没落令嬢vsガッポガッポでウッシッシ
フィニーからいただいたパラクタ卿の書き物を読んだりしていると、来客。
軽装の防具に仕立てのいい外套。そしてその外套には超帝国の紋章が。
「ライヒ・グレイトキャピタル卿ですね」
「ええ。そうですわ」
「私はマルセル殿の使いとして参りました徴税騎士の先触れでございます。こちら、お預かりした手紙を見ていただきたく参上仕りました」
「感謝します、先触れ殿」
大抵の場合は配達専門の人間や冒険者が担う仕事を先触れ、つまりは公的機関の人間が行っているということは重要な書類であるってことですわね。
マルセル様からのお手紙となれば、用件は──
『お久しぶりです、卿。
お約束を果たしたく努力をしましたが、免除というのはやはり難しく、なんとか取り付けた条件は分割支払いという形に。
とはいえ、卿は領地を引き継いだばかり。そちらを交渉材料として戦った結果として、今回は支払いの利子分での支払いで済む形となりました。
とはいえ、利子も相応に巨大な金額。不可能でありましたらその旨を』
納税の際にはマルセル様も来ると。日にちも書いていますわ。
正直、そう遠くない日。
そして、無理ならその旨をしたためて、先触れに渡せ……ですわね。
外からかすかに聞こえてくるダンジョン近くの喧噪。
わたくしがここを手放せば相応以上の金額になるでしょう。それこそ、自由を得られるかもしれませんわね。
けれど……。
……けれど、今も必死に頑張ってくれている領民たちは。わたくしに全てを捧げるかのように働く我が騎士二人はどうなりましょう。
金額は不可能ではない、けれど、今すぐには難しい。
あと半年あれば、なんとか。……難しければ、可能な範囲で引き伸ばしていただけないか、と。ウウ、恥ずべきこと。
ええい、払えないよりマシですわ。誇りよりも命ですわよ。こんなところでおしまいになってしまったら我が騎士も、信じてくれた領民たちにも、ダンジョンに足を向けている冒険者たちにも顔を向けできませんもの。恥を忍んでそれを書き記しましょう。
「先触れ殿。こちらをマルセル様に。くれぐれもよろしく、と」
「承知しました」
先触れ殿は受け取った手紙を何らかの加工がされた箱に収める。恐らくは中を見れないだの、盗まれても探知できるだの、そうした力を持った便利なアイテムに違いないですわね。
「グレイトキャピタル卿。その……」
「はい、なにか」
「私も徴税騎士の端に加えられており、マルセル様の部下として、後輩として働かせていただいています。
この土地の状況も、幾つかは」
「それはお恥ずかしいですわね」
「我々もできうる限りの手を尽くしますので、どうか」
「ふふ。その先輩と同じことを仰ってくださるのですね。正直、徴税騎士という職にある方はもっと冷徹な方ばかりかと」
「噂の上では、いえ、職務としてもやはり冷徹であるべきなのは確かです」
「でも、お優しい。……その慈悲に背かぬためにも、なんとか次の支払いはこなしたいと考えております」
自死を選ぶことはない。まっすぐにそれを伝えるように見つめますわ。
相手の徴税騎士殿は顔を隠してらっしゃるので(おそらくは職務的にやたら顔が割れるのは危険ということなのでしょう)伝わっているかわかりませんけれど。
「承知しました。差し出がましいことを。それと、一つお願いが」
✘✘✘
先触れの徴税騎士殿のお願いとはダンジョン運営やその周辺の商業を知りたい、というものでしたわ。
支払い能力の加味、つまりは払えないのに延滞しているわけではない。その能力があるけど時間が足りないだけなどをしれることができれば武器になるのだと。
「これは素晴らしい」
徴税騎士という役職は単純に金をかっぱぐだけではない。
支払わせるためならば金稼ぎのアドバイスは可能な限りする。そうしたことができなければ徴税騎士にはなれない。知恵者でなければ成り立たないお仕事なのだと聞いたことがあります。
