没落令嬢vs奢られ
色々と行動順序は変わってしまっていますけれど、ドラルディン周りを嗅ぎ回っておりますわよ。
とはいえ、グレイスであることがバレているかどうかは未だ不明。
バレているってんならもう少し危険なことをさせられるか、不意打ちでも食らうかしそうですけれど、そういう動きは全くナシですわよ。
仕事もチンピラの掃除が主。
情報の集まりは正直、鈍いですわねえ。
さあて、どうしたものかと考えつつ今日も仕事のご報告。
「終わったぞ」
「ご苦労。報酬だ」
「相変わらずチンピラ掃除に大層な支払いをするもンだな」
「マフィア同士では動けない問題を片付けてくれているのだから、支払うべきは支払うさ。そのハルバードがこちらに向くことは考えたくないのでな」
「そう思っている面じゃあねえがな」
そう言いつつもらえるものはもらいますわよ。
汚かろうと銭は銭。とはいえ、そのまま懐にいれるではなく、マフィアの被害にあったか、あっている市民を助けるために使うってことはフィニーと相談済みですわ。
「この後の予定は」
「帰って酒呑んで寝る」
「飯でもどうだ」
「……」
「そんな目を向けるなよ。お前は俺の趣味から外れてる」
というわけで、ドラルディンの相談役であるギュストークとのお食事に。
いよいよ毒か何かでも盛られて口封じ……なんて可能性があるかも。
できる限りの準備はしていますから疑われない範囲で食べたり食べなかったりすることにいたしましょう。
しかし、お店は意外にもマフィアの息がかかっていないことが確定的なお店。
というのも冒険者ギルドをはじめとした多くのギルドと提携しているところですわ。
「意外なチョイスだな」
案内された席に座りつつ。あ、ハルバードは当然入り口で預けておりますわよ。
「信頼されていない相手を接待するなら店くらいは選ぶさ」
「信頼、ね」
「事実だろう」
「警戒って言うンだよ、こういうのは」
そうして食事が始まる。
とはいえ格式ばった貴族式のものではありませんわ。本当に普通の飲み会。食事も美味しい。それとなく店内には偽装した傭兵の姿も。
この店自体は彼が言う通り息が掛かっていないのは間違いないでしょう。酒を二杯、肉を三枚。他人の金で飲み食いするのは至上の快楽ですわ!!
……油断しているとかではなく、一応ちゃんと「お前のことを信頼していないわけじゃない」ってポーズですわ。
「そっちの仕事の結果、マフィアどもは相当弱っているんだろう」
「セリアレは我がファミリーの一部門になってもらった。大きいところも残り二つ。これも時間の問題だろうな」
「手を汚さずにうまく救いを与えるようにして吸収する。上手い手だな」
「計画は作れても実行できるかは難しいものだ」
暗にわたくしの武力を褒めているようですわね
実際、チンピラ退治といってもそれなりに位階を伸ばした冒険者であればこそチンピラと呼べる相手でも普通に戦えば苦戦、死闘の類になるかもしれないお相手。
「マフィアなんだろう。武力担当の一団、一山いるンじゃねえのか?」
「役に立ちそうな相手はどこぞの冒険者に殺されたのさ」
「どこぞ?」
「ライヒ・グレイトキャピタル。知らないか?」
びっくりするくらい知っていますけれど、ここは
「よその都市で、数年前に傭兵をしていた名だな。そいつもいるのか」
「近くの領地を支配しているお貴族様さ。ダンジョンを経営して左うちわの生活だそうだ」
どこ情報ですのそれ。左うちわどころかお尻にファイアですわよ。
「そのお貴族様に手下が殺されたのか」
「手下というか、まあ、そうだな。もともと制御できる駒ではなかった以上は惜しむつもりはないが」
「抑止力にはなっていた、か?」
「そうとも言える。今じゃ実質的に戦える駒は俺を含めても三人程度さ」
「ドラルディンと、もう一人」
「ああ。その内、お前とも会うかもしれん」
「おいおい。いつの間にか俺も所属者扱いか? あくまで仕事だけの付き合いなンだぜ、こっちは」
どうだかと言った顔をされますわ。
けど、その顔から彼が本当にグレイスとわたくしを重ねていないことは透けましたわね。
