辣腕事務vsご紹介
「とはいえ、見ているものもこんな老人の話を聞きたいわけでもなかろう。
マイルス嬢、ルールの話にいこうではないか」
「ありがとうございます。それではルールについて解説いたします」
公爵、白髭公ディサアドの名前は広く知られている。
隣領であるアドルインであれば尚更。
その雷名は戦中から今にかけても畏れと共に語られる。
だが、話す姿はなんとも落ち着いていて、フィニーと並んでしゃべれば好々爺そのもの。
「うへえ。あの白髭の爺様、すっごい猫かぶってますわねえ……」
思わずライヒがそれを漏らす。
戦争している頃、ディサアドと共闘をしたことがある。
鬼神の如しとはああいうことを言うのだろうと思った。
戦場を見回して、必要があれば小勢を以て状況を動かす。
当時はまだ幼女とすら言える年齢の娘を総大将とすることで自らを遊軍として扱う。強力な駒である一方、その転戦はこの世の地獄とも言えるほどのハードワーク。
それに半ば強引にライヒは付き合わされていたことがある。
馬上で敵を睨め付けるあの白髭とは表情が違う。
だからこそ、猫をかぶっていると評した。
ともかく、空の映像は続いている。
「それぞれの陣営は互いの持つダンジョンに置かれた踏破証明品を得ることを目的としています。
本来のダンジョンの広さではなく、二階層目の部屋に証明品を置くよう指定。
当然ですが、埋めたり、隠したり、あるいはその階層以外に動かすことは禁止です」
「あくまで証明品は設置しておかねばならん、ということじゃな」
「はい。証明品もこのように」
と、何かを取ろうとするフィニー。だが、苦戦している。
「ん? これかね?」
「は、はい。重いので……」
画面から外れて何か会話をしながら、それからすぐにディサアドがひょいと剣を取り出す。
大剣だった。
明らかに振り回す用途のものではない。
フィニーが少し呆気に取られるもすぐに、
「ええと、ディサアド様はあっさりと持っておられますが、重さを徹底して作られたものですので持って歩き回るのは難しいものとなっております」
「わし、少し間違っちゃったか」
「少しだけ」
妙な愛嬌がある。
これについては素顔であった。
「ともかく、これを持って外に出るか、それぞれに渡してありますポーションをかけることで達成、つまりは先にそれをしたほうが勝利となります」
細々と補足もされている。ポーションは手元から離れすぎると効果を失うだとか、そういうものであった。
そのまま続いて、
「参加するのはそれぞれの陣営で最大六名。
それを好きに振り分けてダンジョンの攻略と防衛に当てていただきます」
「防衛には魔物などが置かれておるよな」
「はい、それ以外に防衛力として配置することができる、ということです。
もちろん、妨害もありです」
「参加者をどちらかに寄せることはできるのかね。
例えば、攻略は六名で、防衛には振らないとか」
「可能です。ディサアド様が当事者であったなら、どうしますか?」
「うーん。そうさな、わしなら……」
と、少し考えてから、
「グレイトキャピタル卿も貴族の繋がりで知らぬ間柄でもない。
ここで何かを言うのはネタバレ、というものになるやもしれんからのう」
「ご配慮ありがとうございます」
「とはいえ、それでは話に色気というものもない。
寄せるにしてもバランスを取るにしても陣営のメンツ次第と言ったところじゃろう。
わしならば攻め気が強いものを集めたならば偏らせるであろうかな。突破力があるのであれば、それを活かしたいと考えるでな。
ただ、それもやはりメンツ次第。そろそろ戦闘をする花形たちを見たいと思うが?」
「では、そのそれぞれの陣営の参加者を紹介いたします!」
映像の視点が変わる。
魔王から貸与された使い魔めいたものが一同を見つめていた。
空の映像もまた、同じものを映している。
「オルドホルム陣営!」
フィニーの声に六つが前に出る。
