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2話

見渡す限り、木々ばかり。

とにかく、私は周囲を歩いてみることにした。

少し進めば森を抜け、町か村にでも出られる——そう信じて疑わなかった。


だが、その期待はあっさりと潰えた。

この森は、想像以上に深い。

どれだけ歩いても景色は変わらず、出口の気配すらない。

いくら乙女ゲームの世界を知っているとはいえ、

土地勘もなく、方角も分からず、名前すら知らない森から抜け出すのは無謀だった。

 

結局、ミアの死体を安全に隠せそうな場所は見つからなかった。


中世ヨーロッパ風の、しかも未開拓の森。

ゲーム内とはいえ、そう都合よく都合のいい場所があるはずもない。


「……やっぱり、埋めるしかないよね?」


不本意だが、それ以外の選択肢は思い浮かばなかった。

このまま放置しておくと、獣か何かに食べられてしまうかもしれないし……。

ひとまず土に埋めて、町か村に辿り着いたら、信用できそうな人に打ち明ける。そして、ちゃんと埋葬してもらうのだ。

 

——死体を埋める穴を掘る。

言葉にすれば簡単そうだが、現実はまるで違った。

スコップのような道具があれば話は別だろう。

だが、民家ひとつない森の中に、そんな便利な物があるはずもない。


仕方なく、素手で掘り始める。

黒い土は想像以上に固かった。指先に当たる土や落ち葉、小石が容赦なく皮膚を削る。

すぐに指は痛み、爪の間には黒い土がびっしりと入り込んで、気持ちが悪かった。


「ゲームの中でも、何やってるんだろ」

 

現実世界では仕事で心身ともに擦り切れ、

異世界では森の中で、ひたすら穴を掘っている。

途端に、すべてが馬鹿馬鹿しく思えてきた。


気づけば手はかじかみ、冷え切っている。

それなのに、穴はほとんど掘れていなかった。

大人一人が横になれるには程遠く、表面を浅く掘り返しただけだ。


「……少し、休憩しよ」

 

私はその場に腰を下ろした。

ふと、周囲を見回す。

木々のざわめきは聞こえるのに、鳥の鳴き声ひとつしない。

ウサギも、リスも、鹿もいない。

狼や熊どころか、動物の気配そのものが感じられなかった。

——ゲーム内だから、そこまで作り込まれていないのかな?

そんなことを、ぼんやり考える。

 

そういえば、中世ヨーロッパでは

「森には魔女が棲んでいる」と信じられていたらしい。

現代なら笑い話だ。

けれど、文明が発展する前の人々にとって、未知の森は恐怖そのものだったのだろう。

 

そのとき——

私は、ふと顔を上げた。


「……?」


気のせいだろうか。

誰かに見られているような感覚が、肌にまとわりつく。

 

 ——見られている。

 

背中がぞくりと粟立った。

だが、森に目を凝らしても人影はない。

月明かりが届く範囲を越えた森の奥は、深い闇に沈み、人の目では何も見えなかった。


「誰か、いるの……?」


震える声で問いかける。

返ってきたのは、森の静寂だけだった。

 

……やっぱり、気のせいか。

そう思い、視線を掘りかけの穴へ戻そうとした、その瞬間——

視界の端で、何かが、さっと動いた。


「……っ!」


反射的に顔を上げる。

 

「あ、あれは……?」

 

森の奥。

先ほど視線を感じた暗闇に、ぽつんと小さな灯りが浮かんでいた。

目を凝らす。


——蝋燭の火?


懐中電灯のような冷たい光ではない。

オレンジ色の、儚く揺れる光。

その灯りは、私の視線に気づいたかのように、

右から左へ、ゆっくりと揺れた。

 

……合図?

まるで、こちらへ来いと誘っているように見えた。

 

距離は、近くない。

それだけは、なぜか分かった。

それでも、


「……行ってみよう」


そう思った自分を、止められなかった。

暗い森の中にいることに、もう耐えられなかったのかもしれない。

灯りを見て、無性に人恋しくなったのかもしれない。

 

とにかく私は、引き寄せられるように、その灯りを目指して森の中を歩き出した。


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