没落令嬢vs家宝探し
戻ってきて早々にお仕事ですわ。
受けた以上はやらねばなりませんし、仮に『騙して悪いがドラルディンからの仕事なのでな。このダンジョンを墓標にしてもらおうか』的に襲って来たならそれはそれ。話が早くて結構。
「一人で行くなんてありえないだろ」
アルシュカが睨むように抗議。
リオも同様に。
ううん。流石に連れて行きたくはないのですわよね。ですけれど、
「私たちは騎士に任じられました。帰ってくる場所をお守りするのも仕事ではあると思います。
ですが、御身を守護しなくて騎士と名乗ることはできません」
「ここの守護ならゼド爺さんもいるしさ!」
リオのは間違いなく正論ですわね。
アルシュカの言葉もやはり当然のこと。傭兵は金を払っているうちは裏切らない、というのが鉄則。少なくともギルドでまっとうに傭兵をしているのであれば。
ゼド爺はその信念のどまんなかの方でしょうし、ええ、守りについては不満などあるわけもありません。
アルシュカは続けて、
「……そのダンジョン、危険なのか」
「危険ですわね。ダンジョンそのものの方が。けれど」
一人で何もかもするつもりなら、彼らを騎士に任じるべきではありません。
わたくしにも主君として選ぶべきことがある。
ええ。お稚児さんとして側にいさせるためにそうしたわけではありませんわ。
「わかりましたわ」
彼らには可能性も見たのです。いえ、あれからずっと。
正しく育ってくれたなら、素晴らしい騎士に、そうでなくとも冒険者や兵士になることができる。
「共に参りましょう。けれど、約束をしてくださいまし。
ダンジョンではわたくしの命令は絶対」
「それは」「ダンジョン以外でも遵守してるけど」
「……そうですわね。ではもう一つ。わたくしが定めた陣形を守ること」
主従上下の問題ではなく、ダンジョン攻略の初歩。
命令系統が狂えば死は走って近づいてくる。
初歩ではあっても、これを守り切ることができる一党のなんと少ないことか。
わたくしも何度も巻き添えを食ってえらい目に遭いましたわ。
「誓います」「誓うよ」
二人の声が重なる。
そういうことになりましたわね。
ダンジョンの出入りに関してはそれほど長い時間でなければリオが手伝いをさせている領民たちでもなんとかなるはず。
オルドホルムの守りに関しては前述の通りゼド爺を含む傭兵ギルドの方々に別途依頼を出せばよいでしょう。
──そうして出発の準備が整い、わたくしたちは集合場所へ向かうことになりますわよ。
さっさと仕事を完了して、名実ともに魔族のあの娘さんを解放しなくては!
✘✘✘
サン王の祠ダンジョン近く。
ヒョルドの復讐を目論む冒険者崩れ。その周りには一党に偽装したものたちがいた。
悪漢悪党、あるいは崩れと同じくヒョルドの元手下がいた。
「約束のものだ。事前に教えた通りに使えよ。いいか。ギュストークさんはお前らに期待している」
彼ら一党に声をかけたのは外套で姿を隠して中身は誰か、彼らが知るところではない。
わかることは彼がドラルディン・ファミリーの一員であり、ギュストークの直下にいるのだろうということだけ。
だが、ライヒであればこの男が準男爵を名乗っていた人物であり、そこから後ろで糸を引いていたのがドラルディン・ファミリー、あるいはギュストークという人物がわかっただろう。
その人物は小さな布袋を崩れに渡した。
「わ、わかっている」
「本当にわかっているのか?使い方を誤れば──」
「しつこいぞッ」
渡されたそれを乱雑に腰嚢に押し込む。
それを見て本当にわかっているのかね、と言いたげなジェスチャーをする外套姿。
「ライヒとかいう女がどうしてドラルディンの厄介な種になりそうだとギュストークさんが思っているかは知らん。ただ、組織が立ち行かなくなって困るのは俺もお前らもだろう。
いいな、ここで確実に仕留めろ」
一党を見渡して、
「仕事が終わればそれなりの立場ってのがファミリーで与えられる。店でも、武力部門のポストでも、なんでもな。
それだけ重要な仕事だ。ギュストークさんをガッカリさせるなよ」
釘を刺すようにして、それから外套姿が去っていく。
崩れが集めた一党たちが、念を押された崩れを見る。
