没落令嬢vs串焼き屋台
串、串串串串!!
串で肉と芋を打ちまくる!!
わたくし、発見してしまいましたわ!!
串に打って、炭で焼いたら大抵美味い! 道端に置いたら視覚効果もバッチリ!!
「ホーッホッホッ!! 寄ってらっしゃいな、見ていらっしゃいな!!
遠くにいらっしゃる方は音にお聞きなさって!!
近くにいらっしゃる方はもっと寄ってご覧になられて!!」
オルドホルムまであと少しになるあたりの場所でわたくしは現在、露店を開いておりますわ。
あと少しという距離にただようかぐわしい香り。
都市では考えられない金額の安さ。
とれとれで新鮮で美味。
水飲み放題。
飛びつく客はひっきりなし。
我が商い、大成功ですわ! ホーッホッホ!!
「一本くれ」「こっちも頼む」
「およろこびになられなさいな!」
「はい喜んでとかじゃないんだ」「こっちが喜ぶのか……」
そう言いつつ渡される串と水。
串とコップは返却口に。
「なんかゴージャスな店員だよな」
「妙な令嬢感があるよな」
「変な店員だな……」
などと少し離れたところに設置された飲食スペース(椅子と机を雑に置いた野晒しの場所)からそんな声が聞こえますわよ。
ふっふっふ。擬態は完璧。誰もこんなところで必死に金稼ぎしているなどと思わないでしょう。
で、なんで必死に金稼ぎをしているかというと……。
✘✘✘
大演説をカマした後。
わたくしのもとには大量の商人だの香具師だの推定山師だのが来ましたわ。
混沌とした状況をカネに変えようとするだけで実体的に何かの案を持って来る連中は殆どナシ。
案があったとしても街に根ざしすぎた案件で、わたくしではなくアドルインの役人に仰ってと言いたくなるものもありましたわね。
殆どは対応そのものに意味がないことが多かったのですけれど、幾人かはそれらの枠からキッチリと外れている方々もいらっしゃいましたのよ。
その一人が──
「ダンジョン、困ってませんか」
長髪を編み込んだ、怪しげな商人の男。
商人といってもギルド所属の人間ではなく、『自称』商人。
「何が仰りたいのかしら」
「ルール見ましたよ、閣下。
互いに所持しているダンジョンには事前の立ち入り禁止。
しかしこの辺りには適切なダンジョンはそう見つからない。
となれば、ご自身の所持するダンジョンに行く他ないわけですが……閣下のダンジョンは素晴らしいことに満員御礼。これじゃあ練習どころじゃない」
「ふうん。今日来た中では一番そそられる歌い出しですわね」
「それはなによりでございます。
では、続けても?」
手で続けなさいとジェスチャーをすると彼はすぐに、
「そこで、私が売り込みたいのは情報でございます。
現状、未発見であろうダンジョンの」
糸目の男はその細い目で笑みの形を作って仰りますわ。
「……未発見の?」
「ええ。あれこれと調べてみても領主の存在しない土地でございます。
領有権を主張することができるものもゼロではないかもしれませんが、
それについても今の段階で……少なくとも閣下の打ち出した催し物が終わるまで誰のものか、誰が入ってよいか、誰が入ってはダメかなどが決まるような状況に動き出すことないことを断言いたしましょう」
それが事実なら、わたくしに売るよりもより高額な取引になる相手がいそうなものですけれど。
「他に売る相手がいるんじゃないのか、という顔ですね」
「……明け透けに心を読むのはどうかしらね」
「これは失礼。ですが直言を好むと聞いておりましたもので」
「それは、ええ。確かにそうですけれど」
「売る相手なら確かにおりますとも。あるいは有耶無耶の状況で所有権を宣言することも。
帝国法をあれこれと駆使すれば可能かもしれません」
「よく調べているようですわね」
「お金様のためでしたら、いくらでも」
ですが、と彼は続ける。
「お金様そのものの価値は変動します。意味も。使い方と使われ方次第でね。
私はそれを重要視しているんですよ、閣下。
ここでは、つまり使われ方の方ですが」
「わたくしに売ることに意味がある、そう仰りたいの?」
「その通りです、聡明な閣下」
「それで、おいくら?」
「労働で」
「……労働?」
「ええ。変動する形でお支払いいただきたい」
「話が見えませんわよ」
もう一度彼が微笑んで見せる。
それから提示したのは、
『計画』し、『実行』し、『結果』を出し、『納入』する。
その行動そのものを労働と称して、それを支払いとするのだと。
