表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢vs金策  作者: yononaka


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/34

没落令嬢vs実地研修

 サン王の祠。

 アドルインからは冒険者の足で片道二時間強。それなりに近くにあるダンジョン。


 昔はそれなりに賑わっていて、強力なボスが踏破からダンジョンを守っていたものの、ボス部屋の側に脱出路があるため、

『踏破をせずに魔物のドロップ目当てで周回する』

 という、金策効率の優れたスポットとして賑わっていたそうですわよ。


 でも、ある時期からボスが強力で太刀打ちが難しい存在から普通の魔物になり、

 結果として踏破できるようになり、そうして何度も攻略されていくうちにダンジョンそのものが成長していき……この辺りの冒険者では手の打ちようがなくなってしまった。


 ときおり冒険者たちが仕事にあぶれたので、と出入り口あたりのフロアで魔物を狩って帰るというささやかな金策に使うことがあるくらい。


「ちょうど臨時の人員を募集している一党があるから参加してみるのはどう?

 サン王の祠は成長が原因なのかはわからないけど、現れる魔物は多種多様だそうだよ」


 そうしてわたくしはフィニーのオススメに従う形に。


 面通しをして(相手はわたくしのことを知っているので話は早かったですわ)、ダンジョンへ。


 道中、わたくしは隠れて、

『自分の運営しているダンジョンのマップを開けるか』だとか、

『ダンジョンに問題は起きていないか』だとかを確認しておりました。

 マップから見ている上では変わらぬ一日という感じですわね。安心安心。


 そして、サン王の祠のダンジョン──長いので以後は他の冒険者に倣って祠ダンジョンと呼びますが、そこに到達からの入場(エントリー)


 出会ってのは確かに厄介な連中ばかり。


 獣人種とは異なる、より魔物寄りの人型魔物コボルト……の亜種らしき名称不明、仮称ムキムキコボルト。特徴はムキムキ。筋力に任せて殴るだけではなく投石も繰り出して後衛を狙ってくる技巧派の畜生。


 通常のスケルトンにスライムが寄生して生身めいた動きをする名称不明、仮称骨格スライム。

 ダンジョンが記憶している冒険者たちの動きでも受け取っているのか切れのある戦闘スタイルがウリ。


 腰部分から立体的に稼働する剣が生えている大型の猫めいた名称不明、仮称サーベルタイガー。

 必ず数匹で現れて戦術的に狩りを行うだけではなく、他の魔物との戦闘の音を聞きつけてどこからともなく乱入してくるヤカラ。


 などなど、愉快な魔物たちが盛り沢山。

 いやー……。これは冒険者も来なくなりますわよ。

 そういうレベルの厄介なダンジョン。


 ただ、気をつけて戦えば確かに一階層はある程度稼ぎとしては成立するっちゃするくらいの場所。命を晒してまで稼ぐ価値があるかが微妙なだけで。


 けど、ダンジョンの階層自体は三階層らしく、一階層目でこれは確かに誰も攻略する気なんて起こらないのもわかりますわ。

 そうして、そこそこにダンジョンを進み、危険水域に脚を突っ込む前に撤退をキメましたのよ。


 中々ヒヤリとする状況もありましたが、目的は達成。

 一党は金目のものを手に入れて、わたくしは本来目的の『新たな魔物の知識』を豊富に手に入れることができましたわ。


 ダンジョンでの活躍?

 基本棍棒でぶん殴って、ドロップ品でもっといい棍棒を手に入れてそれでぶん殴って……それの繰り返しでしたから……特にお話できるようなことは……ないですわね。



 ✘✘✘



「止まりやがれ」


 ダンジョンから街への道中。

 不意に投げ掛けられた声。

 街道。賊の登場。よくあるシチュエーションですわね。


 シチュエーションだけなら、ですけれど。


「あら、なにか御用でもありまして?」


 ぞろぞろと現れた族の皆さんは口々に、


「金目のものよこしな」

「持ってんだろ?」「大人しく渡すなら、下手なことはしねえよ」


 思わずわたくしは臨時一党の皆様と顔を見合わせます。


「状況だけならよくある賊の襲撃ですけれど……、どなたの差し金かしら」

「差し金だあ? 賊に差し金も水差しもあるかよ!!」


 ため息が漏れますわね。

 一党の方々は苦笑であったり片眉を上げたり。


「いいですこと?

