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17話

「まずは、ドレスの選別ね」


 私は「やるぞ!」と気合を入れ、ドレスの袖を肘までまくり上げた。


「……選別? いったい、何をなさるおつもりで?」


 背後に控えていたヴィクトルが、探るように問いかけてくる。


「決まっているでしょう。着る服と、着ない服を分けるのよ。ドレスなんて、一週間分――七着もあれば十分じゃない?」


「何をおっしゃるのかと思えば……。貴女はそこらの中流貴族の令嬢ではありません。一度着たドレスは二度と着ない。それが暗黙のルールです」


 今度は私が呆れる番だった。


「冗談でしょ!? じゃあ、ここにあるドレスって全部、一回しか着てないの?」


「ええ、そうです」


「も、もったいなさすぎる……! 貴族の令嬢って、みんなそうなの?」


「正確には違います。貴女は“格が違う”血筋なのです。一度でも着たドレスを別のパーティーで着回せば、ウォルター家の恥になります」


 思わず、頭を抱えたくなる。


「……堅苦しすぎない? じゃあ、そこまで裕福じゃない貴族の令嬢はどうするの?」


「一度着たドレスを、また着ます」


「ルール的には恥なのに?」


「財力は一族の問題ですから。ですが、それを理由に社交の場へ出なければ、“上級貴族”ではなくなるでしょう」


「……つまり、下級貴族を面白おかしく叩いて、酒の肴にするのが上級貴族?」


「まあ、おおむねそうかと」


 あまりに淡々とした返答に、背筋がひやりとした。もし自分が、その“肴”にされる側だったら、考えるだけでゾッとする。


「貴族って、クソね……」


 思わず本音が漏れると、ヴィクトルは楽しそうに笑った。


「ふふ。ミア様の口から、そんな言葉が出るとは。執事頭が聞いたら卒倒しますよ」


「あら、失礼。ごめんあそばせ」


「心にもない謝罪は不要です」


「…………」


 この短期間で、私の性格を見抜くとは。

いや、単に分かりやすいだけかもしれないけど。


「はいはい、じゃあ喋ってないで手を動かす! 私は右側からいくから、あなたは左ね」


 衣装部屋を指さして指示を出すと、ヴィクトルは目を瞬いた。


「……私もやるのですか?」


「当然でしょ。この量を一人で? ありえないわ」


「しかし、私は奴隷の身分です。そのような者の目利きを信用なさるのですか?」


「今さら何言ってるの。さては逃げたいだけね? 身分なんて関係ないわ。はい、強制参加!」


 呆然とするヴィクトルを横目に、私はさっそく仕分けを始めた。

幸い、私の好みとミアの趣味は驚くほど違う。迷うことなく、ほとんどのドレスを「不要」へ放り込めた。


 しばらくして横を見ると――


「……あなた、悩みすぎじゃない?」


 声をかけると、ヴィクトルは両手にドレスを持ったまま固まっていた。

ファイアレッドのマーメイドドレスと、バービーピンクのプリンセスドレスを見比べ、眉を寄せている。

困った顔すら美麗すぎて絵になるのだから腹立たしい。これで奴隷の身分だなんて、この世界どうなってるの。


「ミア様の大切なドレスです。悩んで当然でしょう」


 真剣な眼差しに、一瞬感心しかけた――のだが。


「こちらはサラブレッドが四頭、こちらは雌牛が二十頭分。どちらも捨てがたい……!」


「そっちかい!!」


 完全に勘違いしていた自分が恥ずかしい。


「冗談はさておき、どちらも派手すぎますね。ミア様はどちらかといえば、清楚なお顔立ちですし」


「……せ、い、そ?」


「はい」


 さらっと言った。

今、さらっと「清楚」って言った!?

なにそれ、ツンデレ?

一回落としてから上げるタイプ?

この男、そういうことするの?


「……じゃあ、この二着は処分で」


「ええ。サラブレッドも雌牛も、この際諦めましょう」


「その例えかたやめようよ……」


 私はがくりと肩を落とした。

完全に読まれている。

いや、遊ばれている気さえする。


 仕分けはまだ途中だというのに、妙な疲労感がどっと押し寄せてきた。


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