「で、マフィアを次々食らってドラルディンはどうしたい。よもや表に打って出たいなど言うまいよな」
「表など興味はない。だが、目的は当然ある」
「大望か」
「どうだろうな。大望であれば、お前の仕事量を占有できるか?」
「内容次第だ」
「……俺のような人間にとっては大望だ。つまり、金と権力だ。それが全てだ」
否定はしませんけどね。
ええ。銭なくして明日なし。わたくしが痛感しておりますわ。
「マフィアを全て一つにまとめれば莫大な資産が?」
「それほどにはならん。大きくなれば支払い先も増える」
「嫌な現実だ」
「現実なんてものはいつだって嫌なものだ。だが、力を得られれば次にいける」
「次ってのは」
「支配さ。お前の言うとおり、我らは裏社会。表があってはじめて我らは裏で在り続けることができる。それを否定するつもりはない」
であれば、とギュストークは酒盃を少し強く握る。
「表に見えるものも、裏に染める。そうしてアドルインへの影響力をより強める」
「どうやって染めるつもりだ」
「金だよ」
「それほど増えないと先言ったばかりだろう。支払い先も増えると」
「ああ。だが、力も増える。選択肢も。やれることが増える」
「増えてどうする?」
「尽きない金脈を得るための、本腰を入れる」
そんなものあるなら是非伺いたいですわね。切実に。
そんなことが顔に出ていたのか、
「得られるんだよ。あのライヒという女が持つダンジョンを得られたなら。
以前持っていたダンジョンでは失敗した。だが、次はやりようも覚えた。出入りと回収が容易ならば更に安定して稼いでやる」
以前?
……聞きたいところですけれど、切り出し方が分かりませんわね。
「準備を整えて、貴族からダンジョンを奪って、か。
うまくいくのかね、そんなことが」
「うまく進めるさ」
「自信ありげだな」
「金があればできることが多いと言っただろう。どうやらあの貴族は資金繰りに困っているようだからな」
げえっ。そんなことまで……いえ、別に力を注いで隠しているつもりもありませんし、ちょっと調べりゃわかることなのでしょうし、ええ。露見も仕方ないこと。
「金をやるからダンジョンをよこせ、なんてことじゃあなさそうだな」
「当然だ。我々はマフィアだぞ。慈善団体じゃないんだ。
多くの金を握るものは金の流れそのものを動かす権利をも持つ」
ははあ。なるほど。つまり何らかのやりかたでこっちを干上がらせるつもり、と。
「……重要な話に聞こえるが、随分とあけっぴろげに話すものだな」
「俺の考えなどいずれ露見するものだ。力を注ごうとも秘密というのは暴かれる。おそらく、ライヒ側もこちらの動きには目を向けているだろう。既に露見していたとしてもおかしくない。であれば信頼を勝ち得たい相手に話すくらいは問題はないと思わんか」
「高く買ってくれる。だが」
「わかっているさ」
持ち上げるのがうまいですわね。
人の上に立つべき器、ってのはこういう男を言うのかもしれません。
わたくしがライヒでなくグレイスという個人であったなら、そういう未来もあったかもしれませんわ。
ピカレスク・ロマンだって嫌いじゃありませんもの。けれど、先も言ったけれど、これは現実。彼が言った通り、現実はいつだって嫌なもの、でしたわよね。
「金だけではない。力があれば貴族はどうにもならずともその周りならば好きにできることは多いものだ。
誰もがライヒという貴族ではないのだからな」
フィニーを狙う、って言いたげですわねえ。
「マフィアらしい手って奴だな」
「目的を果たすためならどんな手段も尽くす。その点においちゃ貴族と変わらんよ」
それは耳が痛い。
わたくしはそれができそうにないから貴族から逃げた身ではありますけれど。
にしても、わたくしもこりゃあ厄介な男に目をつけられていますわよ。
ここでマッハ突きかましてはっ倒しておしまいにしたいところですけれど、ここじゃあ10:0でわたくしが加害者になりますわね。
殺したところで、彼は相談役に過ぎない。
あ、そうだ。それですわ。
「ドラルディンの総意なのか?」
