没落令嬢vs支持
俺の名前はソロニール・ソロ・ソロンスタン。
職能──ってのはわかるかい。
ギルドが定めた技術の系統を指しているものさ。
殴りっこが得意なら戦士、傷を癒やせるなら治癒士……そんな具合にな。
狩人から冒険者に転身したなら弓士だとか、持っている技術で評価されることも多い。
ちなみに狩人は狩人でも罠を専門としているなら弓士にならず罠士だとか解体士だとかという具合になったりする場合も……っと、雑談が過ぎたな。
俺の職能は戦士、治癒士、斥候。
一人三役。仲間なんて要らない。
孤高のソロニールとは俺のことだ。
……フッ。
少し格好付けたな。
本当は人との接し方が難しくて、一人でやりくりしているうちにそんな風になっちまった。
じゃあカタギの仕事に戻るのはどうかって?
……フッ。
そっちのほうが客商売をする可能性が高くなるかも、だろう?
そうじゃなくたって日々他人と接せねばならない。
報連相ができるなら一党を組んでいるさ。
無理だな。俺には。
俺は放浪している。
一つどころに留まれない性分でね。……アイツ、ずっと一人で戦ってる寂しい奴って思われてそうで苦しくなるから……。
そうして流れ流れてアドルインという交易都市に来た。
交易都市といっても寂しいもんだ。敵対している国家、ベイシンに隣接していれば交易も何もないか。
国家同士の喧嘩で苦労するのはいつもこうした末端だ。
俺が嘆いても解決はしないが。
冒険者ギルド。それなりの大きさだ。
中へと入る。
「ホーッホッホ!!」
高笑いが聞こえる。
視線を向けてみればそこにはゴージャスな髪の毛をした女が高笑いを上げていた。
状況はわからない。楽しそうでなによりだ。
受付へと進む。
「すまない。この街に来たばかりなのだが、懐が少々寂しい。何か仕事はないだろうか」
「位階は……なるほど。36……と」
冒険者の位階、つまりは実力の指数といったところだ。一応の最高位が100とされているが、それはもはや選ばれしもの。勇者と共に戦って勇者並に活躍できる存在だろう。そんなものは見たことがない。
一般的な冒険者で、それなりの実力があって20~30。
36はそれなりに毛の生えたベテランといったところだ。
が、俺のはあまり当てにならない。一人で仕事をするがゆえに危険度が少ないものをメインにしている。
それをメインにしても金にならない。
だから数をこなす。数をこなせば実績が増える。
そうなれば自動的に位階はあがってしまう。そういうことだ。
毛の生えたチキンちゃんってわけだ。
あとはそうだな。俺はそういうことには無縁だが、位階というのも降格処分というのもある。
依頼の失敗や問題行動を起こせば位階は下がるから、数値はやはり目安程度だ。
「では、こちらなどはいかがでしょうか?」
受付嬢はなかなかの観察眼をお持ちだ。
こちらがソロであること、その歴が長いであろうことを見抜いて一党でなくとも受けられる仕事を幾つか出してくれた。
「ゴブリン退治か」
「駆け出しには厳しい仕事でして……」
「請け負わせてもらおう」
そうして、ゴブリンの巣穴に向かうことになる。
知能があり、殺意があり、性格が悪い。それがゴブリンだ。
油断すれば中級位階のチキンちゃんはあっさり殺されるだろう。
だから油断などしない。
「《均一装甲》」
職能には含まれていないが、支援術も多少心得がある
急所となる部分を主に守ってくれる防具を愛用しているが、それは逆に言えば急所以外は無防備手前程度の防御力しかない。
怪我は恐ろしい。一人旅となれば助けてくれるものはいない。ちょっとした怪我が命取りになるかもしれないという恐怖心から覚える至った装甲強化の支援術。正確には高い強度に合わせた防御力を得るもの。
特定の部位と特定の部位を平均化した値だけ、防御力を得る……と平文的な説明にすればそういうものだ。
硬さや素材が大きく開かれていなければいないほど効果は大きい。
革鎧と人皮はある程度似ているという判定がくだされるからか、硬革の鎧の防御力を皮膚に共通化させる力を得るのだ。
この支援術により全身がそれなりに保護されているという……その安心感が一人旅をさせる勇気を与えて続けてくれる。
ゴブリンの巣穴へ入る。
とはいっても、やることは手慣れた虐殺だ。
特に説明することも、見て楽しいものもない。
派手な無双はできない。角待ちして殺す。相手の隠れ場所を逆手に取って殺す。死体を利用して殺す。
なんでもやる。なんだってやれる。
なぜなら俺は一人。後ろ指を指されるような戦術だって取れる。なぜなら目撃者がいないからだ。
俺は徹底したチキンスタイルでゴブリンを全滅させる。
最奥にいたゴブリンの術士と思われるものは力を発揮する前に殺した。何ができるかは知らない。興味もない。
ただ、彼が持っていた杖はいただいていく。部族の長を示すトーテムだ。持ち帰れば勝利の証となるだろう。
そうして、俺はアドルインに戻り、報酬と信頼の第一歩を勝ち取るのだ。
暫くはこの街に滞在することになるのだから信頼というのは大切なもの。なにせそれがあれば、
「孤高とかって呼ばれてるけど仲間がいないだけだよね」(ヒソヒソ)
とかされる可能性が減るからだ。
事実だとしても少しだけ傷つく柔肌チキンちゃんなのさ。
ギルドは賑やかでいい。裏路地はやや危険な匂いがするが慣れたものだ。
少しくらいダーティな方が宿が安いから助かるというもの。
安宿を確保した後に酒を飲み、アテを喰らう。この毎日を俺は愛している。
✘✘✘
俺の名前はソロニール・ソロ・ソロンスタン。
ソロンスタン家の長男であり、父祖ソロニールの名を継ぐもの。
偉そうな名前だが、貴族でも騎士でもない。職業は……まあ、今はいいだろう。
今日も仕事をこなした。予定よりもあっさりと終わった。
もう一仕事できそうな感じだ。
それを伝えると、
「でしたら、オルドホルムのダンジョンはいかがですか?
