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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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25/28

没落令嬢vs流れの先

 わたくしが祠ダンジョンでの勉強をして戻って来て、しかし報告されるようなことはナシ。


 我らがダンジョンとその周辺は特に問題も起こらなかったみたいですわね。

 途中途中でマップ越しに確認していましたから不安はなかったのですけれど。


 だいぶ離れていたのにマップを開ける、確認できるということがわかったのも大きな収穫。

 これはとてつもない便利さですわね。


 ……けれど、同時に世の運営者(マスター)たちがこれと同様の力を使っていると考えると、必ずしもダンジョンやその周りにそれらが住んでいるわけではない。

 つまり、お話を伺いに行きたくても会えない可能性は全然あるってことですわよね。

 これはちょっと残念。先輩にお話を伺いたかったんですけれど。


 ともかく、朝礼でリオとアルシュカを褒めましてよ。

 それに加えて一応の報酬も。


 といってもまだダンジョン周辺施設からの収入は低め。ダンジョンそのものからのマネタイズに関して言えば全然できておりません。

 そうなれば出るのはわたくしの懐からになるのですけれど、昨日のダンジョンハックのお陰で支払っても大して懐は痛みませんわよ。あぶく銭ですわ。ホホホ。


 ちなみにあぶく以上の金額については既に金庫に入れておりますわよ。結構稼げましたから、個人の短期間の支出を過ぎるような分はこうしてちゃーんと預入してますわ。


 それはそれとして、朝礼が終わってから自由時間になる前に少しだけ二人を呼び出しましたわ。


「はい、リオにはまずお衣装ですわ。ラグジュアリーにしてグレイテストですわ~! 似合いまくりでしてよ、ホーッホッホ!!」


 体に当てているだけだが、それだけで十分に似合う。

 着てみればもっともっと麗しい姿が見れることですわよ。


「次にアルシュカ。あなたにもお衣装ですわよ。シックにしてラグジュアリーですわ! 素敵でしてよ、ホーッホッホ!!」

「お、オレはいいだろ。剣も貰っているし」

「この衣装が頑張り代でしてよ。あ、自分だけ剣を貰っていて……ってことで思うところがあるなら安心なさいな。ちゃーんとリオには騎士として渡すものもありますわよ」


 リオがアルシュカの袖をそっと引っ張り、


「二人で着たらきっとライヒ様も喜ぶから」


 と耳打ち。ややあって小さく頷くアルシュカ。


 わたくしに聞こえないように努力しているのかもしれませんけど、地獄耳で知られたわたくしに聞こえないわけがありませんわ。

 聞こえてないフリはしますけれどね。


「リオにはこれを」


 腕飾り。ダンジョンハックで手に入れて、分配するうえで頂戴したものですわ。

 効果そのものは治癒術を補強するだけのもの。

駆け出し(ノービス)冒険者』の治癒』が『毛の生えたノービス冒険者の治癒』になるくらい。


 最近治癒術を他の冒険者から学んでいるのであれば補強する効果だけでも役に立つでしょうし、自身の支援術と兼ね合わせればそこそこに効果を増強もできるでしょう。積み重ねってバカにできませんのよ。


