没落令嬢vs錬成術士ギルド
「これが錬成術士ギルド」
「大きいな」
休日ということもあって、社会見学ではありませんがリオとアルシュカの二人を連れてきましたわ。
で、アルケミストギルドですけれど、ええ。でっけえですわ。
それもぴっかぴか。新品同様。
いえ、実際その通りでアルケミストギルドができたのは去年とかそのくらいだと伺いました。
こんなところにどうして巨額を投じて……?
と疑問符が山の如しに浮かびますけれど、それはさておき。
「さ、中に入りましょう」
三人で中へ。
構造的には冒険者ギルドに似ているっちゃあ似ていますわね。
受付、クエストボード、酒場ではありませんが軽食なんかを出すスペースもあって。
「いらっしゃいませ。ご依頼でしょうか。それとも薬品に関しての」
「えーと。買取というか、なんというか」
「あー……ああ!」
受付の方は男性。年齢はわたくしと同じくらいか、少し上でしょうか。
髪の毛を長く伸ばし、後ろに纏めている。
片目がお悪いのかモノクルを付けていますわね。マナで軽く吸着させることができる新型がどうのこうのと一時期噂に上がったメガネと同じものでしょうか。
確かお高くて庶民価格ではないからと噂もすぐに廃れたはず。つまり、ここの受付は中々の高給取り。
あるいは彼自身もアルケミストでそちらでもそこそこに稼ぎがあるとか?
っと、観察はほどほどに。
「冒険者の方ですね」
彼もまた我々を見ていて、観察結果でそう判断したみたいですわね。というか、恐らくその判断はわたくしをじっくり見てって感じでしたわ。
まあ、まあ、アルシュカもリオも荒っぽい現場に向いた格好はさせていませんし、わたくしは剣を提げていますし、わたくしがそう見られて然るべきでしょうか。
「美しいご令嬢とお付きの方とお見受けしておりまして、失礼いたしました」
「あら、ホホホ」
中々に弁も立ちますわね。観察眼見事と言っておきますわ。え、美しいって言われたから? 現金な奴? おだまりッ! 気分がよくなったもの勝ちですわよ。ホーッホッホ!!
「っと、失礼しましたわね。ええ。その通りですわ。で、ダンジョン巡りで溜まりに溜まった拾得ポーションの買取をお願いしたくて。
知り合いの徴税関係の人間が、こういうものはそれなりの価値で取引されるものもあると伺いまして」
「なるほど。とはいえ、物次第ですが」
「これですわ」
とわたくしとアルシュカとリオで持ち運んだそれらをゴトゴトとそこに置き始めたので、受付は想定外の量だったようで別室でと急ぎ案内してくださいました。
その部屋で軽く互いに自己紹介をしましたわ。
彼の名前はジョッシュ。やはりギルドの受付だけでなくアルケミストとしても働いているとのことでしたわ。
私が寝転んでも余裕なくらいに大きな机がある部屋。しかしそれでも置ききれないほどのラベルレス。
「これほどの量を……?」
「溜めに溜めたと言ったとおりですわ」
「鑑定にはしばらくの時間が必要ですが、よろしいですか?」
「あー、鑑定っておいくらになるかしら」
「売却に向けてなので効能などを知らせず金額だけ、それであれば無料となります。
ただ、その場合は半分は売っていただかねば別途鑑定費用をいただくかたちになっておりまして」
そのまま彼の話を聞くと、
鑑定しても内容を知らせなければ使えない、他のところで売れもしない。
逆に鑑定してラベルを付けることもできる。
鑑定費用と言うよりはラベルという名の保証代金ってところなのでしょう。
「承知しました。どうせ全部売りますので大丈夫ですわ」
「ありがとうございます。しかし、本当にすごい量だ」
「あー……」
「どうかしましたか?」
「言いにくいことなのですけれど、これの三十倍以上がまだ邸の方にありますわ」
「さっ……三十……?」
「ダンジョンが近くにあると、つい溜めがちになってしまって」
「あ、まさか」
そこでようやくわたくしがオルドホルムの領主、つまりはダンジョンの経営をしている人間だと気が付いたようですわね。
「なるほど。いえ、失礼しました。名前をいただいた時点で気が付くべきでしたね。いやはや、研究にばかり向かっているとどうしても世俗との繋がりを結ぶ力が衰えまして。
それにしても、そうですか……。まずは鑑定からさせていただきますね」
と時間が掛かるから軽食でも食べて待っていてくださいと。
軽食はギルドが持ってくださるとのことでありがたくご相伴にあずかるといたしましょう。
✘✘✘
「お嬢さん。ちょっといいかな」
食事も終わったあたりで不意に掛かる声。
分厚い暗色の外套を羽織った男。年齢はわたくしよりそこそこ上。
マルセル殿よりも上かもしれませんわね。となれば四十か、それ以上?