そういえば俺はファミリーのトップにあったことがないが、と付け加えて。
「ドラルディンは何を考えているかわからん。だが、こちらを止めないということは同意していると考えていい」
「そういうもんかね」
「ああ。アイツのことを全て理解しているわけではないが、この街では一番理解しているつもりではある」
不思議ちゃん、というにはマフィアのドンの肩書きはイカつすぎますわよね。
わたくしは話を蒸し返す。大きい話に戻って会話に区切りをつけるために。
「にしても。そうか。貴族から奪う、か。それは確かに大望だ。
じゃあ、そのあとはどうする。無限に富を生む源泉を得て、それをもとにしてアドルインを裏から支配したとして、それがお前の独断だとして、どうなりたいンだ」
果てはどこにあるのか、その問いに対して明瞭なものはすぐには戻ってきませんですわね。
「マフィアにしかなれなかった俺の、取るに足らない俺の、吹けば飛ぶような命の俺の、世間への復讐さ。結局、言語化すればそういうことになる」
彼は改めてなのか、不意になのか、自分というものを納得したようで小さく苦笑を浮かべていた。
「矮小な男の、その部下になるつもりはないか」
悪くない。
わたくしに関係している全てを無視して判断だけするなら、悪くない相手だとは思います。
けれど、わたくしと貴方はもう相容れない敵同士。領地も、立場も、ダンジョンも、友人も、我が騎士も。全てと共にあるために、彼らと共にいることはありえない。
「冗談。特定の主君を持ちたいってンなら俺の旅はとっくの昔に終わっている」
実はまあ、しゅくんという話だけなら、魔王ハイエンド陛下には感謝とそれに比例するだけの忠義を持っているつもりではありますわよ。
主は誰かと言われれば、本当にあの御方を思うかもしれませんわ。
あの方はわたくしに無体な命令──たとえば、人族の絶滅戦争に加担しろといったことを、命じないだろうという信じられますもの。
なんて、勝手な思い込みかもしれませんけれど、これでも冒険者、傭兵なんかをやっていた経歴の中でひとときの主君を持った経験はそれなり。
そうした経験からくる確信のようなものがありますわ。
少なくともあの魔族の娘を助けたときにそのようなことをおくびにも出さなかったことからもわたくしの信頼は間違っていない、と思っておりますの。
ですから、ええ。主云々については本当に、こればかりは嘘のつきようがない。
『上がり』にしたいのであれば、皇帝陛下に言い寄られたときに頷いていますもの。
袖にしてやりましたけれど。
わたくしが皇帝陛下を袖にしたように、この男には男の中に理由があるのでしょう。
それを聞き出す準備はこちらにはありませんわね。
「ま、ギュストークって男についてはわかった。……美味かったぜ」
彼から聞き出せる情報はこれ以上はないでしょう。
下手に世間話を続けてこちらを突っつかれても美味しくないですし、明確にドラルディンがわたくしを的にしていることがわかったこと、
準備が整ったらわたくしでは対処できるとは思えないことが理解できましたもの。
ここからはどうやって潰すか。
倒される前に倒すか。そういうお話になりそうですわね。
「支払いは」
「奢りだ」
「ごちそうさん」
立ち上がり、出て行こうとするわたくしの背に。
「それだけの武力をこれからは何に使う」
これから、と来るんですのね。
どうやら彼との仕事がここまでというのを察した。そういう能力こそ組織の相談役たり得るものなのかもしれませんわね。
あるいは、大望を果たすための器とでも。いえいえ、相手を無駄に大きく見るのは危険だと暴れん坊の師匠にも教えられたこと。
ここでの会話は会話。彼は彼。そう切り分けねば。
返答は、ええ。こればかりは昔から決まっています。
「自分がやりたいと思ったことにだけ使う」
「自分のために使うか」
「ああ。俺と、俺が好んだ誰かたちが喜ぶ道を選びながら。そう願いながら俺は武力を振るう道を歩む」
「傲慢だな」
そうですわね。ええ。それも否定しようがありません。
「お前と変わらンさ」
皮肉や嫌味ではなく。ただ、頷くばかりですわ。