 悪くない贈り物だと思いますわ。我ながら。


「これ……お高い、ですよね?」


 実際、金額的には結構なものではありますわね。術に作用する効果を持つアイテムってレアですもの。

 でも、


「リオなら、きっと価値以上に使ってくれる。わたくしはそれを願っておりますわ」

「……はい、では……ありがたく頂戴します」


 と、ここまでは順調だったのですけど。

 それからお衣装を着て見せてくれたりとしていたあとに、ふっとアルシュカが口を開きますの。


「服も着心地いいし、デザインもいいと思うけどさ……」

「どうしたんですの?」

「……いや、ライヒ様ってさ、その……悪徳とかって大事にしてたりするのか?」

「悪徳なんてない方がいいに決まっているでしょうに」

「だ、だよな?」


 ほっとした表情で。


「あの、実は……」


 不在をしていた頃に時折あったことを報告しはじめるリオ。

 朝礼で出さなかったのはあくまで個人的なことだったからだという。



 ✘✘✘



「お疲れ様です、領主代理殿」


 声を掛けてきたのはヴィッシュという冒険者。

 普段の口調は砕けたものだが、リオに対しては物腰を正していた。


「ヴィッシュさんとタニアさんですね。ご苦労さまです。

 今回のダンジョンハックはどうでしたか?」

「稼がせてもらえました。……ただ、」

「ただ?」

「いいんでしょうか。このまま功徳なさっても」

「功徳?」


 タニアも『あの噂かあ』と呟いていた。


「聞かせていただいてもよろしいですか?」

「んー。実はさ、ここの領主様、悪徳を稼いで何かをしでかそうとしてたんじゃないのかって噂があったんだよ」


 タニアは砕けた口調で、しかし騙したりウソをついたりするような色のない声で続ける。


「噂の出処は前市長を退陣させた件。元々貴族令嬢って身の上でもあったから、わざわざ冒険者をやるなんて本当に何かあったんだろうって」


 実際、ド辺境の田舎貴族ができることなど大してありはしない。

 多少なりとも都市に近ければライヒも政略結婚など、お家に関わるアレコレに携わることになっていたかもしれないが。

 ただ、それを市井の人間が知ることはあまりない。よく聞くような話をそのまま信じれば、


「貴族として悪徳と悪名を稼ぎまくって、何かデカいことをするためにいるんじゃないか、そんな噂がさ」

「どういうことですか、それ」

「酒場でも詩が流れてくるじゃん。英雄のさ。反乱して国を手に入れて、みたいな」

「国取りの物語とかですか?」

「そうそう。で、あのお嬢様もそれを狙って、声望を高めるために悪徳を稼いでいたんじゃないのかって」


 そもそもとして、元々ライヒはアドルインの前市長をぶん殴って退陣させている過去がある。

 悪徳を纏うものとしてのオリジン。現体制への反骨。国取りの英雄の出現めいた立ち位置に意図せずになってしまっていたライヒ。


「わたくしは故郷たるオルドホルムから離れた、あなたたちが言うところの没落令嬢!

 権力だとかなんだとか恐れるものなどありゃしませんわよ!

 腕力でものを言わせるわたくしと、ギルド私有化を狙うあなた、悪徳の量が多いほうがここでの勝者ですわよ!!」


 つまり、悪徳を纏いまくっている自分が恐れるものはない。

 失うものもない。

 そんな自分と張り合うのか、それとも諦めるのか──というようなことを宣言しているとされている。


 ……ちなみに実際にはそんなことは言っていない。当時の彼女は体の中に渦巻く怒りの感情を抑えるのに必死だったからいつもの多弁さは鳴りを潜めていた。

 そうした彼女の口上は詩人たちが作り出した幻想ではあるが、ライヒを知っている人間からすれば実に『言いそう』なセリフではあった。


 結果として市長を暴力で退陣させた噂と、都市追放刑に処されたことで悪名を持ったライヒは、

 没落し、普通の貴族令嬢が纏うようなドレスは纏えなく鳴ったからこそ代わりに悪徳で自ら着飾るようになったのだとも。

 その悪徳こそが彼女の力の根源だとすら。


 大きな戦で功しを挙げた彼女は恩赦を以てアドルインに戻った。

 戦いの趨勢を描くような詩もまた、彼女の武勇伝を伝えている。それを聞いたアドルインのものたちはやはり悪徳は彼女の武器なのではないか、鎧なのではないかと一層噂を強くした。


 未だにこの街では彼女は悪徳の鎧を着て自らが信じる正義を成そうとしていると。

 それが何故か転じて、


「そんな方が慈善事業をして力を失わないのか」


 などという妙な心配がなされているのだという。



 ✘✘✘



「──ということなんです」


 リオがおずおずと。


 うわあ。過去の恥ずべき行いが雪だるま式に巨大になっていますわ。

 ヤバいヤバいヤバすぎますわ。

 そんなこと言ってないし、なんか聞いておりますと支部長の手柄もわたくしが奪った形になって語られていませんこと?


 しかも悪徳でパワーアップ?

 いや、確かにその手の存在がいるのは事実ではありますけれどわたくしにそんな才能はございませんわよ。


 そんな噂が一人歩きどころか一人全力疾走しているってことは、世間様の評はわたくしが『かわいいかわいい少年少女を囲んで悦んでいる悪徳領主』だとでも思われているってことですの?


 まあ、まあ……否定できませんけれど。でもヤバすぎますわ。

 悪徳を重ねるために着飾らせてパワーアップしているんだと今後も思われますの?

