没落令嬢vs散らばるものたち
どるぅうっあああぁぁぁっ!!!
ご令嬢としてはとても口には出せないであろう怒号。さすがのわたくしも口に出すのは憚られるので心の中で叫びながら棍棒をぶん回しますわ。
ごめんあそばせ。
ライヒ・グレイトキャピタルですわ。
現在わたくしは棍棒を振るっておりますわ。それはもう聞いたって? そうですわね。つい先ほど気合を聞かせてしまいましたわね。
その棍棒を振るっている場所というのは、アドルインから少し離れた場所にある街のなれ果て。
少なくともわたくしはそらんじていない、名も知らぬ、廃墟が立ち並ぶそこで大立ち回りの真っ最中。
出るわ出るわ。
よくもまあ賊をここまで集めましたわね! 褒めて差し上げたくなるくらいに多いですわ!
「化け物みてえに強ぇ……!」
「ドギー・ジェックがやられちまった! 体がパーツ単位でしか残ってねえ!!」
「くそッ! 囲め囲め!! 囲んで殺せ!!」
「どこの誰だ!?」
「アドルインにゃ冒険者のエースなんていねえと聞いていたが、冗談じゃねえ……!」
モグリですわねえ。
このわたくしの名と姿を知らないとは。
あんだけ街でもどこでも大立ち回りしたつもりで、単純に名声不足だったら死ぬほど恥ずかしい思いあがりですけど。
ま、それも問題ありませんわ。
「おかわいそうなこと。
あなたがたはここで、わたくしのことを知ることもなくぶっ散らばることになるんですものね」
にたりと笑い、指で手招く。
「言いやがる……」
「じゃあ、名乗りあげてみろよ、クソアマッ」
「大した名前であろうがなかろうが、ぶっ散らばされるのがどっちかってのを教えてやるぜえ!!」
走り出す残りの賊の皆様。
「ならば冥府に渡ったあとまで覚えておいでなさい!
金の髪が黒く染まるは血の煙、家名も同じく血に染めて歩く我が名はライヒ。
囲つ無聊の慰みに、五国十地のあちこちで振るわれたる我が暴の──今宵の肴は」
棍棒を一振り。
ぎろりと瞳を向けて、残りの言葉も吐き切りましょう。
「ここに並ぶ無法の徒どもの一切合切。
この身の飢えをごまかす贄におなりなさいッ!!」
✘✘✘
はい。わたくしがごりっと踏み込んだところでストップ。
あの口上は元々わたくしが考えたものじゃありませんわよ。
青春の残照を病のように引き継ぎ続けている自覚がないわけじゃありませんけれど、
それでも口上自体はかつての友人に功績を喧伝するやり方の一つでも持っておけと覚えさせられたものですの。
懐かしい日々ですわね。なんやかんやあって超帝国の役人になったらしいですけれどお元気なのかしら。
っと、そんなことはさておき。
なぜ、わたくしがあのように暴れ散らかしていたか。
気が塞いでいたからだとかそういうわけではありませんわ。
一斉検挙やら何やらで汚職派の心をガタガタに揺らしている中で、とどめの一手として出されたのが──
「人身売買の拠点を潰す?」
アドルインの冒険者ギルドで行われた今後の活動についての打ち合わせ。
「うん。ドラルディンが他の四大マフィアを統合して、商売っ気を強くしつつある。
その出鼻を挫きたいの。
汚職派が満足するだけの金の出入りと、大きなマフィアがシノギにして組織を成り立たせるための金の流れ。
その二つを一気に断つこと。それがこちらの望みを成り立たせるための最後の準備になるのは間違いないから」
フィニーが真っ直ぐに。
顔は少し青白く、化粧で誤魔化しているもののくまがありありと浮かんでいる。
彼女だけではない。このギルドの人員はそう多くないけれど、いずれの人員もが疲労困憊をなんとか隠している。
彼女一人が考え尽くして、妄執の果てに行き着いた答えではないことはわかりますわ。
こうして話しているのは冒険者ギルドの会議室。
部屋に到着する前に支部長とすれ違ったものの、彼は化粧をしていないからよりひどいお顔でしたもの。
それだけではなく、この一件に協力しているのといないのがわかるくらいに疲弊っぷりがわかります。
私が考えているよりもはるかに多くの人たちがこの動きに共鳴している。
「人身売買を専門的にやっているマフィアは」
「ジャラワールでしたわね。
四大マフィアの。先の言葉を言うなら元ですけれど」
かつてアドルインを裏側で支配していた裏社会の四大組織。
都市運営に莫大な金と労力をかけて存在の容赦を受け、より多くの悪を成していたものたち。
前市長はその体制に至る下地を作り上げた急先鋒の一人。
とはいえ、彼がいなくなったところで何かが大きく変わるわけでもなし。
永遠に続くかもしれないその状況を破ったのがドラルディン。
他のマフィアを瞬く間に支配した。正直、この辺りに関してはわたくしが暴れた結果として均衡が崩れ、そこから始まったこととも言えるのですけれど。
ともかく、支配体制は変わりつつある。
人身売買は超帝国において相当に重い罪。それでも商売として成り立つのは買った側の責任はほとんどなく、売った側の責任が強いように設定されているから。
つまり、買い手に損が生まれにくいからこそ商売になっている。
ジャラワールは人身売買はするが、言うほど大規模にはやらず、超帝国に睨まれないように必死だったってわけですわね。
だけれど、ドラルディンの傘下になった途端に取引を活発化させた。
つまり、自分たちを取り締まるものは今はいない、地方において大勢力となった自分たちこそが自由だとでも言わんばかり。
そうして莫大な富が集まりつつあるらしい。
打ち捨てられたのが歴史のチリに埋もれて消えるくらいの廃墟群にわざわざ囚われた人々を集めているのだとか。
「そこを壊滅させることができれば金の流れが一気に止まる。
その上、そこで取引の情報を得られれば汚職派を揺るがす手札になる」
仮に証拠が見つからなくとも、金の流れが止まれば充分に付け入る隙は作れる、とも。
「つまり」
「ライヒはそこで大暴れしてくれればいいってこと」
「わかりやすくて最高ですわね」
✘✘✘
というわけで、先ほどの口上の後から。
最中は?
