没落令嬢vs傭兵ギルド
納税を何とか乗り越えた我がオルドホルムとわたくし、ライヒ・グレイトキャピタル。
平和で静かな日々を手に入れたかと言われれば、まーったくそんなことございませんわ。
次の納税は今回よりも大きいものになる。
冷酷な予告をするではなく、心から心配そうに告げてくださったマルセル様の言葉を思い出しますわね。
つまり、今までの稼ぎでは足りねえって話ですわ。
そもそも今回納税を乗り越えたのもイレギュラーあってのものの側面もありますけれど。
あ、いえ、貯蓄を全ブッパすれば支払えましたわよ。ええ。なのでイレギュラーなしでも払えはしたけれど。
次もそういうイレギュラーに恵まれるとも限りませんわ。イレギュラーを恵みというのも妙な話ですけれど。
「ふーむ……」
見渡してみる。少しばかり状況が変化している我がオルドホルム。
何が変わったのかといえば、一言で纏めれば、来場者たちについて。
今まではほとんどが冒険者ですが『それ以外』に該当する方も増えておりますわね。
ここで商売できないかと希望をしてくる方や、腕自慢のどこぞの市民がどうやってダンジョンに入れるのか聞きに来たり。
特筆するべきは傭兵の皆々様について、ですわね。
彼らが増えたのには事情がありましてよ。
では、ちょーっとそのあたりも振り返ってみましょう。
✘✘✘
ダンジョン参加を求めて現れる組織とその代表が現れるというのは珍しくないことです。特に錬成ギルド絡みの一件のあとはかなり増えましたわ。
どうにも世間的には冒険者ギルドの受付を守った騎士は弱きを助ける模範たるもの。
襲撃犯を討伐した若き領主はアドルインを想っての義侠溢れる行いをするもの。だとかなんとか。
それに感銘を受けた錬成ギルドは全面的にオルドホルムに協力を取り付けたというストーリーになっているようですわね。
ギルドでも一流といって差し支えない名声を持つ錬成ギルドがそうなのであれば真っ当な土地と人なのだろう、そこのダンジョンも悪さに使われているわけでもない。
などという具合で、連鎖的に状況が動いたわけですわよ。
今回もそういうことかなとアポイントを取られたので領外の方とお会いしているわけですけれども。
「どうか、我らにもご温情を割いていただくことはできませぬか」
頭を下げるのはこの辺りでは珍しいドワーフのおじさま。
「ゼド様、どうか頭をお上げくださいまし」
彼とは今日が初めての出会い。
一応、アドルイン冒険者ギルドの仲介もあっての紹介。とはいえ、仲介者はフィニーではなく支部長様。まあ、迷惑をかけている自覚もありますし、フィニーにも色々と便宜を図ってくださっているのでしょうし、彼の仲介だからといって無碍にするつもりはありませんわ。
ただ、その相手が傭兵ギルドでも屈指の実力者となれば別。
以前もちらりと言ったかもしれませんが、わたくしは冒険者で食いっぱぐれていた頃は傭兵としての仕事もいくつかしたことがございますわ。
傭兵ギルドにはその頃にあれこれとお世話になったことがあるので、まったく知らない組織ってわけじゃありませんわ。
そして、このゼド(名前が長いのでゼドでいいというのが当人のお言葉ですわ)──ゼドバーダンス・バルザス・ゴランダンスバル・イフルバルズヘズ(ゴランダンスの息子、炉と炎と斧の女神バルズヘズの加護と寵愛を受けた子、ゼドバーダンス)というすさまじく長いお名前のドワーフは、
わたくしが生まれる前から豪傑として名を馳せた生ける伝説……なのですけれど、
「お会いするのは初めてではありますけれど、傭兵時代にもその雷名は耳にしておりました。そのような方に頭を下げられては」
「喋りにくいゆえ、表は上げさせていただきますが……」
ドワーフというのはいずれもががっしりとした体格に、わたくしのようなヒト種と比べても背丈は低め。
男性は髭もじゃ。女性は幼体で見た目は止まる。
特徴的な種族ではありますけど、男性は特に髭のせいで年齢がわからないことがわたくしのなかで特に有名。
ゼド様はまっしろなお髭から老齢であることが伺えますわ。実際に活躍の月日を考えてもそうなのですけれど、ドワーフで見た目で判断できてしまうということはレアなケース。そもそもあんまり見た目で人を判断しちゃいけませんって話ではありますけれど。
「近年においての傭兵ギルドの、」
少し言葉を弄ぶべきかと考えたようだがすぐにやめたことがわかる。
「凋落ぶりはご存知ではありませんかの」
「流石にそうですわねとは頷けませんが、確かにここ数年で仕事はかなり減らしているようにも思えますわね。
以前は結構な頻度でわたくしのところに傭兵ギルドの仕事メインにしませんか、なんてお誘いをいただいていたものですけれど」
「ええ。早い話が腕のいい相手に声をかけても仕事がない、そんな状況だからでございましてのう」
問題は単純。
大規模な領地拡大のための戦いを超帝国がひと段落をつけた。
それまでは本国からの助成金などもあって多くの貴族たちが自分の軍と傭兵を使って戦いを繰り広げた。
しかし、ひと段落したとなれば国も助成金を出す理由がない。
そうなれば多くの貴族も傭兵を雇う余裕はない。攻めなくなれば次は防衛。
防衛も大半の状況は防衛施設と手勢でなんとかなる。
つまり、傭兵の仕事がなくなったのだ。
目端のきくものは冒険者になったり、あるいは功績があれば貴族や騎士の仲間入りをしたものもいる。
