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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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二枚看板vs急襲人形

 男が──イングラヴァと名乗る練成術士がため息を混ぜて言葉を吐く。


「ものを知らぬというのは恐ろしい。

 屋敷を確保しておいて手を付けずに屋敷内に押し込めておくだけとは」


 イングラヴァが何度となく希望したパラクタ卿の屋敷の探索。

 アルケミストギルドはその権利がないとして却下し続けてきた。


 冒険者ギルドの預かりとなっているとされていたが、実際に権利云々に関してはまったく不明。

 おそらくはパラクタ卿死亡後に何者かが押し入ったのだろうが、それによって荒らされたのを簡単に片付けたあとは放置されていたらしい。


 だが、片付けられたと言っても散らかっていたものを屋敷に押し込んで終わり。

 そこに転がるものはまさしく彼にとっての宝の山。


「そうだ。最初から裏の連中と手を組むべきだった。

 下賤として選択肢を切ったのは勿体なかったな。はははっ」


 護衛に置かれていたであろうゴーレムは完膚なきまでに破壊されていた、が、粉みじんになったわけではない。使えそうなパーツを組み合わせ、必要なマナを注ぎ、命令のための機能を戻してやれば、


〝ぎぎぃ、ぎぎっ〟


 ゆっくりと立ち上がる。

 身の丈は2mほど。体の大きさは鍛えられた戦士のよう。

 性能は本来の半分程度かもしれない。だが、ゴミからすぐさま作り上げられたものにしては充分な機能だとイングラヴァは考えていた。


 屋敷に入り込むための人員はドラルディンから渡されていた。

 今もイングラヴァの近くで待っていた。

 他に仕事があるかもしれないからと留められている。


(気持ちの悪い奴だな。……さっさと帰りてえ)


 独り言をずっと言っている禿頭が怖くないわけがない。

 それがゴーレムを瞬く間に作り上げる技術力があればなおのこと。

 すごいよりも怖い、が出てくるのが正直なところだった。


「おい、盗人」

「チッ。名前言ったろ」

「下賤の名前を覚える必要がない。この屋敷を見回ったのだったな」

「ああ。何回もな。鍵が掛かってるところは全部外してるし、トラップとかもねえよ。

 で、なんで残らされてんだ」

「必要だからだ」

「手先の器用さとか言わないだろうな」

「知性も足りん輩に何を頼むというのか」


 一々悪罵を垂れなければ喋れないのか?

