の礎となる。

国中で、聖女の誕生を喜ぶ祭典が連日催され、母は当時の王子、私の父と結婚した。


 果物売りの一般人から、いきなり聖女となり、王妃へ……! なんて羨ましいのだろう!


 このシンデレラに、国民から羨望と少しばかりの嫉妬がまざっていたころ。


 しかし、聖女になった母は、これっぽっちも嬉しくはなかった。むしろ、絶望していた。


当時の母は結婚をしていた。

愛する夫と、幼い娘がすでにいた。

慎ましくも幸せな暮らしは一変し、聖女となった母は、家族から引き離された。


 聖女となった以上、一般人の暮らしはできなかった。

国からは聖女の力を期待され、国民の前では泣くことも、不満を言うことも許されず……随分と辛い思いをしてきたそうだ。


 そんな母と結婚した父は、当時19歳。

王立アカデミーを卒業したばかりで、輝くプラチナブロンドに、端正な顔をしていた父は、周りの淑女も放ってはおかず、頻ぱんに女性をとっかえひっかえするような女好き。


 そんな二人の気が合うはずもなく、無理やり結婚させられた。


 気高き王族として育てられた若き父は、年増でなんの教養も美貌も持ち合わせていない母を軽蔑していた。

 対する母も、年下で頼りがいもなく、自分を常に冷たく見下してくる父を好きになれなかった。


 周りの期待は大きく、冷たい結婚生活を送っていたが、数年後には私が生まれた。


――私は、母からも、父からも、愛されたことはない。


 両親は、いつも、自分達のことで忙しく、顔を合わせるのも年に数回のみ。

会ったら会ったで、まるで、忌々しいものを見る目つきで私をみた。


 私は、ただ、王子として生まれた。

はたからみれば、恵まれていることだろう。

王族としてなに不自由のない暮らし。

父から譲り受けた、若い頃の父にそっくりな美貌。

それをずっと嫌悪している母。


 私もまた、父と同じく、聖女が現れたら、国のために聖女と結婚をしなければならないのだろう。


(肩書きだけ異様に大きく、誰にも愛されない……私のようなものが、また生まれてくるのだろうか?)


 しかし、祖父の時のように聖女が現れない場合ももちろんある。

そうしたら、大貴族の娘と結婚をすることになるのだろう。


 王族・貴族にとって結婚は政略でしかない。

愛など持ち合わせようもないことは、わかりきっていた。だから、どちらに転ぼうが、私には関係ない。


 この牢獄のような孤独が癒える日は、永遠にくることはないのだから……。



――そんな時、あの子に出会った。


 いや、幼き頃、王宮で一度だけ顔を合わせたことはあった。

親に手を引かれ、新年の挨拶をしに来た。

長いブロンドに、まだ幼さの残るぷっくりした頬。

少しつり上がった大きな瞳。

幼いなりに、気品と愛らしさをもっていた。


 2度目にあったのは、最近のこと……10年ほどたった、クルーデンス公爵のパーティー会場でだった。


 成長した彼女は、眩い光を放っている蝶のように艶やかで美しくなっていた。

一目で心を動かされた。

こんな経験ははじめてだった。


 彼女の名前は、ミア・フォルトナー。

 

 私の最愛で、最高な人。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。