 賊は愚かではありますが、バカではないのですわよ。

 こんなフル装備の冒険者相手に喧嘩なんて売るわけないじゃありませんの。

 万が一売るとしたなら、……ええと、七人かしら。その程度の人数では絶対にやりませんわよ」


 つまり、彼らは賊に扮した何者か。


「わざわざわたくしたちを的にするということは、ダンジョンに行くことを知っていた。

 それを知っているのはギルドの人間か、冒険者か。

 ですけれど、ギルドが情報を賊めいた連中に流す理由はないでしょう」


 フィニーがそんなこと許すわけもありません。それだけは間違いありませんわ。

 となれば?


「わたくしたちの行動を知っていた冒険者が本日のドロップ目当てに横入りしてきた?」


 そんなことあるわけがない。


「冒険者としての身分を捨ててまでやるほどの価値はありませんわね」


 ダンジョン一つでの稼ぎなんてたかが知れていますわ。それも踏破ができないことを知っているならなおさら。

 であれば冒険者でもない。


「じゃあ、どこの誰の差し金かしらと推察できますわよね?

 わたくし、どこか間違っているかしら?」


 そう言いつつ、わたくしは最終的に調達した棍棒(ドロップ品。付与効果として本来の重さではなく半分の重さとして片手で持てる)を構えますわよ。


 一党の皆様から


『うーん。特別な力(エンチャント)が付与されているのはいいけど、クラブじゃなあ』

『嵩張るし……。売値も知れてるし……』

『え、ライヒさんほしいの? どうぞどうぞ』


 とご厚意で譲っていただいた一品。

 いい感じにダンジョンで使ったので戦闘の汚れがまだ染みついているものを鼻先に構えて差し上げますわ。


「こちらが欲しいのでしたら差し上げますけれど」

「……っ」

「差し上げたなら、衣服はダメになるでしょうけれど、肉も骨も買い取ってくださるかたはいらっしゃいますわよね」


 くれてやるのはクラブではなく、そこから発せられる一撃だと。

 そして買い取りに関しては一党の魔術士を見る。


「ヒィーヒヒヒ……。それがしが買い取りましょう。ちょうど秘薬の材料が尽きていたところでして。

 可能でしたら生きたままが嬉しいのですが」

「生きていればいいのですわよね?」

「ええ。生きていれば。ヒィーヒヒヒ……」


 物騒な会話をする。ただ、脅すわけではない。まるで日常としてこういうことがあるかのように。

 ちなみに魔術士殿はそんな物騒なことをする方ではありませんとここで明言しておきますわ。

 でも、笑い声は自前ですわよ。


「それじゃあ」

「ま、待ってくれ! 悪かった!」


 武器を捨てて平伏する彼ら。

 最初からそうしておけばよかったんですのよ。


 ややあってから、彼らは武器を全て捨てて平伏状態になっていますわ。ま、こんなのに平伏されても嬉しくもなんともありませんけれど。


「誰に依頼された? あるいは命令された?」


 一党の斥候が端的に質問する。

 その顔立ちと声音からひょんなことで人を殺しそうだと思われている方で、今回のようなときにはうってつけだとは思いますわ。申し訳ないですけれど。


 名誉のために言っておきますけれど、実際には冒険者をやっているのは両親が経営している古道具屋の仕送りのためという親孝行な方ですわ。


 外見だとかで判断するのは失礼なことではありますけど、それを武器にするってのは別に問題のないことですからね。

 冒険者たるもの使えるものはなんでも使えってのはギルドに入って早い内に教わることですわね。


「ドラルディン・ファミリーからだ。

 つっても、そこの仲介屋に言われただけだ。ダンジョンハックして疲弊した冒険者を脅してこい、って……」


 一党の皆さんはやっぱり、という顔をしていますわね。


「ライヒさん。どうします?」

「ここで彼らには解散してもらうでも構いませんけれど」