 盗賊の職能を持つドラルディンの人員が思わず腰にある重み──短剣に思いが行く。


「よし、ならば、これでよい。命令を下す。──そこの男を殺せ」


 その言葉にマナがこめられ、ゴーレムが瞳を赤く光らせる。

 全身甲冑を纏った騎士のような風貌のそれは目に該当するであろう部分を赤く光らせると走る。


「なっ」


 盗賊が反応する。俊敏性があるわけではない。

 だが、命令に従ったゴーレムが一機ではなかった。作り上げられたてのもう一つもすぐに命令を実行するために立ち上がり動き出した。

 唯一出入りができる扉を塞ぎ、それに思考を奪われた次の瞬間に最初に動いたゴーレムの腕によって心臓をくりぬかれていた。


「これでお前の仕事は完了だ。ご苦労」


 即死した盗賊の男に声を掛けてから、ゴーレムを見やるイングラヴァ。


「悪くない。よし、次の命令だ」



 ✘✘✘



 屋敷の中で命令を下しているイングラヴァ。

 外では屋敷を監視している男が二人。


「戻ってこないな」

「殺されたんじゃねえのか」


 パラクタ卿の屋敷の外で見張っているのはドラルディンの人間であった。


 ギュストークは幾つかの目的のためにイングラヴァに手を貸しているが、その協力関係は永いものになると彼は思っていないようだった。


 早ければ屋敷へと案内した時点で終わりを迎えると考えていた。

 だが、ギュストークにとっての関心事は彼が味方がどうかについてではない。

 自分の目的としていることにどれだけ貢献するか。イングラヴァが貢献する気がなくとも構わない。結果として貢献に繋がればそれが全てだった。


「出てきたぞ。……なんだ、布……? 布をかぶった人間か?」

「足を見ろ。あんな足をした人間がいるかよ。ゴーレムだ。元々ここを守っていたってゴーレムだろ。アルケミストはあの手の人形を作るのも得意らしいからな」


 向かう先はギルドが幾つもある区画。通称『ギルド通り』。


「お前はこのまま見てろ。俺はギュストークさんに報告してくる」

「おう。あの人の予想通りの動きをしたらどうする」

「終わるまで中の様子を確認しておけ」

「あいよ」


 ドラルディンは都市内において数が多く、活発に行動することで知られている。

 中にいた盗賊の職能持ちがどうなろうと心配もしない。

 数は多けれど仲間意識は希薄だった。


 大抵の所属者はギュストークが生み出す利益にのみ興味があった。



 ✘✘✘



 そのギュストークは待っていた。

 当然、報告をだ。


「あの方はやはり」

「はあ……。まったく、困ったものだ。まあ、それは予想の範囲のうちだ。イングラヴァの方はどうだ」

「見張りが今しがた戻ってきました」


 連れて来いと首で合図する。

 すぐに戻ってきたものが報告に上がる。


『ゴーレムらしき影が二つギルド通りに』

『盗賊の職能持ち戻らず』


 その報告を受けるギュストークは、


(やはりそうなるか。

 だが、その程度は安いもの。だが、ギルドにゴーレムを向かわせたのは何故だ……?

 この状況でアルケミストギルドに復讐でもするのか?

 いや、様子のおかしな男ではあるが、そこまで愚かではないだろう。なら目指す先は)


 ギュストークはイングラヴァの性質と性格を買っていた。勿論、知性も。

 味方には欲しくはないが、ひとときの戦力としてなら充分なもの。

 知性あり、性格悪し。倫理観もっと悪し。


 目的を確実に達成するためにやるとしたなら、


(そうか。冒険者ギルドでの一件はそもそもがこのためのものか)


 にたりとギュストークが笑う。

 手伝ってやりたいところだったが、これ以上ドラルディン・ファミリーを動かすわけにもいかない。

 大っぴらに協力関係が知られてギルドとの対立を生むわけにはいかない。


(だが、万が一『ひっくり返す』こともできるかもしれん。

 あの首が落ちてくれれば全ては手にすることができる)


