24話
「ヴィクトルさん!」
裏庭の向こうから声をかけられ、ヴィクトルはハッとした。
年配のメイド、ロシェットが立っていた。
ドクン、ドクン……。
彼女の鼓動が早い。何か話しにくいことを話そうとしているに違いない。人狼の耳は人の何倍もよくきこえる。
ヴィクトルは、彼女を安心させるために、いつもの微笑みを作った。
途端に彼女の緊張がゆるむのを感じる。
「どうしました、ロシェット?」
「ミア様のドレスのことで、話したいことがあるんです」
「ここは目立ちますから、場所を移しましょう」
「では、衣装部屋にお願いします」
「衣装部屋?」
怪訝な顔をしたヴィクトルにロシェットは真剣な顔で頷いた。
「今の時間なら、衣装部屋に誰もおりませんから」
ヴィクトルはロシェットと共に衣装部屋に移動した。
今の衣装部屋は、断捨離を行っているため、随分とすっきり片付けられている。
「それで、ドレスのことで話したいこととは?」
ヴィクトルはロシェットと向き合った。
「私は、ジューンがドレスに粗相をしてしまったと思っていました。だから、ジューンを庇うために、あんなことを言ってしまったんです」
「わかっています。貴方とジューンは、長い付き合いですから」
それに、本物のミアに粗相がばれたら、大変なことになる。冷徹な性格の彼女なら、粗相をしたメイドへのムチ打ちも平気でやる。
「……黙っていたことがあるんです」
「なんですか?」
ロシェットは、ヴィクトルの前に探していたドレスを見せた。
宝石とフリルがたっぷり使われた豪奢なドレス。
目を引くブルーの生地。
よく見ると、縫い合わせてはあるものの、胸元のあたりがざっくりと破れたあとがある。
「これは……」
「私が、保管していたのです」
ヴィクトルは思わずうなった。
間違って破れたという程度ではなかった。これは、故意に裂かれたものだ。
「今は手を加えておりますが、私たちがミア様の部屋でドレスを見つけた時には、ひどい有り様でした……まるで、誰かがわざと裂いたみたいで……」
ヴィクトルはドレスを掴むと、その跡をまじまじと見つめた。
目の前で――ミアがこのドレスをまとって立っていた。
長いブロンドの髪。
豊かな胸元にペンダントが輝いている。
その場で、くるりと回ってみる。
ふわりとスカートが広がって、ミアの香りが辺りに充満した。
そうして、白い両手が胸元にいき、ドレスの薄いところを引き裂いた。
――ミア様!?
ヴィクトルはその場でまばたきをした。
「まさか、本人がやったのか…?」
――なぜ?
こんなことをする理由がわからない。
それとも、他の誰かが……?
ドレスに、ミアとは違う匂いが微かにする。
すうっと瞳をとじると――、
部屋でミアが誰かと談笑している。
背が高く、肩幅がある。
ジャケットもズボンも、高価そうだ。
きっと、貴族なのだろう。
顔は暗くてわからない。
その、男の手が伸びて、ミアのドレスの胸元をゆっくりとなぞった。
ミアが嫌というように後ろに数歩退いた。
――ダメだ!!!!
次の瞬間、力任せにミアのドレスが引き裂かれた。
ヴィクトルは、ギュッと目をつぶった。
誰かが、ミアのドレスを引き裂いた!?
なぜ……? いったい誰が!?
ヴィクトルは、握りしめていたドレスをロシェットへ押し付けて、部屋から出た。