「お金様はどうしたんですの」
「納入していただけるでしょう」
「その労働とやらが金を産まない可能性があるでしょうに」
「そのときはがっかりするだけにしておきますよ」
あくまでがっかりするだけ。支払うべき情報は渡す。そういう物言い。
一応これでも貴族。相手次第では首が飛ぶような語り口と条件。
それでも彼が態度も何もかもを崩さないのは愚かな商人だからというわけではなく、貴族相手にも相当の場数を踏んでいることを示していますわ。
そこからわかることがもう一つ。
彼が持ってきている情報の価値について。貴族相手に生半可な『商品』を用意すれば支払われるのは金ではなく暴力。あるいは死そのもの。
眉唾でしかない未発見のダンジョンの情報に空っぽのまま信憑性の外殻だけが作り上げられていく。
決戦たる『その日』まで時間が余りあるほどではないけれど、彼の言う報酬を支払うための時間を捻出できないほどでもない。
「いいですわ。ギャフンと言わせて差し上げますわよ」
「素晴らしい決断です、閣下」
怪しげな商人はにこりと笑う。
彼の名前はフォルマート。古い言葉で隣人を意味する言葉であり、匿名を意味するときに時折使われる定型句めいたもの。ふざけた名乗りをするとは思ったが、その程度のことを気にしてもいられない。
なにせギャフンと言わせてやりたいのだから。
✘✘✘
ってわけで計画したのがこの串焼きってわけですわよ。丸一日を使ってその売り上げを支払いとする。
どの程度の金額で満足するのかを聞いても明確な答えはなかった。
けれど、
「大将ッ! 串十四本追加!」
「あいよっ、ですわッ」
何故か店員として働いている彼。
ついでに金のやり取りも彼。
働いているのを見させていただきますよとは言われたものの、よもやこれほど近くでとは思いませんでしたわ。
結局、夜まで盛況のままに在庫が完全に払底したので閉店。
売り上げは一日のお店にしては破格。
とはいえ、普通にダンジョンをガン回ししたほうが当然お金にはなる。ダンジョンを中心にして小さな経済圏を作り上げつつあるオルドホルムの中で見ても売り上げはトップというほどにはならない。
それでも、
「ご苦労様でした」
「えーと、売り上げは……っと、あなたの方が把握していらっしゃるわね」
そう言いながら簡易金庫を丸ごと渡す。
「これでよかったのかしら」
「ええ。よろしければ串焼きのレシピもいただければこの上ないのですが」
「レシピってほどのものでもないですけれど」
大雑把なレシピではあるが、調味料だけはしっかりと書いた。
この串焼きは冒険者時代に一緒だったものから伝えられたもの。その人物もいいだけ適当な人物であったものの、調味料に関してだけは絶対に正確な形で伝えてくださいました。
ので、わたくしもそれに倣う。
人に伝えていいかについてはずっとずっと前に了承を取っていますからその点も問題なし。
「では、これを」
そうして提示されたのはやや薄めの手帳。
「結果としては満足いきまして?」
「ええ。充分に。働き者の閣下」
「それなら、なにより」
そうして商人は文句の一つもなく去っていく。
正直、彼が渡してきたものが嘘の混じっていない情報なら、今日渡した支払いの十倍どころか二十倍くらいの価値がある。
つまり、働かせることそのものが彼の目的だった。
……なんで?
「フォルマート」
去っていこうとするその背に。
「なんでしょうか、閣下」
「聞きたいことがあるのですけれど」
「一つだけなら、お答えしましょう」
逆に言うなら、一つならなんでも答えてやろうとも聞こえる。
やり手そうな商人が言うのだから説得力があるようにも感じますわね。
でも、一つ。一つかあ。
その権利に働かせるのはなんでと聞くのは勿体無い気がする。
世の中には埒外の性癖を持つ方もおられます。貴族があくせく働くのが好きなのだと言われたら「そっかあ」と言う他ありませんわ。
「あなたの味方は誰ですの?」
「それでよろしいですか、質問は」
「ええ。よろしくてよ」
「あなた相手に失恋なさった方のお味方をしております。
その方について、ついでにこぼしたお言葉をおまけにお付けしましょう」
にこりと微笑む。
「借りは返すが意地の悪さも知っているだろう。以後どうなるかも楽しみにしている──とのことです」
それでは、改めてと礼をして彼は去っていきました。
……失恋したお方?