 着飾らせて精神的に高揚するから自己暗示的にパワーアップ、とまで語るのであれば、ええ、そこも否定できませんけれど、評判的にはヤバすぎますわ。


「……次のお休みには街にいって、遊んでらっしゃい。その代わり二人で一緒に、ですわよ」


 街の人間も可愛らしい二人が街を歩いていれば、こう、わたくしが二人を縛り上げているヤバい女だって噂も少しは……。

 悪徳パワーで巨大化する怪物だと思われて討伐依頼なんてされる前にも。


 けれど、二人はわたくしを置いて街に行くなんて、という顔をしてらっしゃいますわね。


 せっかくの休みをわたくしが勝手に決めるというのもあまりよろしくないかもしれないですけれど、今日のところはなんとかそれで通していただきたいですわ。



 ✘✘✘



 没落令嬢あらため悪徳令嬢にクラスチェンジしそうな状況を打破するために今週のお休みには我が騎士二人には街で羽を伸ばしてもらうことに。


 二人が定期便で街に行くのを見届けまして。


 それからわたくしは休みではありますがやらねばならないことをここでしっかりとしておきますわ。以前のわたくしたちを襲撃したものたちの面談。

 人様の生活が掛かっている状況であれば休日出勤もやむなし。ただしこの特権はわたくしだけ。


 いざ面談、となりましてよ。

 来たのは七人全員と家族が大体その倍。つまり二十一人。


 元襲撃者たちですが、面談する頃にはあのときの悪党ヅラから少しはマシな顔つきになってましたわね。

 精神的に少しは救われているというのならよかった。


 ちなみに彼らがドラルディン・ファミリーからの影響下から抜けるときには何かあったら困りますから、街から出るときにはわたくしも同行いたしましたわ。


 ま、問題はなし。彼らもファミリーそのものの人間ってわけでもないですからそこまで注視されていたってわけではないでしょうね。


「元々狩猟をしていたけど森にヤバいマ物が現れて……?」


「牧畜をしていたけど賊に(ベコ)奪われて……?」


 などなど。

 人生それぞれ、山谷それぞれ。とはいえ、聞けば聞くほど転がり落ちるしかない状況。何が悲しいってそうした話は別に珍しいものじゃないってことですわね。

 アドルインが特別荒んでいるわけではなくて、どこも多かれ少なかれこんな感じですわ。


 この面談で彼らの経験を聞いて、それ次第で仕事を振り分けようと思っていますわ。

 そもそも誰かを落とすつもりはさらさらございませんわ。そんなの責任から逃げているようなものですから。

 それをするくらいならあの場で彼らのドタマかち割っていましたわ。


 さておき。

 牧畜の経験者が数名いたのは助かりましたわ。そろそろ肉の調達もしたかったのですわよね。

 ただ、飼育には時間が掛かりますから、最初の頃は狩猟メインになりそうですのよ。

 それに関しても襲撃してきたものたちは全員山歩きの経験もあるそうなのでお任せすることに。


 わたくしは彼らの準備や下見をしている間に試したいことを。

 ダンジョン周りの小屋に関しては健在を再利用して領民の頑張りで作らせましたけれど、

 この紋でどこまでできるかも試したいのですわ。


「小屋できろ、小屋できろ……」


 ぬぬぬと念じると作り出される小屋。

 狩猟小屋や解体小屋やらとして使うことにさせましょう。

 サイズに関してはやや狭め。

 というのも、結局この紋で作って、わたくしに何かあったり、紋になにかあったときにこれが急に消える可能性もあるのでしょう。


 そういうリスクを考えると建物は実際に手を使って作りたいのですわよね。

 あくまでこの小屋は代用品、ということですわ。



 ✘✘✘



「で、何か問題はありまして?」


 次はダンジョン周りの施設に関してのヒアリングですわ。

 足りないものやあったらいいものなんかを聞き出してよりよい形にしたいもんですのよ。


「人が多いとやはり、食事処が混み合ってしまいますのう。

 料理ができる人間はまだおるので、もう少しキッチンを広くしたくあります」

「客席はどうですの?」

「外で食べたい、という方も多いので現状は席が足りなくて待たせるということはありませんが、キッチンが広くなるなら──」


 食事処の拡張をさっそく決めましたわ。


 問題はキッチンにある設備ですわね。わたくしが冒険者の頃にやっていた料理は焼いて塩と香辛料を叩きつけて食らいつくだけですので、実際に何がどうってのは知りませんのよね。


 結局、調理道具なんかは買うか、ダンジョンでもガラクタとして生成されることもあるみたいなのでそれを買い取る場所を作って代用といたしましょう。


 わたくしが紋で作ったのは消えても大丈夫な椅子だの机だのに終始。


 これで収入がまた少し増えますわね。ホホホ。

 少しずつですが、領地を栄えさせて、健全化して、完璧な納税を果たしますわよ。


 食事処以外にもベッドだとかも増やしたりとアレコレと忙しくしていた頃に、


「ライヒ様、お客人ですだ」

「どなたですの?」

「ええと、それが呼んできて欲しいとだけ言われまして。その、」


 ああ。お前のような下等に何故名乗らねばならない、とか言われたんですのね。よくあることですわ。

 わたくしもそういう貴族にはならないように──


「すごく不思議な気配で、つい、その、何故だか聞きそびれちまいまして……。申し訳ございませんだ」


 え、なにそれ。こわいですわ。

 魔術士だとかなんだかにはそういう力を持つものもいるとか聞いたこともありますけれど、でも害意があって身分を隠そうとするならもっと別のやり方をするものでしょう。


 ……そうですわよね?

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