 ちらりと偽賊を見る。


「なんでこんなことをしているんですの? 趣味なら趣味でいいですけれど」


 嘘やお為ごかしを言えば粉砕する、という気配は隠していない。

 実際にそうしたなら一党が止めようともここで潰してしまおうと思っていますわよ。街に戻ってもまた誰かに害を及ぼすでしょうし。


「く、食うためだよ。仕事がねえんだ。

 俺たちみたいな戦えもしねえ、名もねえようなやつには仕事なんざ」

「それで暴力で食べていこうと?」

「……」

「体を動かして食事がもらえる、それだけでいいのならわたくしの領地に来なさいな。

 まだジャガイモくらいしかないですけれど、そのうち肉も食べさせて差し上げられるようにはなりますわよ」

「りょ、領地?」

「わたくしをご存じないなら名乗っておきますわね。

 わたくしの名前はライヒ・グレイトキャピタル!

 偉大なるオルドホルムの領主ですわ!! ホーッホッホッホ!!」


 ひとしきり高笑いを終える。彼らも終わるのを待っていたようですわね。中々見所はありますわ。


「俺たちゃ、その、ろくでもねえぞ。自分で言ってて悲しくなるが」

「でも賊のふりをして脅せ、わかりました。

 ここで待っていろ、わかりました。

 ……と素直に命令に従ったのでしょう。その勤勉さは買って差し上げると言っているんですのよ」


 更正と機会は与えたいものですわよ。食い詰め貴族ではあっても、貴族は貴族。搾取するばかりではないようにしたいものですもの。


「本当か? いや、本当ですかい!?」

「嘘言ってどうするんですの」

「っ……。お、お願いします! 領地の端に加えてくだせえ!」


 彼らが改めて平伏する。

 今度は、ええ。心から受け入れましょう。


 まあ、こういう流れの上で悪事を働くようならそれ以後は畑のカカシにでもなっていただきますけれど……。

 わたくしはわたくしの眼力を信じますわ。彼らは大丈夫だと。



 ✘✘✘



 街について、あれこれと報告をする。

 ドラルディンの一件も。


 今までは賊らしきものがダンジョン帰りの冒険者を狙うこともある。

 大抵は賊だとして処理されていて、今回わたくしがやったように会話で解決することがないからこそ、それが賊かそれ以外かは判断が難しかった。


 けれど、噂レベルで賊を操っているのがドラルディンの人間だという話は出ていたそうですわね。

 捕らえた賊が取り調べのときにドラルディンの名前を口にしそうになって、途中で黙ったことがあったのだとか。


 今回の報告でドラルディンの関与は明確になったとしてギルドは重く受け止めるものの、ドラルディン・ファミリーは裏社会の一組織。

 流石に表側の組織である冒険者ギルドでの対処は難しいかも、と。


 今回は祠ダンジョンの行き帰りで、戦闘経験豊富な一党だったから良かったものの、今後はこういう手合のことも考えなければならないことが浮上したわけですわね。


 わたくしのダンジョンとこのアドルインまでの道のり。行き来するのは今回の一党ほど強くはないものたち。

 こりゃあきっと何か起きる可能性が膨らみつつある……対策は打たねばなりませんわよね。


 ……はあ、金策効率を上げれば上げればでこういう問題も出てくるんですのね。厄介な形で仕組みは回りますわね。







 ───────────────────────

 今回のダンジョンハックで入手し、ライヒの取り分になったもの。


 ●片手で持てる棍棒(両手用の重さながら片手で持てる不思議な力付き)

 ●マナを利用した髪の毛の染め粉(気合を入れると解除されてしまう欠陥品)

 ●きれいな腕飾り(支援術を少し強化する効果付き)

 ●他の冒険者の入手品とのバランスを取るための現金そこそこ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