没落令嬢vs地方凱旋
温泉でガッポガッポするという目標は少しばかり停止。
諦めたわけではありませんけれど、サン王の祠がドラルディンの支配下にある以上は迂闊に動くわけにはいかなくなりましたもの。
何かしら纏まったお金が欲しいのは間違いない。
けれど、急いでは土台が害獣に崩されかねない。
まずはその辺りをなんとかするべくして行動中。
何かというと、
「ほーら! キリキリ歩きなさいな!!」
大量の賊に縄をつけて歩かせていますのよ。
数珠繋ぎにしてしまえばいっせーのせで逃げない限りは大丈夫。
そもそもこうなる前に相当痛い目を見せて差し上げたからそんな気分にもならないでしょう。
連れていくのはアドルイン。
冒険者ギルドではなく、都市の直下にある組織。
一応は治安を守ることを名目とした団体で、アドルインの秩序と安定のためにアレコレと冒険者ギルドにも似た仕事の出し方をしているところ。
なのですが、支払いが渋いのと基本的に退屈な都市の警邏か、盗賊やら野盗をなんとかしてくれって依頼を出す程度。
後者に関しては同じような依頼で、より高額なものが冒険者ギルドで行われていますので受けるものはほぼ皆無。
いるとしたならなんらかの理由で冒険者ギルドに入れないか、そうした知識のない外様、それ以外だとお金以外にも目的がある人間。
「ライヒ様ー! 素敵ー!」
「平和をありがとうー!!」
「アドルインとこれからも仲良くお願いしますゥゥ!」
市民たちの声。声。声。
まるで凱旋ですわね。
勿論、前もって中立派やフィニーに軽く手を回してもらい、通る道に人が多くいるようになる程度の細工はさせていただいております。
けれど、熱狂の声をいただけるのは市民たちが本当に賊を恐怖している証拠ですわね。
まるで侵略軍を撃退した将軍の凱旋の如くに大盛り上がり。
その中を進み、治安のための組織、その施設へ。
「ようこそお越しくださいました、閣下」
「ざっと百と八名の賊、生きたままお持ちしましたわよ」
巣穴数個分。
誰かさんの笛の一吹きで集まってきていたからこそ賊は取り放題ですわ。
そのおかげで定期便が襲われたってのもあるんですけれど。
これだけ捕まえれば少しは安心。
もちろん、これで終わりではありませんけれど。
「こちらが報酬となります」
「流石に数が重なればそこそこの支払いになりますわね」
「ええ、おかげさまで」
この組織を運営しているのは中立派。お金の出所も計画にも他の連中、つまり悪党共も関わってはいますけれど、彼らも大手を振って悪事と汚職ができるわけでもない。
市民たちにやっているアピールをするためにもお金はここにも使っている。
会議の後に中立派は議会で、
「賊が増えてきている」
「そのせいで隣領オルドホルムに『迷惑』が掛かり、あちらで対処が難しければ『頼れるところを頼るしかないかもしれない』と仰っていた」
「今こそ一致団結して都市外の大掃除を視野にいるべきだ」
そんな論調で語ると多数派であるものたち。つまりここでははっきりと汚職派と呼んでしまいますけれど、
その汚職派も貴族が頼る先はつまりは超帝国。超帝国が動けばすぐに自分たちがやっていたことが露見する。
そうならないためには、懐にお金を入れていない、ちゃんと市民に還元しているアピールをしつつ平和にも尽力してオルドホルムの溜飲を下げねば。
そう考えたようですわね。
前述した通り、今までの支払いは渋くてやる価値のない仕事。
ですが今回に限るとかなり旨みがある仕事に。
そこに捕らえた賊に情報を割らせればどこに根城を作ったか、他の同業者の動きはどうかなどを仕入れることができる。
結果としてこの大行列。
報酬は増額していただけたおかげで相当の潤いになりますわ。
ボーナス的なものとはいえ、瞬間火力だけでいえば新たに商売を始めるよりよほど効率的。
お金が欲しいというのも理由ではありますけれど、これには別の目的もありますわ。
それは──……
✘✘✘
「しばらくは会わないほうがいい? どういうことだ」
ギュストークが睨みを効かせた。
相手はライヒの言葉を借りれば汚職派と呼ばれる組織の運営者。その一人。
「言葉の通りだ、ギュストーク君。
今、街中ではライヒが救国の英雄の如くに騒がれている。
真昼間にあれだけの数の賊を捕まえて凱旋したなら当然だろう」