 現状でのギュストークの目的はドラルディンの掌握。

 ライヒのダンジョンは経済的な支配力を強めるための布石に過ぎない。


「おい、準備させていた連中をパラクタの屋敷に向かわせろ」



 ✘✘✘



 ギュストークが命じている頃。

 二つの影がアドルインを歩いていた。


 アドルインは決して治安が崩壊しているわけではない。

 ただ、日の当たらない裏通りと、ギルドが軒を並べている辺りは別種の治安が形成されているだけである。

 裏通りは裏社会のルールが、

 ギルド通りはかつての冒険者ギルドの市長追放から自分たちでやりたいなら勝手にやれと言わんばかりに都市の治安維持機構はノータッチを決めている。


 夜ともなれば、ギルド通りは人の往来は少なくなる。

 特にアルケミストギルド爆破から向こうは特に。ひとつきも立てば往事のように露店や出店などが出てくるだろうが、今は違う。


 通りにゆっくりとした歩調のそれが歩む。

 外套をかぶった何か。いや、外套ですらない。

 それは布であった。雑にかぶせられた布を纏ったもの──ゴーレムがゆっくりと歩いていた。


「……──」


〝ジジッ〟


 マナが漏出しているのか、赤い粒子を幾つかの場所から漏らしながら瞳に該当する部分が目的地を視認する。

 まだいささか距離はあるが、場所さえ判明すればどんな歩調でも問題はない。


 目的地──冒険者ギルドと書かれたそこにゆっくりとゆっくりと進む。



 ✘✘✘



「心配しすぎだよ。でもありがとう。二人とも」


 ベッドの上で上半身を起こしたフィニーが護衛に付くとして現れたリオとアルの二人に礼を述べる。


「でも、私を狙うかなあ」

「狙うと思う」

「私も、そう思います」


 明確な意志のもとに紡がれた言葉だった。

 フィニーは興味を持ち、どうしてと問うた。


「価値があるから。フィニーはライヒ様にとって、大切な友人だってのは知られている。

 普通の悪党はギルドと敵対するなんてバカなことは考えないけど、いかれてる奴だったら別だ。

 何でもありなら庇護されている人間だとか関係なく、目的に組み込もうとするはず」


 悪党どもに揉まれて育ったアルシュカは理性的な悪党と、普通の悪党と、いかれた悪党のそれぞれを知っている。


 一般的な人間が理解できる行動とその理由を持つのは普通の悪党まで。


 いかれた悪党は一握りの食料を強奪するために田畑に火を付ける。そんなことをすれば土地を守護しているものが血なまこになって探し出すことになり、捕まれば凄惨な拷問と見せしめが待っている。


 だが、倫理が壊れた悪党はそんなことは考えない。目的を達成することを全てと考える場合が殆どだった。


「目的は聞いています。ライヒ様の提げている武器だと」


 出所や、今までの経緯はリオにも共有されている。


「交換条件としてフィニー様を使うという考えは大いにあります。ライヒ様もそうなれば」

「……そう、だね」


 フィニーもまたライヒとの関係から交換に応じるだろうと思ってしまう。

 勿論、その後に手痛いしっぺ返しを目論むだろうが、可能ならそんな状況にならないのが一番だ。


「じゃあ、悪いけど二人には守ってもらおうかな」

「うん──」「喜んで──」


 二人が同意しようとしたときにノック。


「入るよ」と急いでいる声と共に開いたのは支部長であった。

 アドルインの冒険者ギルドにおいてのトップ。

 前市長の罪を糾弾し、ギルドの私物化を防いだ人物でもあり、フィニーに多くの技術や知識を仕込んだ人物でもある。


「どうしました、支部長」

「襲撃だ。ゴーレムが二つ。間違いなく」

「イングラヴァ、ですか」

「ああ。避難室(パニックルーム)まで退きたい、動けるかい」

「は、はい」


 立ち上がるフィニーを支えるリオ。


 扉からもう一人入ってきた。支部長の護衛をしている人物だった。元々冒険者であり、近年のアドルインにおいて最も高い位階を持った人物だった。


「下もそうは持たないぞ。護衛は最低限しかいない。冒険者は」

「わかっている」


 パニックルームに入れば、それこそ連絡を受けた治安維持機構が動くことになる。

 ギルド通りにノータッチでも通報があれば流石に動かざるをえない。

 だが、それほど急いで来てくれるとも思えなかった。

 そうなればパニックルームに逃げ込もうともその部屋自体が持つかは別だった。


 リオとアルが互いを見て、頷く。


「オレたちが行く」

「いいですよね?」


 フィニーは困ったような、弱ったような表情を見せた。

 しかし、彼女が何かを言う前に、


「ライヒ様なら、守るために打って出る」

「ええ。私たちもライヒ様の騎士。ここを守れと頼られた以上は主の心に従います」


 少年少女に見えても彼ら二人は立派な騎士。

 過保護にするのはそうした二人への侮辱に他ならない。


「……わかった。頼りにさせていただきます。ライヒ・グレイトキャピタルの騎士二人を」


 任された、と二人は頷く。


 支部長とフィニーは護衛に案内されるようにしてパニックルームへと進む。

 それと逆に進む二人。ギルドホールが眼下にできる場所へと辿り着いた。

 ゴーレムが二つ。

 護衛たちを圧倒していた。


「リオ、行けるか」

「アルくんは、どう?」

「お前の支援次第、かな」


 その言葉に小さく微笑むリオ。


速度上昇(ブースタ)! 反射強化(スラスタ)!」


 リオの腕飾りを通じて淡い光が二種、アルを包む。

 それと同時に下賜された剣を抜いた。


「騎士として、働きを見せよう。リオ」

「うん。ライヒ様の騎士として、戦おう。アルくん」


 支援術のマナを感知したか、ゴーレムたちが上を向く。

 見下ろす二人。


 アルが飛び降り、剣を振り下ろす。

 ゴーレムが応じる。


 戦いの火蓋が切って落とされた。

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