「グレイトキャピタル家、筆頭騎士リオリヤ!」
腰の羽を緩やかに広げ、礼を取ると共にそれも畳まれる。
「同、筆頭騎士アルシュカ!」
手に持った納刀された剣を掲げるようにして騎士であることを示す。
「護衛者ドラン!」
冒険者でもなく傭兵ギルドでもない以上、個人的な護衛という形に落ち着いたドラン。
巨躯をさらに際立たせるように片腕を大きく上げた。
「護衛者グレイス!」
外套で全身を隠した存在だった。
フードからは黒くも見える長い髪が這い出ていた。風に流され、踊るようにしていた。
立ち姿だけで人に美しいと思わせる武人の魅力がそこにあった。
片手には斧槍を持っており、しかし自分やそれをアピールに使うようなことはない。
「オルドホルム冒険者代表! 麗しき未亡人! マイア!!」
控えめな笑顔を浮かべ、困ったように小さく手を振る。
一部の熱狂的なファンがすでにいるのか、街中では横断幕が広げられている。
状況が状況ゆえにアドルインでは活動できないが、オルドホルムではヘルプ役のベテラン冒険者として多くの来場者のサポートをしていたからこそ得た人気の地盤がそこにあった。
そして、
「オルドホルム領主、ライヒ・グレイトキャピタル!」
黄金の毛髪をたなびかせ、空色の剣を空に向ける。
その後に、
「ホーッホッホッホ!!
天よ!
人よ!
あまねく全てよ!!
我が戦いをご照覧なさあぁあ〜〜〜〜い!!」
大音声の高笑い。
ライヒという女を端的に表した行動だった。
吟遊詩人が唄うものと同じ姿と表現が街で歓声を爆発させた。
彼女は紛れもなくアドルインの英雄として遇され始めていた。
熱狂に水を差すではなく、その勢いを借りるようにフィニーは続ける。
「ドラルディン・ファミリー陣営!」
「ファミリーの恐るべき頭脳! ギュストーク!」
映像に映るも、何かアクションを起こすようなサービス精神など当然、持ち合わせてはいない。
ちなみに二つ名に関しては両陣営から募ったらしい。
「新たな兜割りは己だと名乗りをあげる剣士! ナスルード!!」
フードを払うと深い藍色の髪が風にさらわれる。
女剣士は静かに手を上げる。
容貌の美しさに歓声が響く。
「帰ってきた男ッ!! 邪悪市長!! パールシモン!!」
散々に都市を引っ掻き回した男の名前。
罪を問われ、投獄されたとされている男がなぜここに、と疑問のざわめきがあってからすぐに壮絶なブーイング。
それでも紹介は続く。
「ドラルディンの秘密兵器、仮面の戦士!」
仮面を被った大柄な姿。二つ名に関しては顔を完全に隠した人物には募集がかけられなかった。
戦士と銘打たれている以上は肉体派なのは間違い無いのだろうが、呼ばれてもリアクションがない。照れがあるだとかではなく、まるでそこに存在していないかのような不気味さがあった。
「ドラルディンの隠し球、仮面の術士!」
解説もネタ切れなのか、同じような説明と名付けで流される。
こちらは術士と言われる程度には体格も細身に見える。あくまで対比すると、程度だが。
そして、
「ドラルディン・ファミリーのドン、ドラルディン!」
非難の声は上がらなかった。
ライヒに歓声をあげていたものたちが、彼女と同様同質の声を上げてすらいた。
一方で何も知らない一般市民たちは応援するべきは我ら市民の味方であるライヒだろうと険悪な雰囲気が出始める。
だが、
「ドラルディン!」
ノエルと呼びそうになるのを飲み下しながらライヒが彼を呼んだ。
一方前へ。
「都市と人々の記憶に残る戦いにしましょう」
ライヒのその宣言は互いのためではなく、都市のためであると。
清廉な言葉が険悪さを一気に鎮める。
なぜならば、
「ああ。
──都市と、人々のために」
ドラルディンの言葉の清らかさもまた、マフィアとは思ぬものだったからだ。
二人の手が握り交わされる。
決闘の予兆が終わろうとしている。
嵐の本領はすぐそこだった。




