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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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没落令嬢vs売買契約

 ノエルとのランチも滞りなく終わりまして、オルドホルムに戻って数日。

 冒険者の数は一旦、高止まりでそのままに。


 ゼド爺も近隣の都市と連携して定期便を少しずつ増やしていきたいとのこと。


 とはいえ、ダンジョンに入るにはそれなりに仕事をしなければならないので、近隣都市からアドルインに、アドルインからオルドホルムに、とその辺りの馬車を主に出すことになっているご様子。

 今までは定期便も定期と名ばかりの状況になっていたから都市側からもありがたい以外に意見はないようですわね。


 どうにもあの兜割りを名乗っていた男──ヒョルドがそこかしこの交易路を襲いまくっていた結果、便数が激減するに至っていたそうで。

 倒した後に撃破して良かったと思うことが再び浮上するとは思いませんでしたけれど。


 そんな折にわたくしのもとに、


「ライヒ様。お手紙を預かりました」


 リオが手紙を持って現れましたわ。


 アルシュカも隣で一緒。二人は仲良しというのもあるのでしょうけれど、いつドラルディンが動くかもわからないから、警戒のために二人体制(ツーマンセル)を取ってもらっているってワケですわ。


 にしてもわざわざ手紙一つに声をかけてきた、ということは特別なものってことですわね。


「その、送り主はアドルイン(いつものところ)ではなく」


 封蝋は──


「ベイシンのものですわね、これ」


 ベイシン。つまりは隣国からのお手紙。

 実質的に超帝国とは戦争状態ですから国交なんて本来はないのですけど、地方となればノールール。物も人も手紙だって渡ってきますわ。

 最近までは出る一方だったようですけど。


「はい。これを持って来た方はソーパスという都市のギルドから来たと。渡したらすぐに去ってしまって……」

「手紙を見ればわかる、そう言いたいんですのね」


 手紙を開けばアドルイン最寄のベイシン所属都市ソーパスからの丁寧な内容は──


『祠ダンジョンを臨時で攻略したあなたのことを知った。

 ソーパスの冒険者が独断で祠ダンジョンに向かい、しかし敗北して逃げ帰ってきた貴族が落とした家宝の回収を願いたい。

 我が国ベイシンとそちらの国は関係が微妙な状態で、正式に依頼をそちらのギルドに回すことができず、内密な依頼になってしまうことを許されたい』


 ……ふーむ。

 怪しいですけれど、


 報酬に関しましては、お話をさせていただけるようでしたら人員を派遣します、と。


 貴族が家宝を、ねえ。

 流石にわたくしも冒険者になるときは家宝は持ち出さなかった、というかそんな家宝ありゃしない家でしたけれど、


 強力な力を持った家宝で、それがあればダンジョンなんて余裕だぜ!

 いっちょ家宝で楽々攻略して貴族としても冒険者としても名誉を得るとするかあ!


 ──なーんて考えてもおかしくはありませんものね。

 で、その家宝を落とした。家宝ってのは文字通り家の宝、つまりは名誉やら立場と紐付けられているパターンも大きい。

 失くしたなんてことになれば、つまりは家格と血統を道に捨てたとも同然と思われてもおかしくありません。


 同じ国家の禄を食むものよりも他国の人間、それも貴族であれば気持ちもわかってくれますわよね?

 ってことかしら。


 ええ。まあ、わかりますわよ。家宝はありませんけど、結局わたくしもなんやかんやこうやって家を引き継いで運営してしまっていますもの。


 結局、愛しちゃってんですわよね。貴族としての自分と、育んでくださった故郷を。無鉄砲な頃のわたくしも少しは大人になったってことかもしれませんわねえ。


 話だけでも聞いちゃるかってことで、その旨をしたためてお送りして、程なくして客間にて『人員』と対面することになりましたわ。


「はじめてお目にかかります、グレイトキャピタル卿。

 私はソーパス市で運営を手伝わせていただいている、タルモ準男爵と申します。

 とはいえ、名など家から引き継いだだけのもので、貴族などと言えない身分でありますが……。

 そのような身分でありながらも、こうしてお目通りさせていただき感謝いたします」


 なんとも表現のしようのない男性。

 特徴がないのが特徴って感じの。

 まあ、交渉役としては悪目立ちも相手の好悪にも繋がらない打ってつけの人材なのかも知れませんわね。


 わたくしも挨拶を済ませ、早速本題に。

 いつまでに依頼をしてくれだとか、家宝は偽装してアドルインのギルドを通して送ってくれればいいだとか、そういう話ですわね。


「報酬でございますが」


 ちらりとわたくしの側に付いているリオとアルシュカに視線を向けてから、


「グレイトキャピタル卿は噂に違わぬ審美眼と、美術をこよなく愛するようでございますな」


 意訳:流石は領地持ちの貴族。美形のお稚児さんを二人も抱えているんですね。面食いなのは噂通りなんですね。


 ……ってことですわね。

 持って回った会話、いわゆる『貴族語』は嫌いなんですわ。

 どうせ伝わるなら直接言えば良いですのに、なんてことは無理ですわよねえ。


 結局伝わるにしろ、直言する相手次第では即座に刑に処されることもあるでしょうし。

 であればそもそもそんなことを言わなければいいのでは? そういう会話の切り出し方をしなければいいのでは?


