20話
執事頭に、私がメイドと話がしたいと伝えると、彼は梅干しでも食べたような酸っぱい顔をした。
(……そんな嫌そうな顔、しなくていいのに。)
でも、あえて何も聞き返してこなかったので、こちらとしてはありがたかった。
それはさておき、衣装部屋の一件を調べるにあたり、私はまず衣装係(二人いる)を一人ずつ呼び出すことにした。
私の後ろにはヴィクトルが静かに控えている。
(正直、こういうの、苦手なんだけどな……。)
主人の大切なドレスが行方不明。
メイドからしたら、自分が犯人になるのではと、戦慄するだろう。なにせ、相手は使用人を人とも思わない悪役令嬢ミアなのだから。
人は、他人の前では真実を語りたがらない。特に自分が窮地に立たされた場合は特に……。
だから、同席はさせない。
最初に現れたのは、衣装部屋を長年管理してきた年配のメイドだった。
年齢は、五十代くらい?
白髪まじりの髪をひっつめて、後ろで纏めている。
背筋は伸びているが、両手は膝の上で固く握られていた。
(緊張してるな……。少し緊張をとかないと喋ってくれないかも?)
「貴方のお名前は、ロシェットね?」
「はい、そうです。お嬢様」
声は普通にきこえるが、目が不安そうにゆれる。
「そんなに緊張しないで。ちょっと、聞きたいことがあるだけよ……王子殿下の誕生パーティーで着た私のドレスについて、覚えていることを教えて」
私の問いに、年配メイドは一拍置いてから答えた。
「はい。確かに、あのドレスはパーティー翌日の朝、元の場所に戻されておりました。破損もなく」
「誰が戻したの?」
「私です」
一秒もたたない即答だった。
だが、どこか不自然だ。
「あの夜は遅くまで忙しかったはずよね?」
「ええ。しかし、私が責任者ですから」
責任、という言葉を強調しすぎている。
まるで、それ以外の答えを用意していなかったかのように。私はそれ以上深追いせず、彼女を下がらせた。
次に呼んだのは、ロシェットを補佐している若い衣装係だった。
まだ経験は浅いが、仕事は丁寧で真面目だと聞いている。
「貴方のお名前は、ジューンね?」
「はい、お嬢様」
可哀想に、ジューンは先ほどから、小刻みに震えている。見かねたヴィクトルが声をかける。
「何も心配することはありませんよ」
ハッとして顔を上げたジューンだったが、次の瞬間には蜂蜜のようにトロリとした表情になった。
(ヴィクトル、顔よすぎだものね……。)
「ジューン、正直に答えて。あのドレスを見た?」
ジューンは一瞬、視線を泳がせた。
「……はい。見ました」
「いつ?」
「パーティーの日の夜です。ですが、その時は……」
言葉が詰まる。
「その時は? なに?」
「背中側の生地が……裂けていました」
(背中側の生地が、裂けていた?)
明らかにロシェットの証言と、食い違った。
「その後、どうしたの?」
「ロシェットさんにお伝えしました。ですから、きっとロシェットさんが――」
そこまで言って、彼女は口をつぐんだ。
今は酷く震えている。
まるで、言ってはいけない一線を踏み越えそうになったかのように。
「……いいえ。何でもありません」
ジューンは深く頭を下げた。
「私の見間違いかもしれません」
二人の証言は、噛み合っていない。
だが、奇妙なほど互いを責める言葉だけは、どちらの口からも出なかった。
その夜、私はヴィクトルと並んで衣装部屋を見渡した。
「どちらも嘘をついているわね」
「ええ。ただし、悪意の嘘ではありません」
ヴィクトルは静かに言った。
「年配のロシェットは、若手のジューンがドレスを破いたと思い込んだ。だから、自分がしたことにした」
「ジューンは逆ね」
私が続ける。
「はい。ロシェットが破いたと思い込んで、裂けていたことを“見間違い”にした」
真実は、まだ別にある。
けれど少なくとも、一つだけは分かった。
「二人とも、相手を守るために嘘をついたのね」
衣装係の嘘は、裏切りから生まれたものではない。
思い込みと忠誠心が、真実を歪めただけだった。
そしてそれは、この屋敷では決して珍しいことではない――。
「なんだか、やっかいなことになりそうね……」
「はい……つまるところ、ミア様の日頃の行いが悪いからでしょうね」
ヴィクトルはしれっと言う。
(本当のミアじゃないからって、このいいよう。ひどすぎる!)
まあ、本心を隠されているよりいいのかも。