禿頭、と一言で言えばそうですけれど、髭も、それどころか眉まで剃っている。ぎょろりとした瞳もあって初対面の方に思うべきことではないとは思いますけれど、不気味さの高まりがすごいですわ。
それを近づけさせないように即座に立ち上がり壁になるアルシュカとリオ。
騎士ぶりが板についていて嬉しい限りですわね。
「ライヒ様に何か御用でしょうか」
リオの言葉に、
「貴様ら下郎に用はない、どけ」
彼女を振り払おうと腕を使おうとして、がしりとアルシュカがそれを止める。
「オレの仲間になにしやがんだ」
「こちらの台詞だ、下郎ども。ああ~~……。うんざりだ!
おい、お嬢さん。この下郎どもを何とかしろ」
ふー……。
「わきまえなさい、下郎」
わたくしがぴしゃりと言い放ちましょう。
「ふん」
にたりと笑う男。
「お前のことですよ、下郎」
当然、相手はこの禿頭。
「……なっ、き、貴様。私になんといった?」
「下郎。我が騎士をそのように扱うものにそれ以外の言葉が必要か」
「き、貴様。その剣を持っているからとつけあがりおって!!」
「剣?」
パラクタ卿の遺品。
なるほど錬成卿とまで呼ばれた男の遺品となれば知るものであれば垂涎の品。
フィニーが情報を漏らしたとは思えませんし、ここはアルケミストの根城。この剣を見抜くような人間がいたってなにもおかしくはありませんわね。
「あーあ。これですのね。狙いは。であればもっと高圧的な態度を潜めるべきでしたわね」
「高圧的? 潜める? その形からして下賤な輩であろうが! 貴様も!! それをなにゆえ、この……ッ、大錬成術士イングラヴァ様がへりくだらねばならぬというのだッ!!」
叫びながら腰から薬瓶をこちらへと投げる。わたくしは踏み込んで、リオとアルシュカを引っ張り、転げながら机を蹴り上げて壁に。足が長くて助かりますわね、ホントに! こういうときにだけは親に感謝の念が湧きますわよ!
刹那。起きたのは爆発。
酸辺りを想定していたので予想外のもの。
机が粉々になって破片がぶち当たります。何はともあれリオの顔を守るようにする判断は我ながらナイスでしょう、と考えていたらアルシュカがわたくしの顔や体を守ろうと瞬時、立ち塞がっている。まったく、いい男ぶりですわね!
