↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/73

25話

 ヴィクトルは、破れたドレスの話をミアには伝えなかった。

だが、彼の脳裏にはメイドの言葉が何度も反芻されていた。


――自分では、絶対に届かない位置。

――縫い目を狙って、鋭く裂かれていた。


(偶然ではない)


それも、ただ隠すために破いたのではない。

むしろ――


(“気づかせる”ためだ)



 あれは、そう王子の誕生日パーティーよりずっと前のこと。


 その日の夕刻。

ミアは窓辺に立ち、森の方角をぼんやりと眺めていた。赤く染まる空を見つめながら、ぽつりと呟く。


「ねえ、ヴィクトル。もし誰かが……誰にも言えない状況で、危ない場所へ行かなきゃならなかったら」


「……はい」


「その人が、あとから誰かに探してほしいと思ったら、どうすると思う?」


唐突な問いだった。

だが、ヴィクトルは即答できなかった。


(急になんだ?――まったく、いつも何を考えているのか分からないお方だ)


 それでも、答えないわけにはいかない。


「……痕跡を残すでしょうね」


 慎重に言葉を選ぶ。


「例えば、足取り、持ち物……あるいは、不自然な出来事」


「不自然な出来事……」


 ミアは小さく反芻した。


「じゃあ、もし着ていたドレスに何かして、“それが異常だ”と気づくように仕向けたとしたら?」


ヴィクトルの背筋に、冷たいものが走った。


(まさか……)


「それは……助けを求める、合図にもなりえます」


「やっぱり、そうよね」


 ミアは振り返り、どこか困ったように笑った。

いつもの傲慢で人をバカにしたような笑い方ではなかった。


「変な話をしたわ。でも……聞いておきたかったの」


 ミアはそういってヴィクトルに背中をむけた。



――裂かれたドレス。

――誰にも告げず、夜に部屋を出た行動。

――森で、誰かに会った“かもしれない”記憶。


それらが一本の線でつながりはじめる。


(もし、あの夜のミア様が)


(危険を承知で、誰かに会いに行き)


(それでも“無事に戻れなかった場合”を想定していたとしたら……)


 ドレスを裂く行為は、衝動でも、癇癪でもない。

――身の安全、保険だ。

自分が消えたとき、誰かが異変に気づき、探しに来るための。


(……誰に、探してほしかった?)


その答えが、王子なのか。自分なのか。

それとも……あの男なのか……?


 今、ヴィクトルは、ミア(うぐみ)の横顔を見つめながら、胸の奥で静かに決意した。


(本物のミアが、何処へいったのかを探っておくべきかもしれない……)


真実が、今の彼女を傷つけるものだとしても。

この胸騒ぎを放っておいてはいけない。


……深い森。

王子の誕生日パーティーの夜、本物のミアが、消えたあの日を忘れるわけにはいかない――。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。