二枚看板vsコンビ打ち
ゴーレム。
様々な素材を組み合わせて作られる従者。
ゴーレム、ホムンクルス、ファミリアなどといった『人造生命』の誕生をこそ至上の研究としている錬成術士も多い。
ただ、研究にも製作には莫大な資金が掛かるがゆえに、至上の研究と位置しながらも日々を過ごすための薬品作りなどに終始するものが多いのが現実だが。
しかし、ひとたびゴーレムが動けばその力はすさまじい。
アドルイン冒険者ギルドは権力的な意味での危機に陥ったことはあっても、今回ほど物理的な危機に至ったことはない。
ギルドを守る護衛は十名。その全てが撃退された。
ゴーレムは動きこそ悪いものの、すさまじい頑丈さによって破損はしても大破に至らず。
護衛が壊滅状態になる頃に現れたのはライヒの騎士二人。
猛禽類が急降下し獲物を狩るかのように斬撃を振るうアルシュカ。
ゴーレムはこれまでの戦闘を加味し片腕を盾に、もう片腕で防いだ直後のカウンターをすることを決めていた。
だが、
「強撃化ッ!」
リオの支援が発動する。
アルシュカの一撃に追い風が吹くようにして振り下ろされた。
圧倒的な強度を持っているはずの腕が支援術による後押しを受けたアルシュカの攻撃によって砕ける。
ゴーレムの腕を砕き、そのままアルシュカは腕を寸断する。
支援術による力押しの破壊のあとに、弱った部位をそのまま切断する。
二人が鍛え上げたコンビネーションの一つだった。
エゼルというマナを膨大に持つ種族による潤沢な支援術の連発。
アルシュカの今までの経験からなる小器用に他者の技を見て学ぶ才能。
そして下賜されたかつてのライヒの愛剣の力。
三つが重なればいかにゴーレムといえども防ぎきれるものではなかった。
〝ジジッ……ジッ……〟
後ろへと一歩下がるゴーレム。
冷静に今あったことを思考している。
思考、とはいっても感情的なものではない。
落下時点でどれほどの脅威を想定していたか。想定を超えて予想を超えた威力はなぜ出たのか。そうしたものでしかない。
命じられたことをのみ実行するように、擬似的に作られた魂の模倣物が動かしているに過ぎず、それは一種の昆虫的な知性とも表現できる。
腕を失った一機は後ろに下がり、五体が無事であるゴーレムが前に。
一方でリオとアルシュカも何もしていないわけではない。
リオは上から状況を見る。
やられた護衛たちの中でも傷はさておき戦意を萎えさせていないものを見る。それから更に傷の浅いものを見ていった。
三名が該当する。すぐさま彼女は治癒術を使った。
ライヒから渡された支援術を強める腕輪のお陰もあるが、支援術と治癒術を組み合わせ、本来は届かない距離にいるものの傷を癒やしていく。
しかし、その行動は目立ってやろうというものではない。冷静に、静かに、隠れて。
癒やされたものは驚いたが、すぐにその意図を察した。
次々に戦線復帰する護衛たちだが、ゴーレムに悟られぬように動きはしない。
これにも理由があった。
アルシュカだった。
ゴーレムが彼を値踏みしているときに、アルシュカは戦線に復帰できるようになったものたちに視線で合図を送る。
彼らとの間に関係があるわけではないからこそ、複雑なものは出せない。
だが、護衛もそれなりの腕前と経験がある。
であればこそ、アルシュカがしてほしいであろうことは予想ができた。
五体無事なゴーレムが前に出ると同時に治癒術から支援術に切り替えて、リオがアルシュカを強化した。
それを受けたアルシュカが踏み込み、ゴーレムと派手に打ち合う。いや、ゴーレムは打ち合うつもりだった。
だが、そうならなかった。ゴーレムの行動を復帰した三人の護衛がそれぞれの手段で阻害したからだ。
