没落令嬢vsダンジョン運営
カラレスは使っても戻ってきますわ。
けど、色々と条件がございますの。
わたくしがダンジョンを公開していることにも直結していることでもありますけれど、ダンジョンを開くカラレスにはその内部でどのようなことが起こっていようと、おそらくは関係ないってことですわ。
魔物が大量にいるダンジョンを作った場合、呼び出し費用は高いのですけれど、戻すときには最初と大体同じ分が戻ってきますのよ。
その一方でダンジョン内で倒して獲得するカラレスはそれはそれでもらえておりますの。
つまり、魔物は倒した方が得。
これがダンジョンで初級者・中級者を呼び込んで戦っている理由ってわけですのよ。
ただ、損をするケースもございますのよ。
例えば──
✘✘✘
「ぐぎぎぎぎ……! せっかく用意したゴブリン軍団が散らされていく……!!
これでは収支が合いませんわ!!
あ、赤字……? わたくしの計算が…、コスト管理が……!?」
つまり、これですわ。
ゴブリン軍団を編成することを選ぶとイニシャルコストが上がって、その分は戻ってこないんですの。
しかも呼び出したコストも軍団を倒しても手に入るのはその分のゴブリンと同じ。
どうやら軍団だとか特別な条件を付けるとそれだけコストがかさむんですわね。
本来であればダンジョンは攻略して欲しくない、だから強い魔物を生み出す。
強い魔物はその分だけコストが重い、普通はそういうことなのでしょうけど、わたくしは事情が違いますもの。
倒されたい、得をしたいと考えている運営にとってこの条件付け、冠詞付きとでもいうものは損、ってことですわ。
「い、いえ、まだですわ。ゴブリン軍団を倒すことができて、調子に乗ったところを。ふひ、ふひひ……!!」
そう。
軍団を倒してやれやれと言っているところに配置しているのは犬型の魔物。その群れ。
疲労しているところに脚を使ってくる存在は面倒でしょう。
普通に野犬でよかったんですけれど、どうやら普通の動物は呼び出せないようですのでこうしましたのよ。
あんまり犬との違いもわからないですけれど、ひとまず軍団を打ち破った一党は相当に傷を負っていますわね。
「そうそう。撤退なさいな。生きてりゃまた次がありますわよ。うんうん」
ここでいくら喋ろうとも彼らに聞こえるわけではない。
それでもなんだか思いを声に出してしまうというのは不思議なものですわね。世のダンジョン運営者も皆こうなのでしょうか。
相手のことは応援しないとは思いますし、であれば自分のところの魔物でも応援していたりするのかしら。
ひとまず、今日の稼ぎは相当のもの。南西の街から少し離れた街からも少しずつ冒険者が来るようになっているみたいですわね。
✘✘✘
最近の不安があるとするなら、ネタ切れ、ですわね。
わたくしは同位階帯で言えば魔物との戦闘経験は多いと思いますわ。戦っていた場所がそういうところだったのが大きいでしょうけれど。
けれど、それでも世界中を旅して回っているわけでもないので遭遇した魔物の種類には限界がある。つまり、いずれはダンジョンで配置できるものにも新鮮味がなくなる。
流れ作業にでもなってしまったらおしまいですわ。危険に挑むものでなくなった冒険者はもはや冒険者ではありませんもの。
と、なれば魔物をどうするかになるのですけれど……。
ううん。新しい刺激が欲しいですわね。
何か方法……ないものでしょうか。
……うーん。
やめた。
机を前にして悩むなんてわたくしらしくもない。
夜更け頃から朝まではダンジョンは自動的に閉じる。閉じる頃にもダンジョンにいるものは強制的に出口に飛ばされるようにしてありますわ。
仕事の終わった二人を呼んで、今後の作戦会議をすることに。
「リオ。頑張っているのえ。とっても偉いですわよ」
「ありがとう、ございます……!」
褒めればいつも新鮮に驚きながら受け入れるこの子、たまらねえですわね。
こういう素直な子であればわたくしも──っとセンチメンタってる場合じゃねえですわよ。
「ですから、明日から数日、ダンジョンはあなたに任せますわ。
