↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/73

24話

「ヴィクトルさん!」


 裏庭の向こうから声をかけられ、ヴィクトルはハッとした。

年配のメイド、ロシェットが立っていた。


ドクン、ドクン……。

彼女の鼓動が早い。何か話しにくいことを話そうとしているに違いない。人狼の耳は人の何倍もよくきこえる。

ヴィクトルは、彼女を安心させるために、いつもの微笑みを作った。

途端に彼女の緊張がゆるむのを感じる。


「どうしました、ロシェット?」


「ミア様のドレスのことで、話したいことがあるんです」


「ここは目立ちますから、場所を移しましょう」


「では、衣装部屋にお願いします」


「衣装部屋?」


 怪訝な顔をしたヴィクトルにロシェットは真剣な顔で頷いた。


「今の時間なら、衣装部屋に誰もおりませんから」


 ヴィクトルはロシェットと共に衣装部屋に移動した。

今の衣装部屋は、断捨離を行っているため、随分とすっきり片付けられている。


「それで、ドレスのことで話したいこととは?」


 ヴィクトルはロシェットと向き合った。


「私は、ジューンがドレスに粗相をしてしまったと思っていました。だから、ジューンを庇うために、あんなことを言ってしまったんです」


「わかっています。貴方とジューンは、長い付き合いですから」


 それに、本物のミアに粗相がばれたら、大変なことになる。冷徹な性格の彼女なら、粗相をしたメイドへのムチ打ちも平気でやる。


「……黙っていたことがあるんです」


「なんですか?」


 ロシェットは、ヴィクトルの前に探していたドレスを見せた。


宝石とフリルがたっぷり使われた豪奢なドレス。

目を引くブルーの生地。

よく見ると、縫い合わせてはあるものの、胸元のあたりがざっくりと破れたあとがある。


「これは……」


「私が、保管していたのです」


 ヴィクトルは思わずうなった。


 間違って破れたという程度ではなかった。これは、故意に裂かれたものだ。


「今は手を加えておりますが、私たちがミア様の部屋でドレスを見つけた時には、ひどい有り様でした……まるで、誰かがわざと裂いたみたいで……」


 ヴィクトルはドレスを掴むと、その跡をまじまじと見つめた。


 目の前で――ミアがこのドレスをまとって立っていた。


長いブロンドの髪。

豊かな胸元にペンダントが輝いている。

その場で、くるりと回ってみる。

ふわりとスカートが広がって、ミアの香りが辺りに充満した。

そうして、白い両手が胸元にいき、ドレスの薄いところを引き裂いた。


――ミア様!?


 ヴィクトルはその場でまばたきをした。


「まさか、本人がやったのか…?」


――なぜ?

こんなことをする理由がわからない。


 それとも、他の誰かが……?

 

 ドレスに、ミアとは違う匂いが微かにする。


 すうっと瞳をとじると――、

部屋でミアが誰かと談笑している。

背が高く、肩幅がある。

ジャケットもズボンも、高価そうだ。

きっと、貴族なのだろう。

顔は暗くてわからない。


その、男の手が伸びて、ミアのドレスの胸元をゆっくりとなぞった。

ミアが嫌というように後ろに数歩退いた。


――ダメだ!!!!


次の瞬間、力任せにミアのドレスが引き裂かれた。


ヴィクトルは、ギュッと目をつぶった。


誰かが、ミアのドレスを引き裂いた!?


なぜ……? いったい誰が!?


ヴィクトルは、握りしめていたドレスをロシェットへ押し付けて、部屋から出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。