没落令嬢vs平穏
赤黒い光ことカラレスの研究をしておりますわ。
なんていうか、消費しているのはわかるけれど、残量もわからなければ消費量もわからない。
ダンジョン運営をしている方々はどうやって判断しているのでしょうね。とても気になりますわね。
ただ、ダンジョン運営友達なんているわけもありませんし、じゃあ知っているヤツ探しにダンジョン探して殴り込むかってのも、メンツ的に厳しいのですわよね。
一応、街の少し離れたところに『なんたら王の祠』だとかってダンジョンがあるらしいのですけれど、そこは何度も踏破されていて既に攻略何度がわたくしだけじゃどう転んでも無理なレベルになっているそうなのですわ。
冒険者としてブイブイ言わせていた頃の一党なら何とかなったかもしれませんけれど、無い物ねだりですわね。
それに踏破したって運営している存在と会えるわけでもございませんし。
といったところで、結局強引に単位を取ることにしましたわ。
わたくしが出せる、認識上での最小の物体はじゃがいもの畑。大きさ的にはわたくしの身長の半分を縦横に置いたくらいになりますかしら。
ちなみにわたくしの身長は175センチですわよ。
バカでかい武器を振るうとなるともう10センチほど欲しかったですわねえ。
骨格に乗る筋肉量はある程度は限界がありますわ。
ドワーフだのの血を引いていれば別だったのですけれど、あいにく普通のヒト種であるわたくしにそういう特別なものはナシ。
っと、余計なお話でしたわね。
さて、では単位を作るために考えを纏めましょう。
出せるじゃがいも畑の最小単位を1わたくし、つまり、1ライヒとして……。
✘✘✘
(前略)と、つまり、これでわたくしが制御できるカラレスの最小単位が『1r』となるわけですわね。
で、現在はこの1rをどれだけ出せるかというと──
(中略)そうすると、わたくしが吐き出しているカラレスの流量を測定するための装置ができるわけですのよ。
──というわけで、やや強引ですけれど、おおざっぱにわたくしが使っているカラレスの量と現在量がどれくらいあるかを判断するための装置を腕輪として作りましたわ。
なんでそんなもん作れるのかって?
経験ですわよ。ホホホ。
自分の中で理屈立てて、設計図を目視しながらやれば案外、道具的なものは作れたりするものですわね。なんでもとりあえず手を動かすのが大事ですわね。
カラレス測定腕輪(仮名)が作れそうになったので寄り道で他の道具も作ってみようと思いまして、
ダンジョンで昔見つけた『魔術を擬似的に再現する道具』だとかを試してみたけれど、形ばかりで意味のない代物ができあがったりしましたし。
っと、またも横道にそれましたわね。
とにかく、これでお楽しみが増えましたわ。
なんでそんなもんを作ったんだと言われると……ま、このあとにお、来た来た、来ましたわよ。
今日も初級者ちゃんたちが頑張っているお陰で、カラレスが増えていきますわ。
これのお陰で、ほらほら、少しずつですが溜まっていっているでしょう?
これこそがわたくしがダンジョンをだいたい無料の形で解放している意味というものですわ。
彼らはお金を稼ぎ、わたくしは自動的にカラレスを頂戴する。
増やしたカラレスはどうするのか?
ホーッホッホ。すぐにわかりますわよ。すぐにね。ホーーーーッホッホッ!!
✘✘✘
「今日からダンジョンの仕組みが少し変わりますわよ」
「変わる?」「どんな風にですか?」
朝礼はわたくし、アルシュカ、リオで行いますわよ。
ダンジョンについての仕組み、つまりは実はわたくしがマスターであることを知らない人間との朝礼はこの前に終わらせていますわ。
そちらはそちらでメニューが少し増えておりますのよ。カラレス増加のお陰でパンが焼けるようになったんですわよ。今のところはジャガイモ挟みパンだけですけれど、そのうちあっと驚くようなパンを売り出して見せましてよ。ホホホ!
っと、朝礼朝礼。
「一階層目を広くして、エリアボスを倒してもすぐに終わらないようにしましたわよ」
「すぐに終わらないって、それって」
「二階層目を遂に制作しましたわ!」
胸を張って自慢。
どうだどうだという雰囲気に、
「二階層目?」
とリオ。
会話を回すプロですわね、リオは。助かりますわ。
「ええ。今までの経験をベースにいい感じの設計をしたつもりですわ。
ただ、初心者ちゃんたちにはちょっと厳しいくらいの難易度にしましたのよ。
罠もありますし、嫌なタイミングで現れる魔物あり。
ふふふ。そろそろ敗北して送還されるものも出てくるでしょうからリオと医院も忙しくなるかもしれませんわよ。覚悟なさってね」
「はい、がんばります!」
「アルシュカは手伝いで駆り出されると思うけど、やれるかしら」
「ああ。やらせて。それくらいしかやれることは」
ぺちん。
痛みもない、ただ、何かをしてはたかれた、ということだけをわかるような。
「……な、なに?」
「それくらい、じゃないですわよ。この前のカリュアたちの顔をお忘れになられたの?