アルシュカはそのサポートをなさい」
「え!?」「は!?」
同時に否定的なニュアンスを含んだ言葉。
「まだ試していない幾つかのやりたいこともあります。いつかやると続けているよりもさっさとやってしまったほうが気分が楽ですもの。なので明日やりますわ」
「……ライヒ様がそう仰るなら」
「いいのかよ、リオ」
「はい、私は頼ってもらえるだけで、えへへ」
アルシュカはアルシュカでリオにちょっと引いていそうですわね。
それでも言葉で何か言うわけでもないあたりはわきまえているというか、リオのことを理解していると言うべきかもしれませんわね。
「アルくん、よろしくね!」
「できるかぎりは頑張るけど、期待しすぎないでくれよ、リオ」
日が経つ度に少しずつ距離は縮まっている模様。
今回みたいなわたくし不在になる状況もこれから何度もあるかもしれませんし、仲良しであることは重要なことですわね。
「で、何するんだよ」
「一つは遠距離からダンジョンの状況を知れるかどうか。
もう一つはその遠距離からダンジョンを消したりできるかどうか、ですわね」
「他には?」
「街に行って、少しばかり仕入れたい情報と買いたいものがありますの。
ああ、安心してほしいこともありますわよ。ちゃんと明後日には二人とも街に連れて行って差し上げますから、安心してくださいまし」
完全週休二日制のお陰で休みの日も決定している。
その日はダンジョンも休み。
来てくれる冒険者たちには『週に二度ダンジョンが停止する、そのときに自分たちも休んでいるのだ』と言っていますけれど、実際には逆なんですのよね。
完全週休二日制にするため、そのためにダンジョンを停止させている、が正解ですわ。
わたくしが運営であることはごく限られた人間以外には一生黙っておきたいことですし、ここだけの話だと思ってくださいましね。
✘✘✘
というわけで街に、そしてその脚で冒険者ギルドへ。
……ん。結構、というかかなり賑わってますわね。
フィニーに対応してもらおうかと思いましたけど、ちょっと時間掛かりそうですわねえ……。
クエストボードでも見ながら観察させてもらいますわよ。どれどれ。
「なあ、噂のダンジョンはいけないのか?」
「申し訳ございません。
中級位階以上の方はこちらから提示する依頼を一つ受けて、それを達成していただかないとならない約束となっていまして」
「初級者を含む一党なんだけど」
「一人でも一党の位階合計が超えておりますので中級位階扱いとなってしまいまして」
などなど、結構な感じで捌いていますわね。
ここでごねるような無作法ものはいませんわね。それじゃあ仕方ないから依頼を受けようとなるものが殆ど。中には一党がバラけるのはいやだからと諦める人たちもいますのね。
誰も彼もを受け入れるとダンジョンが混み合ってどうしようもなくなるとはいえ、この盛況は維持したいものですわねえ。
などとリサーチしているとフィニーに呼ばれましたわ。ようやく人が捌けたようで彼女は個室にわたくしを呼んでくださいました。
あの場で下手にダンジョンの関係者であるなんてことがわかったら冒険者たちに囲まれかねませんもの。対応力の広さに感謝ですわ。
「賑わってますわね」
「他の地方都市のギルドよりはまだ人は少ないけどね……。でも助かるわ」
「それはなにより」
「で、あっちも忙しいだろうにここに来たってことはそれなりの用件でと思ったほうがいいの?」
「んー、そうですわね。まあまあ、ほどほど、そこそこ……」
「歯切れが悪いなあ」
「詳しいことはまだ言えないのですけれど、ちょっと魔物についての勉強をしたほうがよさそうな状況になって」
何を取り繕っても怪しい話にしかならなそうなので一部真実を混ぜて伝えることに。
つまりは、
「ダンジョンの探索で見たことない魔物が現れたから事前に調べておきたいんですの」
「なるほど……でも、冒険者のあなた以上に魔物に詳しい人なんて……」
少しフィニーが悩んでから、
「あ、種類を見るだけなら一つ方法があるかも」