「それがどうした? ただの馬鹿騒ぎだというなら」
「ある筋から、賊が集められているのは君のやったことだという話が出ているんだがね。
覚えはあるかな」
身に覚えしかないことだ。
だが、より多くの袖の下を要求していた汚職派にそこを突かれる謂れはない。
金が必要なのは彼らを買うためでもあり、より派手に稼ぐには邪魔になりうるものは極力排除しなければならない。
なにより、都市といっても首都のような大きさや繁栄を持っていないアドルインにおいて金を得る方法、生む方法には限りがある。
だからこそ、ライヒのダンジョンを早急に手に入れねばならないという背景もある。とにかく、金。金だ。金策こそがドラルディンの、いや、ギュストークの対決するべき課題であった。
「言いたいことはわかった」
一度、内容を受け取る。
来ている汚職役人は一人。護衛は別としても。
本当に決別する気があるならば一人で来るわけがない。
少なくとも総意であることを明確にするためにも彼以外の重要なポストの人間を数名は連れてくるだろう。
それをしなかった。つまり、これは、
「いくら欲しい」
その言葉に男はにや、と笑う。
実際に運営側ではそうした決別論調がないわけではないが、中立派を中核とした弱い勢力でしかない。
汚職派の中でも恩恵がそれほど強くないものたちは静観を決め始めるものも出てきたが、その程度だ。
だというのにまるで決定だとでも言いたげに現れたのはとどのつまりは変化球的袖の下要求に過ぎない。
指をいくつか立てて、金額を暗示する。
「わかった。一応聞くが、その倍を支払ったとしても運営側の状況は変えられないだろうな」
「その通りだ。残念ながらな。
だが、中立派に流れている報酬は再び元の程度に絞った。
もう賊討伐に関しては不安になる必要もないだろう」
それを聞いても安心などしない。むしろギュストークはため息を吐く。
「遅いんだよ。それはな。
もう動き出してしまった。見せてしまった」
「……?」
「わからんからここに来ているんだろうな。おい、奥の部屋で」
手下に命じる。
支払いだろうとついていく汚職派。
翌日には同じような汚職派の家にのこのこと一人と護衛数名で来た人間、人間だったものが送られた。
手紙も同封されている。
内容は簡潔だ。
『これからもよろしく』
それだけだった。
それからせびるためにギュストークとのところに行こうと考えるものは一人も現れない。
汚職派のそれからは普段通りに仕事をする。利益と私腹のために。
誰もギュストークが言う『遅かった』ことに対して同意見を持つものは現れなかった。そのときが来るまでは。
✘✘✘
オルドホルムで行われた会議は実際的な計画が幾つも出されていた。
実行された策の一つこそが賊の討伐と支払い、そして都市運営にそうした機能と機構があることの明示。
中立派は大忙しだった。
ライヒの凱旋騒ぎのあと、これが金になると思ったものたちやなんらかの理由で名誉を得たいものたちによる賊狩りが流行。
運営はすぐさま支払額を減らすことを指示。中立派にはそれに抵抗する力はない。金目当てのものたちはそれに怒る。
しかし、賊狩りブームは簡単には終わらない。
金の代わりに用意してほしいと中立派が頼み、それを汚職派が金がそれほど必要ないとしたから頷いた。
その代わりは引き続きの名誉。ただし変更点がある。物質的証明になった。
賊を捕らえたものにはその合計数で都市が公的にその名誉を証明するちょっとした賞を作った。
ここで都市公式の名誉を与えられたなら他の都市での食い扶持になるかもしれない。
ショボい辺境アドルインから一旗上げてやるという若者や再起を誓ったベテランまでが賊狩りに専念。
結果、アドルインの周辺はこれまでにないほどにクリーンな土地となる。
そうなってしまえば、しばらくの間はどのようなことがあろうと賊は寄ってこない。つまりはギュストークの引いた絵図は完全に崩された形になった。
それだけではない。
賞を作ったのは運営でも中立派であるという声が聞こえるようになり、少しずつではあるが汚職派に揺さぶりがかけられ始めてもいた。
これこそがライヒが狙っていたお金以外の目的である。
そして、ギュストークはこの全てをではなくとも、こうなることを予見してしまった。
だからこそ、遅いと漏らしたのだった。