あなたには他の冒険者を笑顔でダンジョンから帰還させる力があるんですわよ。
ただ戦うだけがあなたの能力ではない、それをお忘れにならないでくださいまし」
「わ──……わかったよ。それじゃあ、手伝いがあればやりたい。ここに来る冒険者のために」
「ありがとう。お願いしますわね」
頭を撫でる。
わかったのなら、褒めるべきですわ。
わたくしははたかれることはあっても撫でられることはありませんでしたから、せめて他人には。
ん? そもそもはたくな? まあ、そういう向きもあるかもしれませんわね。
「こ、子供じゃないって!」
「あ……いいな……」
「リオはずっと良い子だから忘れちゃいますわね。さ、おいでなさい」
癒やしの時間ですわね。多忙も乗り切れそうですわよ。ホホホ。
✘✘✘
そうして、本日の冒険者のみなさんがお越しになられましたわ。
カリュアの一党をはじめとした先日お越しになられた初級者の皆さん。
今回はそれに加えてお初になる中級者手前の方々ですわね。
「おう、アンタがここの土地の代ひょ……」
わたくしの前に来てなかなかの威勢の青年。
いいですわね。冒険者らしいですわ。……と思いかけたところで相手の言葉が止まっておりますわね。
「どうしたんですの」
わたくしの言葉にようやく再起動したようで、
「あ、アンタ、もしかして雑思考のライヒ……?」
「どうしたのよヴィッシュ」
「……いや、その、憧れの冒険者なんだよ。
俺だけじゃない。俺と同世代の連中は皆多かれ少なかれ思うところがあるはずだ。
あのライヒさんが、領主だってのか?」
憧れているなんて評価をいただくことは稀だと思うのですけれど。
「えーと、憧れる理由はわからないけれど、ええ。そうですわよ」
なんだかわかりませんけど、キラキラとした瞳を向けられているのは悪い気がしませんわね。
高笑いでもしておこうかしら、と思ったけれどそういう状況ではなさそうね。
「同姓同名かと思ってたぜ、よもやあのライヒさんが……っと、いやいや、すまねえ。無礼な態度、どうか許していただきてえ。
こいつはギルドから預かった手紙です」
「確かに受け取りましたわ。……っと、半券はこれでいいかしら」
手紙に添えられた紙にサインをして返します。配達の依頼は受けることがあっても渡されるなんてことはあんまりない経験でしたわね。
「確かに受け取った。それじゃあ、今日はよろしく頼みます」
「ええ。いい狩りを」
手紙の送り主はフィニー。
内容は……。
なるほど。他の中級者も来たがっていたけど、いきなり全員を向かわせるとギルドが回らなくなるからあちらで色々と制御をしている。
今後は初級者も他の仕事をしたらこのダンジョンに行けるようにする形にしたい、と。
そればかりは仕方のないことですわね。
このダンジョンに入れ込みすぎて他の仕事がやられなくなって涙する人が増える、なんてのは望んでおりませんもの。
さあて、では早速状況を見るために屋敷に戻るといたしましょう。
✘✘✘
「ねえ、ヴィッシュ。雑思考のライヒって? あのご令嬢のこと?」
「あー。そうか。タニアは知らねえよな。世代的に。……あの人はな、ぶん殴ったんだよ」
ヴィッシュとタニアは思い合う仲ではあったが、年齢自体はそれなりに離れている。
親子ほどとは言わないものの、過去にあった事件などの知識量は歴の長いヴィッシュがそれだけ多くを知っていた。
「誰を?」
「俺たちの街の市長をさ。正確には当時のだがな」
「……な、なんで?」
タニアは雑思考という二つ名から来る程度の破天荒さを考えていたようだったが、それ以上のものをお出しされて軽く引いた。
「冒険者ギルドを牛耳ろうとして、実際にあと一歩まで言ったのさ。
その時点で多くの冒険者も身動きが取れなくなってた。従わなきゃいけないように仕向けられてた。俺だってそうさ」
と、そこまで聞けばタニアも引くような態度は改める。
今の自分たちが気楽に冒険者をやれている一因が彼女にあるとわかれば当然とも言えた。
ライヒが駆け出しから脱した頃、そうした事件があった。
誰もが身動きが取れなかったところでライヒは市長の屋敷に乗り込み、証拠を突きつけ、ぶん殴った……という話で伝わっている。
実際に証拠を突きつけたのはギルドの支部長だったが、噂は独り歩きするものであるし、ヴィッシュが聞いた物語も酒場で唄われているもの。
ついでに言えば支部長自身も自らの手柄を喧伝したりもしなかった。
むしろ、ある事情からライヒにこそ全ての名誉があってもらいたいと願ってすらいた。
彼女のような勇気が自分を含め多くの人間があればそもそもギルドが動けなくなる自体は未然に防げていたのではないかと夢想してしまうからだ。それが実際にそうかはさておいても。
ともかくぶん殴った彼女は都市を追放。
ぶん殴られた市長は数カ月の間は会話もできないほどのボコボコ具合だったらしい。
傷が言える頃に多くの汚職を告発したギルドを初めとした多くの人間の行動によっては退任、追放。
「けど、それからは街は冒険者を手駒にしようとするなんて奴は現れなくなった。
市長が悪政を敷いていて、それを放逐したのがライヒ様ってこともあってか、街じゃ冒険者に対しては結構友好的だろ?」
「そうね。チンピラ同然だって言われることも多いのに、ここじゃそんな風に後ろ指さされることなんてほとんどない」
「そういう土壌を作ったのがあの人、ライヒ先輩だったんだ」
結局、彼女が街に戻れたのは以前にあった『白灰の戦い』においての功績を認められたからだった。
多くのものが怪我を負い、現役でいられなくなったときに超帝国の謝礼として渡されたのが金であったり、恩赦であったりした。
ライヒがあの南西の街に足を向けられるのもそのお陰でもあったし、その名誉が響いたからこそ領主の座を父親が明け渡し、実家がもぬけのからになった理由の一端でもあった。
「そんな人が作ったダンジョンだ、気合いが入るぜ」
「うん。すっごい豪腕な魔物ばっかりだったら」
「それでもタニアは俺が守るさ。だから」
「ええ。支援は任せてよね」
首輪を付けられることがなかった冒険者たちの物語はこうして今も続いている。




