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没落令嬢vs金策  作者: yononaka


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20/31

没落令嬢vs日常のご依頼

「お願いです、急ぎで、何とかお願いです、お願いします!」


 わたくしが所用を終わらせるためにギルドへと立ち寄ったとき、頭を下げ、求めている声が響いておりますわ。

 一年に一度二度は見ますわね、こういう光景。

 大抵の場合、こういうのは──


「私は子供二人が全てなんです、こうしている間にも……ああ……」


 うろたえているのは母親だろう。

 服はお世辞にもキレイとは言えない、体もやせ細っている。


「わかっております。ですが、仕事を受けるかは冒険者次第でして」


 困った表情の受付。フィニーではない方ですわね。

 わたくしがフィニーにばかり関わっておりますけれど、一応他にも多少の人員はおられますわ。


 それでも重要な仕事や経験が多く必要になるものはフィニー頼りになっているのが実情。

 受付の方も本職ではなく臨時雇いとかそういうのなのかもしれませんわね。


 依頼書をちらりと見れば内容は賊に拐われた子供を助けてほしいということ、

 つまりは戦闘は不可避、その上で子供の生存は絶対。

 難易度はそこそこに高い。

 であるのに報酬金額はささやかなもの。


 服はキレイではない。けれど、汚いとも思いませんわ。

 子供のために、生きるために必死に働いている人間の姿をどうしてそう思えましょう。


「そこのあなた」


 依頼書を取って受付に。


「場所の情報が抜けていますわね、どの辺りなんですの」

「あ、えっと」


 とにかく急いで依頼にしたから抜けがあったのでしょう。

 その辺りを責める気にはなりませんわね。フィニーなら抜けはなかったでしょうけれど。


「地図で言えば、このあたりです」

「ふぅん」


 ひれ伏すようにしている依頼者に手を。


「この依頼はわたくしが果たしてみせましょう。あなたはここでお待ちになっていて」

「あ、ありがとうございます!!」


 そっと彼女を立たせ、イスに座らせるとすぐに出ていきますわ。

 時間との勝負ですもの。


 依頼を受けたのは憐憫からではないことは先に申し上げておきます。

 目的地がちょっとだけわたくしの領地に近かった。だから悪党の芽は今から摘んでおく。それだけですわ。



 ✘✘✘



 場所は廃村らしき場所。

 とはいえ、家としてすぐに使えそうな場所はなくて、あくまで目印としてここにたむろしているような感じですわね。


「せめて親の方を(さら)ってこいや! こんなガキじゃお楽しみにもならねえだろうが!」

「す、すんません。でも親つっても枯れ木みてえなもんでしたよ」

「それでもお楽しみはできるだろうがよ!!」


 声。

 わたくしは今潜んでおりますわ。

 職能の一つ、盗ぞ……(シー……)いえ、斥候(スカウト)としての技術。

 とてもじゃないけれど、とてもじゃないけれど本当のことは言えませんわ。貴族ですもの。ホホホ……。


 子供たちは……。少し離れた木? 柱? 野ざらしの何かに繋がれている様子。

 何かされていないようでなにより。何らかのド変態でないことについてのみ胸なでおろしておりますわよ。


 子どもたちこっそり助けて逃げ出す……。

 ううん。追走されると厄介ですわね。

 怒涛のごとくに暴れて数を減らして士気を砕いてから脱出のほうがまだ、


 そのあとにこの子たちに何かないとも限らない。生き残りはいないほうがいい。

 であれば、やるべきことは一つですわね。


 周囲を観察。

 廃村に陣取っているのでしょうね。

 柱だと思われるものは廃墟の残滓、大黒柱か何かだったのかもしれませんわね。

 賊たちは中央に陣取っていて、監視は薄め。

 数は視認できるだけで六人。ちらりと周りを見てきましたけれどそれ以上の人員は無し。


 一方でわたくしの武装はと言うと、フル装備からは程遠い。

 領地から都市までの移動をフル装備で行くには肩が凝るので軽量なもの。

 硬革の鎧と棍棒(クラブ)。せいぜい叩くにしても遭遇戦(ランダムエンカウント)の賊くらいだと思ってましたもの。

 いえ、これもある意味で偶然の依頼(ランダムエンカウント)かもしれませんけれど。


「人拐いが金になるなんて聞いたが、手間ばかりかかってダメだな!」

「もっと金のある奴を狙いましょうよ」

「ファミリーのネットワークに噛ませてもらえりゃあ人身売買だってできるだろうによお」

「どうなんすかね。一番上の人間がそんなにやる気がないってギュストークさんも言ってましたし……」


 などと酒を飲みながら話している。

 ファミリーってのは十中八九、裏社会的な意味での反社会的組織(ファミリー)なのでしょうね。アドルインの治安は昔よりマシになっているとは思いつつも改善には程遠いですわねえ……。



