没落令嬢vs不審者集団
正面入り口へと走る。
魔物といっても全てがハイエンド様の家臣というわけではありませんわよ。
狼や大型の猫のような野生の動物にほど近くて、コロニーを作り増殖するタイプの魔物なんかは『魔石を抱えた動物』だから魔物、くらいの扱いだったりしますわよ。
それとは別にゴブリンのように『自分こそがこの群れの王である』として魔王との関係を切っているような魔物もいますから、
魔物=魔族、つまりハイエンド様に恩義があるからこそ魔物にも手が出しにくい……なーんて容赦は不要ですわ!
賊は賊で魔物と同じ程に面倒で厄介な、領地運営する身からすると明確な悪。
けれど、こんな辺鄙な場所にどうして賊が? という疑問はありますわね。
食い詰めていたってもう少し良い場所がありそうなものですけれど。
一応オルドホルムの『正面入り口』とされているところへと行きますわ。
古びた街道に繋がっているからそう呼ばれているだけですけれど。
音が聞こえて来ましたわ。
「くそ、逃げろ、逃げ」「ぎゃあ」
「こんなことなら元の根城にいるべきだっ ぐげっ」
ほぼ悲鳴と断末魔ですわね。
賊がそれなりの数。ただ、次々に死んでいる。対峙しているのはゴブリンども。
ひとまずマルティスコアだの軍隊化した賊だのではないことには安堵。
とはいえ、ようこそいらっしゃいましと言って差し上げる相手でもないですわ。
武器を準備し、気配を殺して潜み、観察を開始しますわ。
指揮しているゴブリンは騎士から奪ったであろう外套を体に巻いて、戦棍を持っている。もしかしたら王笏のイメージだったりするのかもですわね。
メイスは錆びていてそこはかとない禍々しさを醸し出していますわよ。
油断ならない相手かもしれませんから、警戒は一段引き上げておきましょう。
息を殺して近づきつつ、状況がいい具合に熟すまで待機。
「や、やめてくれ! やめ ギャッ!!」
「ぐえぇっ」
賊がゴブリンたちによって殺されていく。そうして全滅するあたりで、
「きてはぁーっ!!」
気合の入ったスラングと共に隠れている状況から登場し、不意打ち的にゴブリンを切り捨てるわたくし。ゴブリンどもは謎の言葉とその一撃に混乱するって寸法ですわよ。
その間に一気に暴れて暴れて、血しぶきが舞う舞う。
うんうん。ド派手にスプラッタする感じ、やっぱりダンジョンの魔物とは違いますわね。
自分で言うのもなんですけれど一瞬でゴブリンどもを蹴散らし、偉そうゴブリン(仮)に肉薄。
振り下ろした一撃をメイスで防ぐ。
「ぎぎぃい、人間、邪魔するな!!」
「お。喋るゴブリン。レアですわね」
「人間!! ぎいい、殺す!!」
「安心なさい! わたくしも魔物をとっ捕まえて見世物にして金を稼ぐようなマネはしませんわよ!!」
バックステップで距離を取ったと思うと即座に踏み込むゴブリン。
中々に魅せる動きじゃありませんの。
とはいえ、動き自体は見切りましたわ。その一撃を受太刀して、次の機会を睨みますわよ。
「ぎぎぎぎ、紋。供物、我らの!!」
「はあ?」
互いに武器を押し返す。相手が構えるよりも先にわたくしの前蹴りが偉そうゴブリンの腹に突き刺さりますわ。何か仰ろうとしたようですけれど、ここは戦場ですわよ。油断油断。そういうのはいけませんわねえ。
のたうちながらも敵意も戦意も失せることなく武器を構えるゴブリン。ガッツはなかなか。
「供物ってなんですの、それってわたくしのこと言ってますの?」
「げぽっ、げげ、げふ……。ハアハァ……。人間、きたならしいおまえに過ぎている。紋!」
「ハァーッ!?」
〝ビキッ〟
思わず血管が唸りをあげて抗議をしていますわよッ!
「世界で一番愛くるしい令嬢といえばわたくしでしょうが!! それがどこが汚らしいですって!?