 と、それはそうなんですけれども、どうしてだか貴族の多くはそれが『ウィットに富んだインテリトーク』だと勘違いしていらっしゃる方が多いのですわ。マジで胡乱(シャバ)いですわね。


「ええ。それがどうかして?」

「報酬は金銭がこれくらいと」


 うお、すっげえ金額ですわね。

 わたくしがダンジョンをフルタイム高効率で回って一週間ちょいくらいの稼ぎになりそうですわよ。

 実際にその金額があることを示したいのか、報酬の一部を鞄に詰めて来ていて、それも見せてくださいましたわ。


「それと……、待たせているものたちをお呼びしても?」

「どうぞ」

「では。さ、入りなさい」


 そう言うと準男爵のしもべらしき男が外套を被せられた何かを連れてくる。


「こちら、いかがでしょうか」


 そうして、剥がされた外套の向こうには魔族の姿があった。

 わたくしが知っているハイエンド陛下やスゥ様のような姿とはまた違う魔族。

 肌は青。これも知っている魔族のものとは違いますが、そうした種族の方もいらっしゃるのは知っておりますわ。知識の上で、ですけれど。


 歳の頃は十四、十五ほどでしょうか。


 おそらく生えていたであろう額にあった角は折られていて、視線も定まっていませんわ。

 服装は最低限のものは着せられていますけれど。

 顔立ちは、ええ。確かにわたくしも好みとするほどのもの。


「魔族の奴隷、ですよ。さる王家が抱えていたもので、財政難から売りに出したそうです。

 色々ありまして私のところに転がり込んでくることになりましてね」


 うんうん。なるほど〜。


「元々はダンジョンキーパーをしていたとか、どこだったかまでは知りませんがね」


 ……いや、マズい。マズい。ガチマズいですわよ。これ。何とんでもねえもの連れ込んできてるんですの?


 わかっておいでなのかしら、ここ魔王陛下が見ているんですわよ?

 いや、知るわけもねえですわよね。わたくしだけの秘密ですし。


 下手を打てば、いや、普通程度でも魔軍の皆様が大挙して……『地上の悪心持ちの生物は駆除じゃああ!』なーんてことになりかねませんわ!!

 超帝国は強くたって、急にこの領地から魔族や魔物が大量に出てきたらえらいことになりますわよ!

 まずはわたくしがえらいことになりますわよ!!


「魔族の、ええと、『どちら』なのかしら、この子」


 会話を加速させるわけにもいかず、平静を装ってわたくしが聞きそうなことを真似ますわよ。

 なんで自分をトレースして……。なんなんですわ、この状況……。


「どちらでもないそうでございます。そうした『奇矯な品』はお嫌いですかな」

「わたくしは美しいものが好きなのですわ。性差などそこに重要な部分ではありませんわよ。わたくしにとっては、ですけどね」

「それはよかった」

「この依頼、受けてあげてもよろしいのだけれど、条件がありますわ」

「なんなりと」

「前払いとしてそこの魔族の子を引き取りたいのですけれど、いかが?」


 ふむ、とわざとらしく。

 ここまで連れてきているんだから想定しているだろうし、渡す気もおありなんでしょう?

 早く、早くお寄越しになられて、おい、早くしろですわよ!!


「しかし、安くない投資もしましてね、これには」


 物扱いすんな! やべーですわよって!!


「あら、聞こえなかったのかしら。魔族の子を、と言ったのですけれど」


 ちらりと金が詰まった鞄を見る。

 わたくしの言葉の意訳はつまり、


『両方ともよこせと言っているのですわよ。けれど、引き取るのは魔族の子だけで結構。

 もう一つの前金に関してはあなた個人が引き取って結構』


 となりますわね。貴族語やめろ! そんな時間はないんですわよ!! いや、今言っているのはわたくしですけれども!!


「そうですか。では、交渉成立ということで」


 依頼書にサイン。

 守らなければ何かしらの悪いことが起きますよって呪い付きのものですわね。

 これ自体は一般的ですし、書類そのものに説明の不備やら何やらがあれば呪いの実行もない、昔ながらのヤツですわね。


 ギルドでも特務だとか機密性の高い任務のときとかには普通に出てきますわよ。

 そして案外その呪いも解除だとかの抜け道があったりとかで、信用度でいうとあんまりであくまで約束の可視化……っと、そんなことはさておきですわよ。解説に逃避している場合ではありませんわ。


「……ええ、ではサインはこれで。リオ、アルシュカ。卿を玄関までお送りして差し上げなさい」


 そうしてホクホク顔で彼は屋敷を去る。

 残されたのは依頼受領のサインと、魔族の少女だけになりましたわ。


 引き取られた魔族の娘(どちらでもないとは言え、見た目は少女なので娘として扱いますわよ)は、おそらくはよろしくないものの効果で虚ろなまま。

 わたくしは彼女(仮)を担ぐと裏口から外へ。

 外套で彼女(仮)を隠しているから傍目からはバレませんわよ。

 急ぎ向かうのはいつかスゥ様がいらっしゃったポータルが出た遺跡。


 向かうと、わたくしよりも先回りする形でスゥ様がいらっしゃいました。

 やっぱり見てたのですわね。


 いやー、そのぉ〜、人間も悪い奴ばっかりじゃなくってえ……。絶滅戦争の前に少しだけ言い訳がしたっくてえ……。


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