✘✘✘
「まったく、こんな形で税金逃れの罪を支払うことになるとは思いませんでしたよ」
後日、ディサアド。
フォルマートと名乗った商人は超帝国直轄の公館でそのように言葉を漏らした。
「だが、それで許すというのだから寛大な処置だと思って欲しいものだ」
「どうでしょうねえ」
フォルマートが行った税金逃れのやり方は極めて狡猾な手段だった。
それを発見し、解析し、告発したのは──
「私を使うほど入れ込む相手なんですねえ、あの閣下は。
一応、あなたが自由に使える数少ない手札でしょう。私は」
あなた、と言われた男は表情を動かすことなく瞳を向ける。
その人物──徴税騎士マルセルは超帝国の国庫、そのある意味での守護を担う一人であり、徴税騎士たちの中でもトップエースとさえ言われる男。
そんな彼が僻地オルドホルムに向かわされたのには理由がある。
しばらく前に超帝国の長、当代ヴァルカインに呼び出されたのだ。
『余を袖にした女がいてな。そやつが家督を継いだそうだ。
その家は確実に問題を抱えている。調べてこい』
端的な命令だった。
皇帝は好色で我儘な男ではあったが、あらゆることにおいて才覚を備え、特に自領のことに関してはどこに膨大な知識を溜め込んだままにしているのかと思うほどに理解している。
その頭脳が弾き出した答えであるなら、実際にその家には問題があるのだろう。
『徴税騎士としての仕事がそこにあるとして、どのように落着させることをお望みですか』
『お前の仕事に口を出す気はない。やるべきことをやれ。
ただ、お前に一人付ける。その男は別件で罪を背負っていてな。それを免除するための仕事を持たせている。その邪魔はせず、協力を求められたら手を貸してやってくれ』
前段を踏まえれば、仕事の邪魔であれば切り捨てても良いとも言っているに等しいことだった。
『承知しました』
詔勅とも言える言葉に、ただ頷くばかり。
ただ、結果としてマルセルは自分の娘に近い年齢の女が七転八倒しながら滞納した税金を支払おうと足掻く姿に絆されたのは事実。
そして、
「お前が陛下からやれと言われたことは」
「ええ。上手くいきましたよ」
「ライヒ殿の為になることか」
「おや、マルセル殿も気にかかるお相手ですか。あの閣下は」
そこまで言って、別段茶化すわけでもなく。
「妙な魅力がお有りになられる方でした。ええ。確かに気になります。
ただ、私の仕事は彼女のためになることだけではないのでして」
「というと?」
「舞台を盛り上げろ。陛下の詔はつまりはそれですよ。楽しい舞台であればあるほどライヒというお方はより輝くのだとお考えかと」
彼の仕事の全てにマルセルは報告を受ける理由はない。
マルセルが情報収集をする上で彼を使う立場にあることはあっても、明確な部下というわけでもない。
「悪いようにはならないでしょう。皇帝陛下のお望みにも叶い、閣下のためにもなり、それ以外のものへの救いになるかもしれない。
我ながらいい仕事をしたと思っておりますよ。ああ、いえ、この場合は陛下の采配の見事さを讃えるべきでしょうか」
「口の回る男だ。それでよく陛下に首を切られないものだが」
「ですからこうして僻地に飛ばされる仕事を喜んで受けるんでございますよ」
なるほど、道理だ。マルセルは頷くしかなかった。
「そういえば、マルセル殿は何故、彼女を気にかけるのです?」
「理由はいくつかはあるが──」
「娘さんと年が近いから、とか?」
「……明け透けに人の状況を推察して口にするのは品がいいとは言えんぞ」
「ははは。これは失礼」
同じようなことを言われては、これは大いなる欠点なのだろうと自覚はしながらも修正する気にはならない。フォルマートは捻れた性質の男だった。
「仕事はこなしたわけだが、このあとはどうする」
「去りたい気持ちもなくはないのですが、結末を知って陛下に報告に上がった方がよろしいかと思っております」
「暇なら私の手伝いをしてくれてもかまわんが」
「情報収集程度ならお手伝いしますよ」
徴税騎士に恩を売っておくのも悪くない。フォルマートはそう判断した。
「それにしても失恋しても懸想するってのは情熱的っていうべきなんですかね、それとも──」
「口は災いの元と言うぞ」
とはいえ、皇帝の御心について興味がないわけでもない。
一度破れた恋であるし、自分が何かをしようとも思わないが仮にライヒが国母になるような未来があったとしたならどうなるだろうと思わないでもない。
マルセルは知らない。その皇帝と似たような感情を持っている存在がいることを。
よもやその存在が魔王であり、皇帝同様にこの興行の裏で大いにライヒに助力しているなど思いもしない。