「イングラヴァ!! 何してやがる!!」
「くそ、あのネジ忘れが! またぶっとびやがって!!」
ギルド内にいたアルケミストたちが一斉に腰からポーションを抜こうとする。
まるで抜刀術の如くですわね。ちょっとかっこういい、などと思っているだけではありませんわよ。
こういう思考でもしていないとぶち切れてわたくしと、わたくしの騎士に危害を加えたものをぶち殺してしまいそうですもの。
腰から彼が求めた遺品を抜き払おうとする、その瞬間。
「そこまでッ!!」
ジョッシュの声。
彼の両脇には同じくポーションの投擲姿勢を取っているアルケミスト。揃いの服からしてギルド職員、あるいは警備といったところでしょうか。
「邪魔をするな、受付風情が」
「それ以上は止めなさい。ここで殺し合いになりたいのならば止めないが……」
周りを見ろとジョッシュが首で示す。
先ほど外套を払ってポーションを抜こうとした複数名のアルケミストたち。
そして抜刀姿勢に入っているわたくしとアルシュカ、支援術の発動をいつでもできる体勢に入ったリオ。
全てを防ぎ、怒りのままにわたくしを殺し、武器を奪えるとは流石に思えなかったのか。
「……──」
構えようとしていた手を下ろし、
「はっはっは。冗談ではないか。諸君。ちょっとした冗談だ」
イングラヴァがそう笑う。
だが、
「これで三度目。
今日ほど大きな問題を起こしたことはなかったとしても、これ以上は看過できません。
イングラヴァ。あなたをギルドから破門します。この一件に関する許可は以前から支部長から与えられているもの。
どのような申し開きであろうとも受け付けることはない。即刻、首に提げているギルド認識票を返却し、立ち去りなさいッ」
「~~……ッ!!」
その言葉に顔を赤くし、怒りを発動させようとし、しかし、飲み下す。
首に提げられていたタグを外し、机の上に投げる。
「下賤が! 無能どもが!! 馴れ合っていろ!!」
そう叫び、去って行く。
すぐにジョッシュが駆け寄ってきて、無事か、怪我はないか、当ギルドの元会員が申し訳ないと。
「怪我はまあ、手傷程度。あの問題のある人間を二度まで許していたそちらにも手落ちはあるでしょうけれど、あなたを責めて何か有意義なことがあるとも思えませんわ」
「寛大なお言葉に感謝します」
ジョッシュと喋りつつ、駆け寄ってきたアルケミストたちが治療をしてくれていますわ。
一々、これはちゃんとラベルのある奴だからとか、効能はこうだからと説明しながら治療を。イングラヴァとやらと一緒の組織にいたから信用がないだろうし、可能な限り不信感を払拭するための措置とはいえ……。
彼らも大変そうですわね……。
「このような状況ですが、鑑定の結果も出ましたのでお部屋に案内してもよろしいでしょうか?」
怒りと失望でお帰りになっても仕方ないですよね、といった態度ですが、お生憎様。
「ええ、参りましょう」
爆発が起こったことなんてなかったほどに優雅に歩き出しますわよ。
どうして?
ゼニが欲しいからに決まってますわ!! ホーッホッホ!! 弱みがある今がチャーーーーンス!!
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◆アルケミストのポーションについて
このギルド内で爆発したり、抜き打ちしたりしようとしたポーションは何か、についての補足。
アルケミストの調合するポーションは作る人間によって効果の強弱が変化する。
これは作り手の持つマナと、生産場所のマナ、その日の世界に存在するマナの色(属性)の影響を受けるため。
例えば爆破ポーションであれば水の力が強い日に作ると威力が低減してしまう。
火の力が強い日に作ると威力は上がるがちょっとしたことで爆破効果が発揮する可能性が強くなる。
……といったこともある。
★爆破ポーション
特殊なスライムの粘液+マナ結晶(火)
基本的にこれの調合で爆発するポーションとなる。
これにあれこれと追加で色々配合することで威力やら範囲やらが変わる。
★圧撃ポーション
虫型魔物の羽+マナ結晶(風)
当たると空気が破裂するポーション。威力次第でそれなりの腕前の実戦僧兵の踏み込みからの一撃並になったりする。
小量でも大量の液と同じ威力になることが多いため、アルケミストたちにとっての汎用的な攻撃手段として選ばれることが多い。
★噛み付きポーション
獣型魔物の牙+マナ結晶(闇)
当たると触手と先端についた牙が襲いかかり噛み付いてくるポーション。
一度噛み付きを行ったあとに消える。
事前に動きを命じることができて、噛み付いたあとに巻き付いて動きを一瞬縛るなどの使い方もできる。
テクニカルなやり方が好きなアルケミストが愛用する。




