没落令嬢vs足りない銭
ぬぐわーっ!
銭!
銭!!
銭!!!
銭がッ! 足りませんわーッ!!
アルケミストギルドの方が来て色々査定はしてくださりましたが、やはりそればかりでは全然足りませんわ!
もう少し纏まったゼニが必要ですわ……!
今マルセル様がお越しになって、今回分を支払っていただきましょうかとなっても、ええ。支払うことはできます。
けれど、先細りになってしまうんですのよ。
カラレスを使っての建築は簡単ですけれど、人が休んだり、癒えたり、住んだりするようなところはしっかりした業者を使いたいですもの。
そうなるとやはりゼニが必要。
安全性後回しにして何かあったらもう、おしまいですわよ。誰も来てくれないどころか下手すると縛り首にだって見えちゃいますわよ。そうなったらピンチ以上。即死以下。
先々のことを考えてお金はしっかり手元にあって欲しい。その上で納めるものは納めたい。
とりあえず近々作りたい足湯をはじめとしたちょっとした行楽スポット制作に手を付けるためにもゼニが欲しいんですのよ。
やはり即金、何かしらの手段で即金を得る必要がありますわよ。これ。
マルセル様がお越しになるまで、時間的にはもう少しだけ余裕はありますから、何かしら探さねば。
……目標金額的に考えても最悪、|ダンジョンをガン回しの《とってもたくさん》数徹攻略する修羅と化すことで達成できなくない程度ではありますし、それも選択肢ですわね。
っと、いけませんわね。
修羅となって心乱すのはまだ先。もう少し我慢。今は冷静にやれることを考えましょう。
✘✘✘
まずはこれ。氏族紋。
ジャガイモ畑からダンジョンの階層増加までこなすビックリドッキリパワー。人族にはないトンデモなパワー。ハイエンド様バンザイ!
で、その奇跡を生み出すパワーの原料たるカラレス。
それがダンジョンのフロア増加に伴い結構な勢いで減少しちゃってますわね。
けれど空っぽには遠いですし、考えていることを実行することはできそう。
休む、癒える、住むに関わらないなら建物を建てたって構いませんわ。
問題はなにを作るか。
以前ダンジョン帰りのわたくしを襲撃しようとしたものたちの中で結構な人数が狩人に復帰。
彼らの腕前は中々のものでしたわ。
腕前で食いっぱぐれるというよりは、ドラルディンの人間に何かしら脅されるようなことがあったのでしょうけど、それはどうでもいいこと。
大事なのは今ですわ。
彼らは曰く、
『この辺り、狩猟神か何かの恩恵でも受けてるんすか。
とんでもねえくらいの数の獣がいるんですけど……』
などとのたまっておりました。
お陰でとにかく狩れるそうで、開始頃はブランクを埋めるためにオルドホルムの領民(自分たち含む)のための狩猟くらいだったそうですけれど、
数がいるからこそとにかく狩って狩って、狩りまくって、解体して……と本格的な生産も可能になってきそうだとのことですの。
これで食堂に肉を並べられる日も近い……と言いたいのですけれど次の問題は狩猟関係の建物がまったく足りないってことでしたわ。
ですので解体小屋や何か加工をするための小屋、できたものの貯蓄用の倉庫などの建物をモリモリと建てる必要、と。
溜め込んだカラレスで、
「小屋できろ小屋できろ……」
彼らが戻ってくる頃には試しに使ってもらって使い心地を伺いますのよ。
わたくしも狩猟のお手伝いをしたりする依頼を受けるのは何度もありましたから最低限、そうした建物の知識はありましたけれど、彼らにとって使いやすいかは別物ですもの。
それなりに作って並べて、その頃に狩りに出ていた彼らが戻ってきて、それを見ての一言。
「使いやすいっす、ライヒ様ァ!」
「ライヒ様万歳ッ!」
大盛り上がり。
しょぼくれていた頃とはまるで別人のようになっているのは喜ばしいこと。
建物は必要に応じて好きにするようにと伝えておきましたわ。
「うおおお腸詰め腸詰め腸詰め!!」
「うおおお燻し燻し燻し!!」
「うおおお塩漬け塩漬け塩漬け!!」
どたどたと走って行く狩人たち。
余るほどになったらいっそ貿易品とか?
