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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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没落令嬢vs事後報告

 あれから数日、なんたら準男爵からの連絡はありませんわね。

 やっぱり罠だった。そういうことでしたのね。

 けれど……誰がわたくしを?


 ドラルディン・ファミリーが狙っているとして、裏路地の連中がそこまで手のこんだことをするのでしょうか。闇討ち襲撃で決着するだろうって考えは捨て置くべきかもしれませんわね。


「ライヒ、部屋空いたから。いい?」

「ええ。すぐ行きますわ」


 わたくしはそれらの報告も兼ねてアドルインへ。

 オルドホルムはリオとアルシュカにお任せしています。


 簡単な報告はリオの手で作られたレポートで渡しております。

 罠に飛び込むようなマネをしたことに関して怒られるかと思っておりましたが、


「それからおかしなことは?」

「いえ、何もありませんわね」


 怒っていなかった。あるいは通り抜けたか、呆れがその先に来ているのか。

 ううん。どうしましょう。

 そんな風に思っていましたのよ。けれど、


「ライヒ、私が怒っていると思ってるならそれは違うからね。

 前も言ったでしょ」

「その、伝えなかったのはごめんなさい」


 実際、今回の件について言えば魔族の娘が関係しているからこそ大っぴらにはどうしても……。


「私もライヒと戦いたいの。

 だから、うまく使って。仲間や家族のようにではあなたは遠慮するでしょうから」


 そこまで言って、彼女は、


「サン王の祠で復讐を目的としていたものに呼び出され、モンスターハウスに巻き込まれた。

 ……そこらのチンピラができることじゃない。

 あの祠ダンジョンはそもそも、それなりの立場じゃないと入ったところで」

「ええ。死にますわよね」

「そこから考えられるのは、その復讐しようとしていた連中はドラルディンと手を組んでいた、とか」

「ほかのマフィアはどうですの?」

「ドラルディンが今までやったことを考えれば、その罪まで被りかねないことはしないと思う。下手に突っつけば超帝国そのものが動きかねないんだからね」

「なるほど。……でもそれって」

「ええ。ドラルディンは超帝国がどうこうなんて恐れていないとも言えるね」


 それで、と。


「ライヒ、次はなにをするつもり?」

「それは……ううん。まだ考えていませんわ。正直マフィアどもに絡まれている暇がないくらいに──」

「納税の危機が迫ってる、と」


 苦笑して頷くくらいしかできませんわ。


「今回の件だけじゃなくて、ドラルディン関連かもしれないことについてはこっちで調べておくから。

 ねえ、ライヒ」


 心配そうに見つめるフィニー。小綺麗な顔してますわねえとか言うタイミングではありませんわね。


「何度でも言うからね。……私は友達として心配はしているの。

 でも、私は受付であって冒険者じゃない。

 戦いに相乗りして、殴り合いができない私ができるのは冷静に状況を見て、導き出せるものを纏めて前線で戦うあなたたちに渡すことだけだから」

「……ありがとう、フィニー」

「押し売りになるけど、見返りは求めるからね」

「わたくしが用意できるものなら」

「次のお休みのときに、あなたの領地でご飯が食べたい。新作料理がそろそろだって聞いてるわよ、冒険者の子たちから」

「そのときは、ええ、喜んで振る舞いますわよ」



 ✘✘✘



(正面から来ないとなると、めんどくせえですわねえ……)


