22話
私とヴィクトルは、二人になると、メイドたちの意見をまとめた。
「やはり、パーティーの夜に私の部屋から出てきた人物が犯人なのかしら……」
「メイドの証言を信じるなら、そうかもしれません」
ヴィクトルは、いつも通り冷静な声で意見をのべた。
「あなたは、メイドの証言を信用していないの?」
意外だった。ヴィクトルなら、使用人の言葉を尊重し、簡単に疑うことはしないと思っていたから。彼は小さく首を振る。
「百パーセント信用できるとは言えません」
「どうして?」
「証言が一致しているようで、細部が食い違っています」
ヴィクトルは、淡々と指を折っていく。
「“男だと思った”という点は共通していますが、肩幅、身長、歩き方――どれも情報として曖昧です。ただ、皆が口をそろえて“細かった”と言っているのは、信用できそうですが」
「……それって」
「ええ。男だと断定するには、決め手に欠けます」
私は、無意識に自分の手首を見た。
フードの人物が女性だとしたら――。
「それに、時間の証言も微妙にずれています」
「数分、よね」
「はい。偶然とも言えますが、誰かが“正確な時間を言えない理由”を抱えている可能性もある」
ヴィクトルは、そこまで言って口を閉ざした。
それ以上は踏み込まない、というように。
「つまり……」
「犯人像は、まだ絞り切れません」
彼の視線が、ふと私から逸れる。
その一瞬の間に、何か考え込む気配があった。
(条件が、妙に噛み合いすぎている……)
その思考を、彼は言葉にしなかった。
確証はない。疑うには、あまりにも根拠が弱い。
――だからこそ、口にしてはいけない。
「引き続き、慎重に調べましょう」
そう言って、ヴィクトルはいつもの無表情に戻る。
私は気づいていなかった。
彼が、何かを知っているのではなく、何かを“疑っている”ことに。
そしてそれを、私に悟らせないようにしていることにも。




