16話
私の足は、自然とミアの衣装部屋へと向かっていた。
この館は北向きに凹型の造りをしている。一階のエントランスから階段を上がり二階へ出ると、東へまっすぐに伸びる赤い絨毯の廊下がある。
その突き当たりに三つ並んだ部屋が衣装部屋で、隣には宝飾品の部屋が二つ続いていた。
初めてヴィクトルに案内され、ここを見せられた時の衝撃は忘れられない。
正直、見るに堪えない有様だった。
ドレス、ドレス、またドレス。
色も形も年代もばらばらな衣装が、まるで押し込むように詰め込まれている。
ヴィクトルの話では、ミアは使用人による盗難を極端に警戒し、宝飾品はもちろん衣装部屋にすら使用人の立ち入りを禁じていたらしい。
そのせいで整理整頓が行き届くはずもなく、部屋は完全に物置状態だった。
毎月やって来る服飾ギルドの商人が持ち込む大量の売れ残りドレスや宝飾品を、吟味もせずに購入し、使いもせずに詰め込む。
その繰り返しだったのだろう。
胸の奥に、なんとも言えない後味の悪さが残った。
(……これは、どうにかしないと)
私は密かに拳を握った。
いくらミアが着道楽でも、衣装部屋が三つも埋まるほどのドレスなど必要なはずがない。
特に部屋の奥に追いやられている衣装たちは、買って満足しただけの存在で、袖を通されることすらなかったように思える。
だったら――活かすべきだ。
一部の衣装部屋を、使用人のメイドたちに下げ渡すのもいい。
煌びやかなドレスは着る機会が少ないかもしれないが、売ってもいいし、普段着にリメイクしても構わない。
そう提案すると、後ろに控えていたヴィクトルは微妙な表情を浮かべた。
「下級層の人間が、あれほど高級な生地やレースを使ったドレスを売りに出せば、まず雇い主から盗んだと疑われます。最悪、ヤードに通報されるでしょうね」
「…………」
あまりにも現実的で、反論できなかった。
「じゃあ、どうすればいいのよ」
つい、喧嘩腰になってしまう。
ヴィクトルは小さくため息をついた。
その仕草がやけに落ち着いて見えて、先ほどまでの苛立ちが少し和らいだ。
「他に、買える立場の人間がいるでしょう」
「……どういうこと?」
「ミア様には貴族のご学友もいれば、フォルトナー家と繋がりを持ちたい中流階級もいる。人脈はいくらでもあるはずです」
「……なるほど、そうね」
言われて、はっとした。
確かに、ミアの立場なら可能だ。
不要になった物を、必要とする人へ。
前世でも、そんな便利な仕組みがあったじゃない。
「……フリーマーケット」
私は思わず声に出した。
「パーティー形式にすればいいわ!」
名案が浮かび、思わず口元がニマッと緩む。
それを見たヴィクトルは、どこか呆れたような顔をした。
「中身は別人なのに、その笑い方はミア様そっくりですね」
「え、そんなに?」
どうやら、私の“してやったり”という表情は、悪役令嬢そのものらしい。
でも誤解しないでほしい。
これは悪知恵ではなく、立派な再活用案だ。
外から見れば同じに見えるとしても、今の私はミアを演じることを、少しだけ楽しみ始めていた。
こうして私は、フリーマーケットパーティーに向けて動き出したのだった。