大丈夫か?そう言いたげな視線を送る理由は、崩れがどれほど余裕のない表情をしているか見てとれたからだった。
✘✘✘
祠ダンジョンの近く。
野営の煙を目星として向かうと冒険者の一党。
あの準男爵が雇っている冒険者で、家宝を落としたものの仲間だとも。
少なくともあのダンジョンから生還する程度の実力はある、そういうことですわね。
「雑思考のライヒ。名前は聞いてるよ」
一党のリーダーらしき人物はこちらを見てなにも言わずに準備をする。
話しかけてきたのは盾を持っていた男でしたわ。
「こっちは五人だ。元々は適正人数の一党だったんだがね、坊ちゃんは実家に戻っちまってさ」
適正人数というのは冒険者の一党を組むときの指標。
ダンジョンを潜るでもなんでも、その人数が結果的にちょうど良かった、という先人たちの知恵。
とはいえ、別にそれ以上の人数で動いたって法律で罰せられるとか神の怒りがあるとかではありませんわ。
少ないならまだしも、単純に人数が多いと狭いところだと身動きが取りにくくなるから危険だとかはありますわね。
つまり、彼らは五人。わたくしたちは三人
「適正からは外れますわね。それに」
「チームワークが取れるわけでもないしな。このランクのダンジョンじゃあ命取りもいいところだ」
「家宝を無くした場所はおわかりですの?」
「ああ、地図の写しがある」
一階層目、少し奥まった広間。
「まずはオレたちが先行する。人数もこっちが多いしな。その後ろを付いてきてくれ」
「急襲不意打ち対策と」
「いざってときの援軍を頼む」
「わかりました、こちらはいつでも出れますわよ」
あちらのリーダーがちらりと見てから、
「行くぞ」
と言い放ってダンジョンへ。わたくしと喋っていた男もすまんなとその態度をか謝りながら合流して行きましたわ。
彼らが中に入って行ってから、
「なんだかその、あまり友好的ではない方でしたね」
「敵対的っつうか、……妙な緊張があったよな」
二人がそのように。
わたくしもそれに関してはすこし思うところはあります。
依頼も怪しいですし、彼らの動きも怪しい。
契約で与えられている呪い発動の条件はダンジョンに入り、目的地付近までは行くこと。
そこまでやれば解消される。さっさと進んで、態度が変わらないならさっさと逃げ帰るのも考えたほうがよさそうですわね。
その辺りの相談もしつつ、
「あまりそうなっては欲しくありませんけど、」
「相手次第だって、リオ。態度が悪いだけでいい奴かもしんねえしさ」
「そう、だね」
明らかにアルシュカは口で言っていることとは違う思いがあるであろうし、それをリオもしっかり理解しつつ、頷いている。
いいですわね。互いの想いを理解している関係。これこそが信頼ですわよ。ホホホ。
✘✘✘
彼らの戦術行動の邪魔にならない程度に距離を取るために出発を遅らせてから続く。
遠くから戦闘の音。
排除してくださるのは助かりますわね。
とはいえ、彼らが進んでいるのとは別の通路からは倒されていない魔物がゆると現れますわよ。
姿を見せたのは装備の整っているコボルトの群れ。
「装備の乗り換えをしておきたいですから、倒してしまいましょう」
わたくしは腰のものを抜くつもりはありません。
耐久性も何もわからない、どこまで使えるかもわかりませんもの。ここはまず拳を固めておきますわ。
とはいえ、
「主君が一番槍まで持っていくってことはないよな?オレが先を行くぞ。いいよな」
それには頷く。事前にその辺りの話し合いも済んでいるので独断専行ではありませんわ。
「速度上昇!」
リオの支援術がアルシュカに与えられる。肉体に関わる能力の引き上げ。
それによりアルシュカは一瞬でコボルトへと肉薄するとわたくしが下賜した剣を、その重さを利用するようにして振り回し瞬く間に相手を切り裂いていく。
「魔力小楯」
しかし相手は群れ。それも魔物。仲間が死のうと泣いたり悲しんだりなんてせずにむしろ散らばる肉片に紛れるようにして踏み込み、鈍器が振り下ろされますわ。
それをリオが唱えた術が盾を生み出す。マナによって作り出されたそれは空中に現れて衝撃を殺して割れる。威力を失った一撃に応ずるようにアルシュカが一撃を返し、倒していく。
「見事なものですわね」