 ✘✘✘



 ともかく、戦況は認識できましたわ。

 あとはどう戦端を開くかどうか……ですわね。


 わたくしが投擲(印地)でも学んでいたならもう少し話は楽ですが、あいにくとぶん殴ることと蹴り飛ばすことくらいしか得意分野はありませんのよ。


 乱戦で脅威となるのは弓持ち。

 相手の実力次第ではありますけれど、賊に落ちるような連中の手並みなんぞ大したことはないでしょう。油断はしません、冷静な分析の結果ってもんですわよ。

 となれば守りながら壊滅を目指す。……子どもたちを背にするのがよさそうでしょうね。下手に離れて戦って、弓矢で脅しの材料にされるのは美味しくありません。


 こそこそと子どもたち側に移動。

 わたくしの隠密行動はパーフェクトですわよ、ホーッホッホ。内心での高笑いですわよ。


 しくしく泣いている二人。年齢はまだ五歳か六歳くらい。かわいそうに。


「あなたたち、目を瞑っていなさい。すぐに全てを終わらせますから」


 声に驚きつつも、現れたゴージャスなわたくしの姿を見て叫んだりはしませんわ。見惚れなさいな。ホホホ。


「おねえさん、だれ?」


 小さな声で、娘。


「没落令嬢ですわ。人よりちょっとだけ殴りっこが得意なだけのね」


 そういってから一気に踏み込む。

 踏み込む間際に見えたのは二人が目を瞑った。言うことを聞けてえらい!


「ん……? な、なんだ!?」


 疾走してくるわたくしに流石に気が付くご一同。

 でも遅すぎましたわね。


「くたばりやがりなさいましィィ!」


 クラブが唸りを上げて弓持ちの頭を粉砕。


「誰だてめえ!!」

「二人目」


 手近な一人の頭を粉砕。

 頭ばっかり何故狙うのかって?

 当たりどころがよければ一撃で倒せるからですわよ。


「くそ、不意打ちなんて」

「三人目」


 もっと言うと、当たりどころが悪いと一撃で倒してしまうからっていうのもありますわね。


 残り三人になる頃には相手も態勢を整えている。

 リーダーらしき男か弓持ちか、どちらから片付けるべきかは悩んだのですけれど、リスクはやっぱり削れるだけ削るべき、という判断でこの状況に。


「ここがどこだかわかっておりますの?」

「ああ? 知るかよ。テメエこそ俺たちが誰の下に付いてるかわかってんのか?」

「知らねえですわぁ」


 そう言いながら一歩。

 三人のうちの一人が「じゃあ死ねや」と踏み込み返してきますわね。


 構えは頭を守るようにして剣を立てたもの。

 互いの攻撃圏内に入った瞬間。一瞬でクラブが腕、脚、頭の順で一気に砕きますわよ。

 コイツは昔、一党にいた俸給騎士と名乗っていた人物から教わった護衛が扱う無力化するための技術……なのですけれど、どうやらクラブでやるのはパワーあり過ぎらしく、無力化(永遠に)となっちまうのが問題なんですわよね。


 なのでこういう状況で、頭をぶん殴るのを印象付けておいて別の箇所を叩いて制圧するために使いますわよ。

 頭ばっかり殴って壊すことが好きなヤバめの戦闘屋だと思わせておくのも戦術の範囲ですわよ。ホホホ。


 残りは二人。


「俺らの上にゃなあ、ギュストークさんが付いてんだぞッ! わかるか!! ギュストークさんは──」


 と言っているときに残った手下が逃げようとする。それを手に持った斧で引き裂き殺した。


「一人になっちまいましたわねえ、よかったんですの?」

「逃げるってならどっちにしろ一人になるからな、こっちのほうが気分がいいッ!!」

「そういう考え方もありますわねえ!」


 ギュストークが何者か過分にして存じ上げませんけれど、どうせチンピラの親分だとかでしょう。

 どうあれ小粋なお話をするつもりはありませんわ。彼の背後に何があろうと仕事を受ける時点で親子を再会させることは確定している。それを邪魔するならどんな災禍でもクラブで砕いて差し上げますわ。

 つまりやることは、踏み込む。


 相手も応じる。クラブに斧を叩きつけ、刃を食い込ませる。捻る。

 斧の制御を不意に奪われ関節技を掛けられかけたかのように腕が動かされたのに驚く相手。力で制御しようとした瞬間に手を離せば勢い余る。その瞬間に拳を顔面に一発二発。実戦僧兵(リアルモンク)から学んだ拳の打ち方。白兵戦においてもっとも速い結果発生物。ソレこそが己の拳ですわよ。

 鼻血を吹いてよためいた相手の腕を掴み、関節を捻り上げ、腕から斧を奪い、顔面に返して差し上げます。


「ぎゅぎゅぎゅすすすすすすすと」


 最期までケツモチの名前を言おうとしながら死んでいく。哀れですわね。

 全員が確実に死んだことを確認。

 ぶっ殺した連中の荷物もしっかり漁りますわよ。行儀が悪いィ? 戦場の礼儀ってやつでしてよ。

 ……ん。この紙は……っと。とりあえず役に立ちそうですし、もらっておきましょう。


 そして、一通り終えてから子どもたちの元へ。

 束縛を破り、


「お母様の元に戻りますわよ」


 その言葉に二人は頷き、助かったことへの安堵かわたくしに抱きついてきましたわ。

 であればそのまま抱えて、街へとダッシュ。

 落ちないように気を付けつつ疾走感をプレゼント、拐われて辛かった思い出なんて流れる景色といっしょに捨ててしまいなさいな。ホーッホッホ!!