 思わず心のなかで愚痴ってしまいますわ。

 ドラルディンの人間がアレコレ細々とした嫌がらせではなくわたくしに正面から殴り合いを求めてくださればいいのに。


 フィニー曰く、


 ここまでやって次がないわけがない。ドラルディンはなにかまだ計画を持っているはず。

 以前のように帰路で襲わなかったことはただのミスだとかではなく、それが無駄になるからやらなかっただけで、それだけあなたを危険視している証拠。

 けれど、次の手を必ず打ってくる。


 警戒はそのままで。こちらでも街での情報を集めておくからまた作戦会議しましょう──とそういうことになりましたわ。


 次の集まりは数日後に設定され、わたくしはそのまま帰るではなく昼食を食べてからに。街で一人、考え事をしながらの食事も悪くないかなと思った次第ですわ。


 来場する冒険者や旅人から聞いた、最近噂になりつつある喫茶店のことを思い出し、そちらで軽くお食事をいただくことに。

 案内されたテラス卓で、食後のコーヒーを頂戴しながら街で流れる人々の動きをぼんやり。


「ライヒ」


 不意に声。


 人が多ければ気配は読みにくくなるとは言え、声を掛けられるまでわからなかったのは久しぶりですわね。

 ぼんやりしすぎですわね。殺気の一つでもあれば即座に反応する自信はあれど、狙われているかもしれないっていうのにこういう無防備なのはダメですわね。


 ともかく、声を掛けてきたのは──


「ノエル、先日ぶりですわね」

「怖い顔しているけど」

「あら……そうでした?」

「本の感想交換するって雰囲気じゃないね。どうしたの?」


 黒瞳がこちらを向いているものの、月のない夜のようにどこに焦点があるかもわからない、不思議な瞳ですわね。


「荒っぽい話に巻き込まれておりまして」

「そういうのにモテるね、ライヒは」

「嬉しくはありませんわねえ」

「よかったら聞かせてよ。愚痴でも、荒っぽい話の感想でも」


 練成卿の邸まで付いてきてくれた彼であればどんな話も受け止めてくれるでしょうし、


「……それなら、少しだけ」


 少しばかり悩むべきかもしれませんけれど、誰かに心の澱を見せつけたい気持ちというのも否定できず、話すことに。


 とはいっても、この街に住む人間で、カタギの方に何もかもというわけにはいかないので脚色と省略を交えて。


 ろくでもない悪党に自分の仲間と領地が狙われている。

 けれどこちらから動くのも危険。

 手をこまねいているというか、出しあぐねているというか。

 そんな話を。


「的外れなことを言うかも知れないけど」

「ええ、どうぞ」

「その相手は絶対に敵?」

「現状では、そうですわね」


 少なくともヒョルドの一派に手を貸していたのであれば、疑いようもなく。

 下っ端未満の相手がダンジョンの帰りに手を出してきたのも事実として。


「その視点を捨ててみるのはどうかな」

「捨てて、何をすればよいと考えますの?」

「相手の側に立つ……のは心情的に難しいだろうから、そいつらのやっている仕事を手伝ってみるとか、上手くいけば中核にいる人間とコンタクトが取れるかも」

「取り込まれまそうですわね、それ」

「そこは強い心を持ってもらうしかないかな」


 ノエルが淡い苦笑。表情筋が生きてたんですわね。


「目的は別に相手に取り入ろうかどうかって話じゃなくて、相手の状況に入り込めば相手の打とうとしている手が見えてこないかなって。

 今、ライヒが戦おうとしているのは夜の霧のようなもの。殴り合えるかもわからない」

「霧の中でたいまつ(自らの目)で明かせば見えるものも出てくるだろう、と?」

「そういうこと。

 実はさ、ポールとか他の人から噂だとか実績も聞いた。戦うのを見ていたからただものじゃないのはわかってたけど、本当にすごい人だったんだね」

「生き延びただけですわよ」


 いやあ、それほどでもありますわよ。へへへ。

 なーんて、自分を持ち上げたいところですけれど、実際、本当にわたくしは運よく激戦の連続から生き延びているだけ。

 仲間と、運に恵まれていて、ちょっぴり目端が利く程度。


「だから君ほどの冒険者なら入り込むこともできるんじゃないかな」

「……入りこむ」

「どう?」

「正直」


 わたくしは笑っていたのでしょう。

 ただ、彼のような柔らかいものや、女性的なものとはかけ離れたものだった自覚はありますわ。

 けものめいた、そういうものだったのでしょうことは、ええ。自認しているところですわ。


「そいつはとっても、おもしろそうですわね」



 ✘✘✘



 領地へと戻ったあと、狩猟小屋の辺りへと顔を出しまして、かつてドラルディンに使われていたものたちに相談を持ちかけましたの。

 どうやって彼らに仕事を持ちかけられたかを。


 彼らにはもう手を切ってもらっていますし、今回のあれこれに手を貸して欲しいとも願っていませんわ。

 ただ、彼らがどうやってコンタクトを取られたかを聞いておけば、似た状況で入り込むことができるかも、と。


 彼らも心配はしてくださいましたが、同時にこの領地にもドラルディンのものたちが入り込みかねない、攻め込んで来かねない状況を知れば情報の出し渋りはありませんでした。

 それに、誰よりも敵対した彼らであればこそ、わたくしのことをよくよくおわかりでしょうし。


 このまま再出発してもいいけれど、流石に我が騎士二人に言わずに話を続けるわけにもいきません。


「──ってことなんですの」

「……」「……」


 リオとアルシュカは顔を見合わせて、ため息。


「それしかない、んですか?」


 心配そうなリオ。


「あのさあ。オレたちだって強さは信じてるけど、それはそれとして心配にはなるんだからな。ライヒ様、そこわかってるよな?」


 ついにお説教をするようになってきたアルシュカ。


 二人とも別ベクトルからの愛を感じますわね。

 と、それを浴びているわけにもいきません。


「色々と釘は刺されてはいますけれど、ただ、いつかは踏み込まなければだめなのも肌で感じているんですの」

「なんでそう思うんだ?」

「こればっかりは勘働き頼りですわね。ただ、そこらのチンピラなら使い勝手のいい下っ端を引き抜かれたり、協業していたヒョルドを潰された時点で動くはずですわ。

 悪党にとってメンツというのは欠かさざるべき要素ですもの」

「なのに動かなかったのは、確かに……」


 リオが思うことはアルシュカも同様に。

 とはいえ、領地の主がそんな軽々に動くのかとも思われますわよね。

 これに対するアンサーは──


「わかりました」

「オレたちにできることは限られているから、その範囲内で手伝う。ダンジョンの管理はやるとして、それ以外は?

「いつでも助けにいけるように何か決めて、近くで見張るとかはどうでしょう」

「それもありだな。表沙汰にできない作戦だろうし、あんまり仲間は集められないのはどうするか」

「あら……?」


 二人ともむしろ協力的。


「反対すると思いましたか、ライヒ様」


 リオがまっすぐに。


「しませんよ。あなたが最短距離を走ることが好きなのもお得意なのも、もう知ってますから」

「一応止めはするけど、なあ。あー、でもフィニーさんにもちゃんと伝えておけよ。

 あの人、オレたち並にライヒ様のこと心配してんだからさ」


 アルシュカがリオを見てから肩を竦めて、


「ライヒ様。

 何かあったらオレたちは命を捨ててでも助けに行くからな。

 万が一なんて考えたくないけど、」

「御身に何かあれば、私たちも命を捨てて、復讐をします。あのダンジョンで見た復讐者のことを笑いません。明日は我が身でしたから。だから、」


 二人がわたくしを見据える。


「それだけは忘れないでください。私たちはライヒ様と共にあるということを」

「生まれた日も死ぬ日も違っても、行き着く先を同じにと願っているってことを、さ」


 まったく。わたくしにうってつけの騎士たちですわね。


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