「お休みの日とか、冒険者さんのお手伝いで二人で潜ることもありましたから、少しずつですけど成長しているんですよ?」
微笑みを向ける。
油断ではない。コボルトの最後の一匹はアルシュカによって撃ち倒され、残心して警戒をしているアルシュカを見ながらの言葉だった。
「アルシュカも武器を使いこなして、すごいですわよ」
「いや、オレなんてまだまだだよ」
そう言いながらわたくしを見る。
コボルトたちを素手で解体しただけですのに。
「ここ、危険なんだろ」
「全ての敵が高水準というわけでもございませんし、この手のコボルトは今までの冒険者人生で飽きるほどに撃破しましてよ。
慣れですわ、慣れ。ホーッホッホ!」
高笑いも忘れない。大事なルーティーンですわ。
コボルトの死体が赤黒い光、カラレスへと変わっていく。
「あーあ。この光もわたくしのものになればいいですのに」
「そうなればライヒ様がダンジョンに潜る楽しみも増えますね!」
「ホント、そうですわよ」
手を向ける。
わたくしのダンジョンであればこの手に集う光ですけれど、他人のものですからね。
「ライヒ様、カラレスが……!?」
光が進路を変えてわたくしの手へと。
あらあら?
そのまますう、と吸われて行きます。そして、実際にそれが吸われたことをわたくしは以前作った器具で確認までできてしまっていますわ。
あれ、そんな。
ラッキー!
……とは言えませんわよね。え、これって盗難になるんですの? なりませんわよね?
などと言っていると、遠くから先発者たちの声が聞こえてきますわ。
どうにも苦戦しているような。
「考えるのは後にいたしましょう。急ぎますわよ」
わたくしは殺したコボルトが持っていた鈍器を一つ、足で蹴り、空中でキャッチすると走り出しましてよ。
足癖が悪い? それでもお貴族様なのか?
今更の今更ですわねえ。
わたくし、没落してましてよ。ホーッホッホ!!
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オマケ:ダンジョンについて
ダンジョンには複数種類が存在する。大枠の三種と特殊な一種に限ってここで説明する。
自然発生系:巣窟系
カラレスが偶然、その場の形質を整えて、特定の魔物に住みよい環境を与えるケース。
ゴブリンなどの巣穴はこうして作り出されることもあり、中には『ゴブリンごと作り出す』場合もある。
自然発生したものは管理権限は誰にも存在しないが、そのダンジョンの主と定められた個体は存在し、その個体を撃破することでダンジョンはただの『場所』になる。
自然発生系:異界系
カラレスが何かの記憶を参照し、その場にはありえざるものを生み出すケース。
大自然の只中に石造りのダンジョンが存在するなどがある。
別のダンジョンと何らかの繋がりがあり、そこで死んだものの記憶を読んで遠方にダンジョンを作るのではという噂もある。
キーパーは不在だが、踏破されても巣窟と違い成長する可能性がある。
成長しきるか、成長に失敗することで無害化される。
人為発生系:土地管理
ライヒが行うような、氏族紋などによってカラレスを操作してダンジョンを作るケース。
異界系にも似た形で、記憶や体験などをベースに生成されることが殆ど。
そのため『ダンジョンを知っている』+『敵性生物との戦いを経験している』+『氏族紋などの土地からダンジョンを作り出す力を持っている』という薄い確率を重ねていく必要があり、偶然こうしたダンジョンが作り出される可能性は低い。
大抵の場合は魔族が氏族紋を受けて、ダンジョンと魔物のことを学んで作り出し、人族の勢力圏内で運営するケースが殆ど。
今回助け出された少女はそこに該当する。
特殊事案:引き継ぎ
既存のダンジョンでキーパーの権限を偶然に得た場合、それが誰であれキーパーとしてダンジョンを操作することができる。
勿論、ライヒのような弄り回すことに関しての機知の閃きに幸運が味方せねば実際にキーパーとしては成り立たないが。
キーパーを打倒した際にその人物が持っている象徴的な品物に敗北による悔しさややり残したことに対する無念などが強く焼き込まれることで管理権限を持つ道具になる。