 ✘✘✘



 再会に三人は泣いて喜ぶ。

 それから、用意できた限界の報酬を渡そうとするのですけれど、


「その前に、彼らに拐われた理由を伺ってもよろしいですか?」

「あ、う……その。夫が、よくない人たちと遊ぶような人で……」


 聞けばよくある話と言えばよくある話。

 ろくでなしの旦那がチンピラとつるんで、何らかの事情で旦那は死に、残されたのはそれらと遊んだあとの金。つまり借金。

 踏み倒すなんてできない相手。何とか返すために働いていたけれど支払いが滞り、仕事で家を空けているときに子どもたちが拐われた、と。

 女はどうしたみたいなことを言っていたし、本当は全員拐うつもりだったのかもしれませんけれど。


「これですわね」


 借金に関しての云々を記した、あの場から『もらっていった』紙。

 簡単な契約のための術が仕掛けられていたものの、片方の契約者が死んだことで効果が消える程度の安物ですわね。

 破ったところで大したことはないでしょうが、一般人(パンピー)を騙すくらいの道具にはなる、と。


「これ、処分しますわよ」

「それって……」

「大丈夫、もう追ってくるものもいませんから」

「ありがとう、ございます」


 ただ、それだけで解決もしないでしょうね。

 ギュストークとやらが今回の件で彼女たちを探すかもしれない。

 喜び、泣きつかれた子どもたちは母親の傍で寝息を立てている。


「引っ越しませんこと?」

「引っ越し、ですか?」

「ええ。わたくしこう見えても荘園を経営していますの。最近は宿を開いていて、そこで働いてくださる若くて体力がある方を募集しておりまして」

「で、ですけど」

「一応、超帝国法的には国家内での引っ越しに問題が出たりはしませんわよ」


 領民を増やすために他の都市から引っ張ってくるのはあまり行儀がいいとは言えない気もしますけれど、超帝国的には『魅力がない場所が悪いから人が減るなら頑張れ。超帝国に仕えていない領地から出るのは絶対に許さんけども』というスタンスなんですわよね。


「その、……ご迷惑をおかけしそうで」

「働き手を得られるなら多少のご迷惑なんて弾き飛ばして差し上げますわ。それに、」


 子どもたちに視線を。


「働くにしても何にしても、守りやすいところのほうが安心ではなくって?」


 領民たちはジジババが多いですけれど、そのぶん育児経験も豊富。

 悪党が来ようものなら疑り深い彼らにガン詰めされること必至。強引な手段になれば老い先短いからと無茶なことをしかねない爆弾みたいな方々ですもの。

 ある意味で頼りになりますわ。……なんかアブない連中のような言い方をしてしまいましたけれど、わたくしも幼い頃にはよくよく守られておりましたから、領民を信頼しているんですのよ。


「お願い……します」


 手を握って感謝を述べる。

 細った指。まずはメシをガッツリ食わせて元気になってもらうところからですわね。

 彼女がわたくしに渡した報酬を握り返させて、引っ越し費用になさいと。


 そうしてようやくわたくしも所用を済ませて、帰りしなに彼女たち家族と合流してオルドホルムへと戻ることにいたしましたわ。


 ……一応、警戒はしましたけれどギュスなんとやらだの、チンピラのお仲間だのは現れませんでした。

 ちょっとした借金程度で大勢を動かすようなマネはしないのか、そもそも出された名前はハッタリだったのか。今となってはどうでもよろしいですわね。











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 冒険者と依頼と報酬


 冒険者が金銭を得る手段は基本的にはギルドから受ける依頼。

 依頼は基本的に依頼主が持ち込む金や物がメイン。

 条件を満たした依頼であれば国や市、ギルドが代わりに支払うケースも(家の近くにダンジョンなできた等)。


 ダンジョンは依頼で行くわけではなく、仲間を募って自主的に行くのが基本。

 放置が過ぎてモンスターがあふれるかもしれないという懸念からギルド等が特別な依頼(ダンジョン内での討伐依頼)がないわけではないが、レアケース。

 基本的にダンジョンで得たものを買取してもらって収益を出す。


 ダンジョンが市内やその領地内にある場合は所持側が依頼を出して、報酬ではなく逆に入場料を取って入らせるというケースもある。

 ライヒのようなギルドを仲介して入場を制限するのはまるで見られない形式。

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