ぐふふ、これはゼニがガッポな気配ですわねえ……。
✘✘✘
貿易品で言えば、他にもやるべきことはありますわね。
オルドホルムでも人がそれなりにいるエリアからは離れて、
氏族紋で何かを作り出せる範囲、つまり領地範囲のギリギリまで移動。
離れるといっても未開の方向ではなく、オルドホルムと外とを繋げている場所へ。
そこで何をやるかと言われたなら、これですわ。
「道路でろ道路でろ……」
祈ると荒れ果てた道がかちかちと形状を変えていく。
レンガのようなものが生み出され、道路が作り出されていく。これで相当歩きやすくなるでしょう。
迷いがちだったダンジョンとその周辺までモリモリと道路を作っていきますわよ。
前々から何とかしたいと思ってたんですのよね。
領民を駆り出して道路を……なんてこともやれたかもしれませんけれど、腰の悪い老人にさせる仕事でもないですし、かといって若者はあんまりいないのが実情。
オルドホルムのマンパワーで道路作りというのは難しいですわ。
それまではカラレスを使う先としては選択肢にも上がりませんでしたけれど、フロアを増やした今であればカラレスの獲得能力もより多くなりますし、ある種の浪費も許される。
ちょっとしたことではあるとは思いますけれど、個人的な経験から道路の重要性は大きいのですわよ。
行きやすい、迷わないってだけで少しは集客力も上がるんじゃないかなと思ってますのよ。
わたくしが冒険者をガチってた頃、行きやすい場所かどうかは判断材料の一つとして大きな要素でしたもの。
多少離れていても歩きやすい道であればそれだけで行く理由を補強できます。
なにより、ヒョルドの一件もわたくしの中では大きいのです。
ここに簡単に来れないから誰かの甘言に乗ってしまう。
ダンジョンの入場許可に関してはさておき、何も考えずに移動して辿り着けるくらいになれば、
ヒョルドたちがやったような横から来場客を奪うようなケースを減らせるんじゃないかと考えましたのよ。
上手くいけばいいんですけれど。
ひとまず道路も敷設し終わったということでオルドホルムへと戻ろうと歩いていると後ろから派手な音が。
なんだか全速力で突っ走ってくる馬がありますわね。
三騎がどたどた。
それらの移動もなんのその。
石畳使用第一号、耐久性は良さそうですわ。
「ら、ライヒ様ですね!!」
まだまだ離れたところから声。
振り返って、声の主がこちらまで来るのを待ってから、
「あなたは?」
騎乗しているのは男性。
服装的に考えると、
「ギルドの、あっ、冒険者ギルドの人間です! 緊急の用件で参りました!」
っと、彼の自己紹介が先でしたわね。
周りにいる二人は護衛でしょう。
「いかにも。わたくしがオルドホルム領主のライヒ・グレイトキャピタルですわ。
にしても、どうしたんですの? 落ち着いて話してくださいま──」
「フィニー様が襲撃されました!! そこにこんなものがあって……!!」
下馬した彼がわたくしに手紙を渡してきて、いえ、それよりもフィニーが……。
思考があちこちに飛びながら手紙を開きますわよ。
『剣をよこせ。次は殺す。街に来て、ポールの本屋の前まで来い。案内役がいる。
イングラヴァ』
予想したり、考えたりする暇もなく開いてしまえばこそ、書かれた内容とそのまっすぐな敵意が心に……わたくしの感情に突き刺さります。
「大胆な……」
先ほどまで道路を作り、その前は食肉加工でルンルン気分だったのに。
最高の気分から急転直下ですわよねえ。こんなのは。
〝ビキッ〟
怒りのあまり失神しかけますわよ。こんなのは。
血流が激しくうねって、ビキビキと浮き出る心地ですわねえ。
〝ビキキッ〟
人様の数少ない友達に、なにしてくださっているのかしら。
どうして、わたくしを襲わないのかしら。直接来れば、〝ビキビキッ〟──いいものを。
「そこのあなた。申し訳ないんですけれど、その子はまだ走れるかしら?」
「え、ええ。この程度の距離なんともないです」
「貸してくださるかしら」
「よろ、喜んで」
何か怖いものでも見たかのように。
まあ、そういう表情をしてしまっているんでしょうね、今のわたくしは。
「ちょっとお色直ししてきますので、待っていてくださいまし」