無礼てんじゃねえですわよッ!!」
怒りに任せた剣の振り下ろしが相手を真っ二つにする。
一応、メイスで受け太刀をしようとした気配はありますけれど諸共ですわよ。
「ホーッホッホ!! 報い!! 報いですわーっ!! このわたくしにきたならしいなどと! 愛くるしい、可愛らしい、可憐、べりーびゅーてぃほー、ぐっどるっきんぐ、蝶よ花よライヒよ、そういう感じのことを言っておけばまだしも未来はあったかもしれませんのにねえ!! ホーッホッホッホ!!
……っと、高笑いしている場合じゃありませんわね」
領内に戻り、リオと領民が立てこもっているであろう場所へと走るが、別動していたらしい賊たちは農具で突き殺されていましたわ。
「ライヒ様、こちらは」
集落の一部に領民たちが集まっていますわ。
彼らは彼らで農具などで武装して賊を『なんとか』したあとのようですわね。
その先頭に立つようにしているのはリオ。
周りの人間もこのあとどうするべきかと彼女に聞いている辺り、いい具合にリーダーシップを発揮してくださったようですわね。
「リオ、みんな、自分たちの身をしっかり守ったのですね。素晴らしいですわ」
「案外弱っていたもので、何とかなりました。
ただ、賊たちが屋敷に向かったのを見まして」
「誰か追いかけたのかしら」
「いえ、お言いつけの通りにここで待っていましたので……ごめんなさい」
「謝らないで、リオ。一人で追いかけなかったその判断、素晴らしいですわ。
では、暫くは集団で行動して、生き残りに注意を──」
と事後のことを説明しつつ、わたくしは自分の屋敷へ。
盗まれて困るものはないけれど……。
いや、何か忘れているような……。
そう思いながら屋敷に戻ったところで、
「あ」
思わず声が出た。
ポータルが開きっぱなしでしたわ。
「やっべ、ですわ」
え、屋敷に侵入して、そこに行くとか……ないですわよね?
屋敷の中には気配を感じない。となると、考えられるのは。
まあ、まあ、どっちにしろダンジョンで稼ごうとは思っていたのですし、確認のために入りましょう。
というか、そもそもわたくし以外が入れるのかもわかりませんし。
✘✘✘
ダンジョンに入った瞬間、すぐに異変に気が付くことができましたわ。
視線の先で戦いが起こっていますの。
ゴブリンの集団と何かが戦っていますわね。
数をガッツリ増やしたのでゴブリンはもはや集団というか軍団めいておりますわ。
十六体ほどのゴブリンと戦うのはおそらくは賊。逃げ込んできたのでしょうね。
少なくともわたくしの領民ではありませんわ。
戦っているものには悪いですけれど、一安心しましたわよ。
まあ、賊は既に数名ほど肉塊になってしまっておりますけれど。戦っているのはその生き残りでしょう。
「賊とゴブリンを出し抜いて、奪って、逃げて、そこまでは上手くいってたってのに!!」
剣を振るいながら叫ぶ。大声は威嚇になる。魔物に対して有効なこともありますし、うんうん。わかりますわよ。相手には威嚇になり、自分にとっては精神安定に繋がるんですわよね。
叫んでいる侵入者こそがリオが言っていた賊なのでしょう。
「く、クソ……!!
明日に繋がるかと思ってやったのに、こんなことに……。
せめて、利き腕が自由だったなら──……」
その言葉が最期だったようで、ゴブリンの物量に結局押し巻けて揉み殺されたようですわね。
漁夫の利をするようにゴブリンの集団を撃退。ま、細かいことは省略しますわ。
外で戦ったゴブリンの方が少し強かったように感じますけれど、喋るゴブリンがもしかしたら何か特別な力でも持っていたのでしょうか。
どうあれ、最後に立っていたのはわたくし。つまり、わたくしの大勝利ですわよ。
で、ダンジョンのゴブリンは死体が残らないとなれば、戦っていたものの亡骸だけがそこにあることに。ここまで逃げてきたと思われる賊はグログロの死体になっちゃってますわね。
死体は……ダンジョンを閉じれば消えてくださればいいのだけれど。そういうのは後で考えるべきですわね。
今はとにかく、このダンジョンをクリアするよりもゴブリンと賊に襲われることになった領民と領地が大いに心配ですし、適当に出入り口をそこらに作り出しましてそのまま地上へと戻ることにしましたわよ。