魔術であれ、錬成であれ、組み付きであれ。倒したと考えていた相手の突然の急襲にゴーレムの反応が遅れ、それが致命的なものとなった。
支援術を受け、万全な体勢で放つ一撃がゴーレムを斜めに寸断した。封入されていた魂の模倣物が拡散する。
〝ジジジジッ〟
僚機が倒れたのに対して警戒を強め、構えようとしたとき。
「オルドホルムの騎士が一撃、受けてみろッ!!」
叫んだアルシュカ。
リオの支援と共に放たれた技が容赦なくもう一つのゴーレムを真っ二つに切り分けた。
倒したとはいえ、アルシュカは油断しない。残心しながら二つのゴーレムに注視している。
一方でリオは急ぎ下に降りながら、傷ついた護衛たちを治癒していく。
距離が近ければ近いほど治癒術は使いやすい。支援術と重ねるにしても、彼女は治癒術一つにつき支援術一つを使うのが限界であった(もっともそれですら一般的な術を扱うものと比べても驚異的なマルチタスクぶりとなるが)。
距離を延長するものではなく、癒やすのであれば癒やしの力を強めるものを扱う方が効率的だ。
護衛を癒やし、再びギルドの守りについてもらう。
心が折れたものは一人もいなかった。
いや、この場の護衛たちの誰より若いリオとアルシュカが見事な働きを見せたのだ、不甲斐ないままではいられないと奮起していた。
「ここは任せていい? オレは、フィニーを守りに行きたいんだ」
「ああ。任せておいてくれ。こっちが困るような相手が来たら叫んで知らせるさ」
ゴーレムに負けたことが悔しいのだろう。
負け犬のような言葉を言うも、心は負けていなさそうだった。アルシュカはそれをしっかりと確認してから、
「リオ、フィニーのところに戻ろう」
「うん。アルくんは大丈夫?」
「ああ。
リオがいたから勝てた相手だ。だから今は勝利と慢心を心の中で切り分けている最中だよ」
アルシュカは浮かれたりしない。
いや、ゴーレムを倒すことなんて考えたこともなかった。昔なら不可能なことだった。
しかし、今は勝てた。それを自慢したい。どうだどうだと喧伝したい。承認欲求は彼にだってある。
だが、そうした気持ちを吹き飛ばすくらい、ライヒへの燃えるような忠義があった。
アンデッドからわざわざ助け出してもらって、命と居場所以上の何を求めるのか、と。
それを見てリオはアルシュカの後ろで微笑む。
「うん。すごいや、アルくんは。見習わないと……ね!」
リオも同様だった。
この勝利をライヒ様に捧げると叫びたい。快哉を浴びたい。そうした気持ちはあった。
けれど、ストイックに任務をこなすアルシュカの姿に胸を打たれた。
エゼルの少女にとって、模範とすべき騎士も、憧れの騎士も、どちらもがアルシュカを示していた。
「そりゃ……お互いにだろ」
状況を俯瞰して考え、行動するリオがいるからこそ、アルシュカはそうしたものの見方を学んだ。
ライヒのためにと口に出して行動するのは簡単だ。
だが、実際に主君のためにできることがなにか、判断するのはアルシュカには難しい。自分から提示できるような才能や技術や、知識があるわけではなかったからだ。
だからこそ、リオを見た。それらを備えた彼女を見て模範とした。
いつだって彼女は冷静に状況を俯瞰して見ていた。
今、ライヒに何が必要かを見定める力があった。
俯瞰して思考することを習慣づけた理由こそが頼りになるもう一人の騎士であるリオであった。
承認欲求を押し殺せるだけの冷静さはリオ由来だとアルシュカは考えている。
だからこそ、
「このまま、ライヒ様が戻るまでフィニーを守ろう」
「うん!」
パニックルームの前まで行く。扉をノックしてから自分たちが扉の前を守ることを伝えた。
後続が来るかはわからない。
だとしても、気を抜けるわけもない。
二人にとっての長い夜はまだ始まったばかりだった。