ただ、それができるほどの人間ばかりではないのが傭兵というものだ。
戦ってりゃ飯が食えるんすよね? って手合いが多いんですわよね。
それくらいシンプルじゃないと超帝国の仕掛けた戦争の激しさについて来れなかったんでしょうけれど。
「あるところには仕事があるのですが、この辺りは、どうにも……」
ゼド様は視察か何かで来ているものかとばかり思っていましたけれど、
「ゼド様、もしかしてアドルインに籍を?」
「ええ。どうにもここ最近、アドルインが活気付きはじめたとのことで名ばかりの役職だったアドルインの支部長の椅子に明確な仕事を持たせようとなったのですが、軟弱にも元の支部長は仕事を放り出して逃げ出しましてな」
他にも色々ありそうなのが目元の表情から伺えそうなものですけれど、追求はやめておきましょう。それが大人というものでしょう。
「開けてみれば結構なガタガタぶりでしてな、それを何とか立て直そうということでわしが送られた、とそういうわけでございましてな」
「ご苦労様ですわね」
「実務が得意なわけではないのですが、腰を痛めた戦士ができることがないのも事実ですから」
その声には戦うことを自らの運命であるという哲学を持つことが多いドワーフ種らしい、悲痛な音にも聞こえる。
まあ、それをあえてだして何かを引き出そうとしているのであればゼド様はやり手なのでしょう。
「それで、お願いというのは」
いただいた書面にもありますけれど、
「ええ、グレイトキャピタル卿が行われているという──」
「わたくしも傭兵の一人でもあったのです。ライヒで構いませんわよ。それでなくとも呼びやすい名で結構ですわ」
「では、お嬢と呼ばせていただきましょうかの。わしのことも代わりにではないですが、お好きに」
「考えておきますわ。……で、行われているとなると」
「はい。ダンジョンのことでございます」
「稼ぎに使いたいというのであれば、正直ギルドを立て直せるほどの融通は難しいですわ」
「ええ。それは勿論。そこまでこのゼドも厚顔無恥ではありません。お願いというのはこれでしてな」
そうして改めて取り出したのは事業についてのアレコレが乗った計画書。
近くに侍るリオと共に目を通す。
「……髭印配達便?」
「ええ。アドルインや他の都市からここまでの馬車を出す許可をいただきたいのです。その馬車も、護衛も全てこちらで賄えばそれなりの儲けが期待できましてな。勿論」
「こちらにも幾らかの上納をするから美味しい、と」
「どうでしょうかのう」
「ライヒ様」
リオが言いたいことは言葉でなくとも伝わりますわ。
考えていることは同じでしょうから。
そうした直行便があれば、ヒョルドの一件はなかったでしょう。
これからもヒョルド同様の計画を考えるものが出ないとも言い切れない。
いえ、確実に発生するでしょう。
どうしてか、わたくしは碌でもないマフィア、ドラルディンに目をつけられてしまっているようですから。
「であれば、他にも考えがありますのよ。ゼド爺様」
「ほっほっほ。爺様、ですか。爺でよろしゅうございますぞ。お嬢」
「では、ゼド爺──……」
✘✘✘
近くで冒険者同士の諍いになりそうな気配。
そこに傭兵がのそりと。
「ようよう。にいちゃんがた。ここは晴れ渡る空より広い御心をお持ちのライヒ様のお膝元だぜ。俺たちはそこにありがたくお邪魔させておまんまの種をいただいてるんだ。
怖い顔しねえで、ニコニコしてねえとライヒ様が悲しむだろうがよお。
ほれ、なんでピリピリしてんだ。そこの飯屋で話でもしようや。な?」
冒険者たちはそれで止まるわけでもないが、明らかに実戦を、あるいは死線を潜り抜けてきた貫禄のあるベテラン傭兵の存在に火が付く手前で止まりましたわ。
褒められて面映いですが、どうやら彼のその褒めすぎな言葉は彼らに届いたようで彼のいう通り飯屋であれこれと話をして、何やらいい方向に決着がつきそうな様子。
他にも、
「おいおい、爺さん。でっけえ荷物は俺らに任せろつったじゃねえか」
「何を言うか、若造め。外からおんしらみたいなムキムキが来て、じゃあ荷物持ちをさせますよなんてほどわしらのツラの皮は厚くできとらん!!」
「ワッハハ! 元気な爺さんだ。いや、すまねえすまねえ。侮ったわけじゃねえんだ。俺たちゃここじゃ新参だ。新参なんてできるのは荷物持ちくらい。だから勉強させるつもりでやらせてくれよ」
と、元の領民たちと仕事を共にしたり。
ゼド爺に頼んだことは定期便だけではありません。
このオルドホルムで足りない多くの、ちょっとした諍いを止めるだとか、荷運びを手伝うだとか、そうした人員を借り受けることにしました。
とはいえ、わたくしたちの財布で傭兵は賄えない。
で、代わりに冒険者ギルドに発行しているダンジョンの入場チケットで支払う。
そういうことになったのですわ。
ゼド爺も支部長に抜擢されるだけあって、どういう人事をすればいいかを心得ているようで、人当たりがよかったり、口が上手かったり、人生経験が豊富だったりする傭兵を多くこちらに回してくださっています。
オルドホルムの安定が進み、
定期便を得て、
その上でダンジョンの回転率も上がり、
ホホホ……。
ホーッホッホッホ!!!
これこそウィンウィンの関係ってやつですわよおーッ!! ホーッホッホ!!