とてもじゃないけどお見せできませんわよ。ホホホ。
「それなりに生き延びるかと思っていましたけれど、案外でしたわね」
辺り一面に賊だったものが散らばっていますわよ。
「今からトドメをさしていきますわよお。
生きていて、なおかつ死にたくない方は手を挙げてくださいましねえ」
ぶんぶんと棍棒を振るえば生き残りの皆さんが手をあげてくださいましたわ。
彼らに頑張っていただいて、キャンプファイアーを作っていただく。
そこにわたくしは事前に受け取っていた丸薬を投げ入れる。
もわりと煙が立ち上がる。毒々しい色のそれが空に登って行った。狼煙ってヤツですわね。
ここからはわたくしの仕事ではなくなりますわ。
しばらくして傭兵を伴った有志で結成された証拠集め軍団と尋問軍団の皆さんが現れます。
「ご苦労様です」
顔は知っているけど名前は知らない。
フィニーの後輩であることはわかっていますし、信頼については問題はない。
問題があるとするなら人を覚える能力がいまいち高くない自分自身ですわね。
「もう少し生き延びさせるつもりだったのですけれど」
とはいえ、会話をしないのもおかしい。
うまく場を繋げればいいのですけれど。
「いえいえ。正直な話をすれば噂のグレイトキャピタル卿のことだから誰も彼も生きて朝日を拝ませる気はない感じなのかと思いました」
「どんな噂ですのよ」
「それは、その」
支部長 → 前市長を辞めさせた主要因だよ。
フィニー → 街のために腕力で色々解決してくれているよ。
冒険者の皆さん → 各地で暴れた訳あり冒険者らしいよ。
とか、そんな噂を統合したのでしょう。
思わずそれを自覚して、「あー……」と小さく声を上げてから、
「いえ、聞いたわたくしが野暮でしたわね。
ともかく、ある程度は生きていますしそれでよかった……ということにしておいてくださいまし。
ここから何を手伝えばいいかしら」
「お休みになっていただいても」
「この件はわたくしの意志で突き進めているもの、そのわたくしが休んでいては示しがつきませんわ」
「それじゃあ、申し訳ありませんが私どもの護衛を」
「承知しましたわ」
動くのに難儀する程度に弱らせてはいるものの、非戦闘員が護衛なしで会うのが安全かと言えばそうではありませんわ。
護衛の人数も傭兵ギルドからしっかり集められているものの、それでも非戦闘員の方が多い状況にも見えます。
そうして護衛しつつ拠点を漁ったりして諸々回収。
実際の精査は冒険者ギルドで。
帰路。
「どうして急にドラルディンは危険を承知でお金を集め始めたのやら」
疑問だった。
四大マフィアを一つに統合するまではわかる。
けれど急激にお金稼ぎに寄せた意味はわからない。
わたくしのようにお金に困っているとか?
そうでもないと短期でお金集めに必死になる理由にはならないですものね。
「この拡大と急進的な資金稼ぎには共通してギュストークの名前が出ているそうです。
ギュストークはマフィアのナンバーツー。
トップと違い武力ではなく組織運営や資金繰りで実力を出すタイプだと聞いています」
「そんな人間が急ぎ稼ぐとなれば、組織内部で何かあるかもとかそういうことですの?」
「何かを理由に二分化する可能性がある。それまでに首領であるドラルディンの持つ暴力に比肩するものをナンバーツーが欲している、……無くはないとは思うのですが」
「わたくしもなんとなくそうなのかとは思いますけれど、確証がない時点では妄想に過ぎないってわけですわよねえ」
「集めた資料でわかることがあればいいんですが」
「その辺りは期待していますわよ」
✘✘✘
ライヒによって壊滅した人身売買の拠点。
そこから得られた膨大な資料。
清流派において、それらは強大な武器となった。
つまりは、
「ベッツメンさん。もう言い逃れはできませんよ」
都市中央の市庁舎、その一室。
蔑称として汚職派とまで言われるものたちの中でも最も発言力を持っている男は詰め寄られていた。
詰め寄っているのは以前、冒険者ギルドや傭兵ギルド、都市ディサアドの運営関係者と共にオルドホルムの会議に参列していた清流派の男であった。
「証拠は揃っています。これは写しですが、マナの刻印による偽造防止と真贋判定の技術付与がなされています。
それができる程度にはこちらには『後ろ盾』が増えているということです。
もう一度言いますよ、ベッツメンさん」
言い逃れはできない。
強調するように男は再度発言した。