ソロニールさんならお一人でも踏破できるダンジョンですよ」
と進めてくる。
ちなみにファーストネームで呼ばれるのは一般的だ。持っている名前の中でいずれを使うかは場所次第だが、冒険者の場合は個人の功績が高いのであればファーストネームで呼ばれる。
名誉や伝わっている風聞が強いもので呼ばれるのが通例、つまり個人の功績がメインである冒険者だからこそファーストネーム呼び、とそういうことだ。
そのダンジョンの説明を受ける。
金稼ぎに適しているダンジョン。夢のような場所だがそれ故に混み合うし、それだけを目当てにするものは治安を乱す可能性があるのでそのダンジョンに招待されるためにはギルドの仕事を幾つかこなして判断されるらしい。
それを知らずにやっていた俺からすれば予期せぬ幸運に預かった気持ちだった。
そうしてそれを受けてオルドホルムへ。
田舎だ。
まぎれもなく田舎。
だが、それに反して来ている人間が多い。
ダンジョンを中心に商業が成り立ちはじめているようだった。
宿、食事処、医院。
必要なものはある。
そのどれもが格安だった。
ダンジョン。
入場のための手続きをしようとして、一人で入ることを告げると受付が、
「一人で、ですか?」
と心配そうにしていたが、いつぞや見た高笑いしていたゴージャスな女冒険者が、
「彼なら大丈夫ですわ」
ギルドから渡された証明と俺の職能などが書かれた紙(あくまで概要だけで詳細は出していない配慮がある)を見てそう告げる。
ここで顔が知られた人間なのか、それを聞くと受付もすんなりと、「失礼しました。では、いい狩りを」と送り出してくれた。
なんてことがあったが、無事ダンジョンに潜り、踏破した。
受付嬢の言うとおり俺のような独り身でも攻略が容易だった。
その割に手に入るものはしっかりと得られた。
ドロップはそれなりにいいものであったが、買取に関してはあくまでギルドまでいかねばならない。
その辺りでWin-Winの関係を築いているのか。
考えた人間は俺と違って対人つよつよ人間なのだろう。まったく、かくありたいものだ。
それにしても腹が減った。
よく考えてみれば朝に軽く済ませたきり。この場所に来る前に仕事をこなし、来るために馬車に乗って、到着してダンジョンを攻略して、腹が減って当然だった。
食事処へと足を向ける。
「奥の座席へどんぞ」
ひどい訛りだが、それが心地よい暖かさを感じる。
「メニューはこちらですだ」
「おすすめの欄のものを全て一人前ずつ」
「かしこまりましただ、多いですけど大丈夫ですだか」
「ああ。大丈夫だ」
何せ腹が減っている。
元々食べるほうだという自覚はあった。
「まずはジャガイモを煮た奴ですだ。こいつで暫くお待ちくだされや」
甘辛い味付けだ。郷里の母を思い出す。そんな味がした。
「ジャガイモポタージュですだ」
柔らかな塩味。人によっては苦手だからだろう、香辛料も用意されているが入れるのは自由、と。
心遣いがありがたい。
俺は粗忽ものなのでビシャがけする。
辛くなった。それがいい。
「ジャガイモパンですだ」
説明が難しいパンだ。名前からしてジャガイモがゴロゴロ入ったパンかと思ったが、普通のパン。
芋の風味がする。
なるほど、どうにかしてジャガイモからパンを作り出したと。料理に疎いのでそういう方法があるのかすらわからないが、これだけで食べさせるわけでもない感じもする。
ろくに見ずに注文したので次に何が来るかもわからない。
それがいいんだ。食事に楽しさが追加で生まれている。
「今日の獲物はイノシシでしただ。分厚く切ったのを炒めてスパイスソースで絡めましただ」
このためのパン。
それがわかるほどに濃い味付け。油の暴力的な甘み。食いでのある肉質。
野暮ったいジャガイモ味がするパンがここに来てそうした前のめりな味付けを和らげてくれる力がある。
それから幾つか皿が並び、デザートもいただき、食事が終わる。
料金は恐ろしく安かった。やっていけるのかと問えば、利益はわずかだが冒険者たちのためにやっていることで、彼らが口伝えで広めてくれれば薄い利益でもやっていけるようになるだろうからと。
「まるで慈善事業のようだ」
思わず口にすると、