「食事だけでなく甘味も」
「ええ。野草との組み合わせで作れるものだそうで、学者先生が教えてくださいましたわ」
「なるほど。賦活剤の取り扱いはしておられないのですか?」
「あー……。あるにはあるのですけれど」
まずはそうした冒険にお役立ちなアイテムを取り扱っている売店に。
ただ、数が少ない。
何せ冒険者ギルドから好意で流してもらっているものだ。金額も安くはない。
ただ、ポーションだけならここにあるよりも遙かに多くのものがありますわ。
そうしてダンジョン内で手に入ったポーション用の倉までご案内。
わたくしやアルシュカ、ときおりリオもですが、ダンジョンに潜ってトレーニング代わりにしたり、新たな設計を試したりすることがありますわ。
そこで手に入れたものは売ったり貸し出しにしたりはしているのですけれど、
「拾得ポーション、ですか」
ダンジョンで拾ったポーションは大抵ラベルがありませんわ。
この棚にあるものは殆どわたくしが漢気鑑定、つまり飲んでみて確かめるって方法で中身は選別しておりますけれど、
「それは確かに売り物にはできませんね」
ここは領内であって誰かのルールに強く縛られることはありませんわ。
例えばポーションだって売ったって構いませんのよ。よっぽどの問題でもない限り超帝国の法に則って罰せられることもありませんわ。
ただ、冒険者ギルドと提携しているも同然の状況では中々。
冒険者ギルドは他の、例えば錬成術士関係のギルドとも連携してポーションを安値で販売していたりしますわ。
アルケミストギルドが安全で安心な薬として売り出しているのを認証品ポーションと呼んでいますのよ。
彼らを通さずに怪しげな拾ってきた、漢気鑑定ポーションを売り出したとして……冒険者にとっては怖い。ラベルドを流してくれている冒険者ギルドからも、製造元のアルケミストギルドからしてみても、心証は最悪ですわよね。
それにどうせ、わたくしは冒険者ギルドの支部長に嫌われているでしょうし、おそらくですけれど。
ともかく、フィニーが立ち回ってくださっているのに下手なことはできないってことですわよ。不義理になってしまいますわ。
「手に入ることの多い安値の治癒関係のポーションは鑑定してラベルドとして売ってもいるのですが」
しかるべき人間やアルケミストギルドが鑑定し、ラベルを貼ってもらえればそこからはラベルドポーション扱いとなる。
こちらに関しては鑑定金額と同等で売っているので売り上げには全く貢献しておりませんわ。
売る相手も現在は駆け出し中の駆け出しに限定しておりますのよ。
「であれば、どうでしょう。アルケミストギルドと提携をするのは。
ラベルレスは効果こそ同じでもそこに掛かっている力や素材がそもそも異なっていることもあり、その研究をするためにアルケミストギルドはダンジョン産のラベルレスを水面下で求めているとも聞いたことがあります」
「そうなんですの?」
「せっせと水薬錬成をしている人間のモチベーションを下げさせないために表沙汰にはしていないようですが」
そこまで言ってから、
「この棚にある分が捌けるだけでもだいぶ違うでしょう。
それにアルケミストギルドといい具合にパイプができれば賦活剤なども格安で卸してもらえるかもしれません。そうなれば出入り口にでも置いて」
「ガッポ、ですわね」
「ええ。ガッポです」
お互いに金を示すハンドサインをする。
そのような話を幾つかして、先触れの徴税騎士殿は去って行った。
親身になってくださって、裏切りたくはねえですわねえ、ああいうお人たちを。
再びポーション用の倉に。
本当に大量の、恐らくは等級の低い、安値のものばかり。なにせあのダンジョンで手に入るものですもの。
けれど、わたくしにはわからない価値がここにあるかもしれない。
ガッポガッポでウッシッシかもしれない。
そう考えると、……アルケミストギルド。行ってみるしかないですわねえ。