「領主様も元は冒険者で、お金に困ることがあったからこういう場所をお作りになったそうですだ」
「『のよう』ではなく、実体的に慈善事業だったのか。……そんな冒険者がいるのだな」
かくありたいと思えすらしない。
きっと物語に語られる聖人のような人なのだろう。優しく、穏やかで、人のために祈る。俺とは違い悪辣な奇襲なんて絶対にしない、そんなお人なのだろう。
集落の一角には壊れたものを置いていくスペースや、募金箱が置かれた祠めいたものがあった。
前者も廃品を再利用に回すのだろう。ダンジョンに入る前に装備の貸し出しの項目があったのを思いだしていた。
懐には今日の戦利品の中で、換金しやすそうなものが幾つかある。例えば魔石だ。
俺はいやしくも中級冒険者の位を預かっている。
ここの領主の慈悲に触れて、その中級が何もせずに得をした、よかったと帰るべきではないだろう。
「……イノシシのスパイスソース焼き。たいへん美味だった」
そう小さく呟き、食と慈悲に感謝し、掴んだ魔石を募金箱へと入れた。
ちょうどそこに天使種の美しい少女がこの辺りの清掃のために現れた。
見られたのは少し格好悪いな。俺はこういうことは隠れてやりたいタイプだ。
「あ、あの。ありがとうございます!」
「いや。いいんだ。……食事がとてもおいしかったよ」
「本当ですか? よかった。近々メニューが増えるので楽しみにしていてくださいね」
「ああ。楽しみにさせてもらおう」
そういって背を向けてオルドホルムから去ることに。
このままアドルインにいてしまえば根を生やしてしまいそうだ。それは俺のスタイルじゃない。
最低限の報告を済ませたならあの街を立とう。
近々メニューが増える、か。
であればベイシンを含めてぐるりと巡って、暫くして戻ってくるとしよう。
その頃にはどんなメニューが増えているか、それを楽しみにしていれば更にこの命を大切にできそうだ。
✘✘✘
アドルイン。
ソロニールが去ったあと。
「あら、フィニー。最近仕事をモリモリしていた冒険者の方、いらっしゃらないのですわね」
「ソロニールさんのこと?
あの人、一つどころに留まらないようにしているらしくって、また別の街に行っちゃったんだよね」
「気持ちはちょっとわかりますわね」
一つどころにとどまって安定を求めることは冒険者なのかと在りし日のライヒは考え、旅をすることもあった。だが、結局危険な仕事をしている以上は場所はあまり関係のないこと。危険に挑むからこその冒険者であればこそ場所そのものはあまり関係ないと彼女は結論づけた。ただ、それが全ての冒険者に対する答えだとは思っていない。
ソロニールのように各地を巡って冒険をするという生活そのものにライヒは今も憧れがある。
さておき、生真面目に働く孤高の冒険者はそれなりに目立っていた。
空間を明るくするような人間だと評価されて目立っていると見られていたライヒのように、
空気を変えずとも粛々と街や人々の平和のために仕事を完遂し続ける男はやはり目立つものだ。
陽と陰と言い表すよりは昼と夜。そうしたものに近い。どちらも人の目が向くことが多い。
「そういえばソロニールさん、褒めてたわよ」
「何をですの? わたくしの美貌とか?」
「そうだね。そうかも」
「ああ。はいはい。返事をミスりましたわよ。ごめんあそばせ。で、なにをですの?」
「オルドホルムの食事。暖かみがあっておいしかった。メニューも追加されるそうだからそれを食べに戻るのを楽しみにしている、って」
フィニーは多少自分の口ぶりに合わせやすいようにしはしたが、使われた言葉はそのままだ。
ライヒもフィニーが下手に言葉をいじらないことを知っているので、
「戻る、ね。ふふ、少しずつファンが増えているようで嬉しいですわね」
現状は決して儲かっているとは言いがたい。だが、軌道には乗り始めた。
ソロニールという孤高を貫く奇妙な男ですら彼女の進めているものを褒めて去っていた。自らの目的と行動が褒められたことにライヒは小さく笑みを作る。
──もっと発展させて、彼や他の冒険者のみんなの笑顔を作らせていただきますわよ。……勿論、お金も頂戴しますけれど。
そのように意志を更に固めるのであった。




